308.テレビ戦記「大西洋 戦争の世紀」
トリック特技プロの超大作が世間の評価に反し大ヒットを飛ばした一方、ヨーホーテレビの新作、「大西洋 戦争の世紀」が安息日の19時から一時間、放送を開始。
キリエリア2では歴史大河、ショーウェイでは未来ゴーレムアニメと強豪のひしめく時間帯で逆転を狙い、その狙いはまずまず当たった。
「重厚なドラマと焼き増しの特撮」との厳しい評もあったものの、視聴率40%、強力な裏番組相手に大逆点を果たした。
だが。
「かつて60%を誇ったのが大予算を投入して40%。
やはり一度奪われ根付いた視聴習慣は戻らない」
とトリアン薬品は早々に損切りに走った。
1クール打ち切りを打診したスポンサーに、今度はセシリア社長がキレた。
「力不足はお詫びします。しかし切り捨てる事のみを正しいと思う商会とのお付き合いは今後お互いに考えましょう」と、別のスポンサーを募り、1時間枠を維持した。
ここに、テレビ放送開始以来続いたトリアンアワーは消滅した。
高い収益を社会に還元するために始めたトリアン薬品の事業は、不況という目に見えない敵との戦いで、目先の視聴率に右往左往した結果、ついに撤退という不名誉な幕引きを選んでしまったのだ。
なおこの年まで同社の収益は、実は悪くは無かった。
トリアンアワー開始以来昇り調子だったのだが、この年を境に下降線をたどる事になる。
同社は部門別収益を公表しなかったが、関係者曰く
「大部分を占めていた子供向け薬品や美容関連の売上が落ちた」
との事で、同社の成長とトリアンアワーの関係は、いやリック社長との関係は収益に大きく関係していたのでは、とささやかれる様になった。
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「派手にやった割にはイマイチだったよー」
「嘘仰い、独立プロとしてはケタ違いの大成功でしょう?」
例によって白亜の殿堂でセシリア社長とリック社長がお茶を飲んでいる。
「いやー、先行投資がデカくて」
「ああ、『バーサタイル70』ね。
あれは我が社が使い倒させて貰います」
「へ?」
セシリア社長は「特撮を駆使した宣伝映像」をスポンサー各社に持ち掛けた。
人工衛星が撮影した地球の姿が家庭に、食堂や酒場に、駅前に映し出される。
宇宙や地球というものへの関心が高まっている。
そこで、宇宙や先端素材、先端技術を題材にした宣伝映像が出来ないかとの声がヨーホー映像に寄せられ、それをヒントにセシリア社長が逆セールスを掛けているという訳だ。
この活動は実を結び、高度で高額な合成技術を駆使した広告映像が発注された。
各社の商品が宇宙の果てから飛んで来る、機械的な光や数式、文字列が地平の果てへ向かって飛んで行き、文字列が消え去る地平からラジオカセット録音機の姿が徐々に浮かんで現れる。
こんな変身英雄の特撮場面の様な映像が求められ、オプチカルプリンターを廻して出来上がっていった。
テープの音響が光の輪を描いて広がっていく録音再生機。
地球の裏の音が光となって大気の中を反射してキリエリアへ、そんな電波も収音再生するラジオの映像。
精密機器から食料品、果ては新素材の衣類や生理用品まで、特撮、光学合成を駆使して宣伝映像が撮影され続けたのだ。
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「ハイヨーイ!スターッ!爆破!」
クランの0番スタジオでは広大な宮殿が炎上していた。
ヒノデ国王宮がベスプチ軍の巨大爆撃機数千機による無差別爆撃で炎上する場面だ。
他にも子供を始め避難民がひしめき合う神殿が爆撃し群衆が焼き殺される場面、宮殿から民家まで屋根を突き破って内部で発火する、非戦闘員の殺戮に特化して開発された燃焼爆弾の描写も他のスタジオで撮影されていた。
屋外の大プールでは空襲によって炎上、擱座した連合艦隊が撮影されている。
ショーキさんらしい爆発の連続で、10m大の戦艦のミニチュアが爆発炎上し、内部の仕掛けで軍港内に着底、横転する様が撮影されて行く。
「特撮風景見てるだけでウンザリする惨状だねえ」
「リッちゃんが書いた話だろ」
これら特撮場面は35mmではなく、ましてや今やテレビ映画で主流となってしまった画質の粗い16mmフィルムでもなく、パノラマ画面70mmで撮影されている。
後年に製作される可能性の高い劇場大作用に流用出来る様に、との配慮である。
既に開戦時に機送艦と魚雷、艦上攻撃機による敵艦隊との戦いを指揮したヒノデ軍の司令が前線視察中に撃墜される悲愴な場面、彼我の中間地点の島嶼の争奪戦・消耗戦、完全なる自滅で再建中の海上飛行戦力を全て失う愚かな豪雨夜間爆撃失敗戦等の特撮が撮り上がり、納品され放送を待っていた。
今でこそ過去の大ヒット作の使いまわし(実際は未使用の別カットなのだが)と揶揄されているが、徐々にヨーホー特撮の実力がテレビ画面を席捲するだろう、そうリック社長は願っていた。
特美倉庫では、究極の非人道的兵器、極大魔法兵器を描くために用意された産業奨励館や時計店の大縮尺の、人の背丈ほどのミニチュアが仕上がっていた。
かつて「世界最終戦争」で作られたのと同じ、焼き菓子で作られ、逆さ吊りにされ下から爆破されるミニチュアである。
時計店は普通にセットされ、横からの爆風で一階が吹き飛ばされ、重く作られた2階が1階を押しつぶし落ちて来る設計である。
その奥では民家のスレートを特美班が張り付けている。
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放送当初こそ、既に多くの人が観て知っている勝利と傲慢と敗北の物語だった。
しかし物語が進むにつれ、硬直化した国家、軍隊が敗北続きの現実から目をそらす愚を語っていく。
膨大な資源と生産力と、それらが生み出す絶対の戦力を持つ侵略者ベスプチ国の野望を描く。
更にはその両国を戦争にけしかけ漁夫の利を狙う「絶対平等社会国家」の暗躍が描かれて行く。
安息日の夜に相応しい様に、適度にマイルドに。
例によって主人公である若き軍人を中心にメロドラマや家族ドラマが描かれるが、大西洋南部沿岸への経済進出で利益を貪る商会群と徐々に関係を深めてしまう主人公の親や「絶対平等社会」主義にかぶれる若い弟等の姿もヨーホー名優陣が描き上げていく。
嘗ては主人公の友人であった敵国ベスプチの軍人も、戦功を上げ昇格するにつけ、国家上層部の侵略欲、美辞麗句に飾られたジェノサイド欲に触れ、更に「絶対平等社会」国家の手先の多さを知って苦悩する。
敗北に次ぐ敗北、ほぼ全員が戦う前に餓死してもそれを「勝利」と宣伝するヒノデ軍。
それに加えて新撮の壮大な特撮シーン、それも敗北の悲愴な場面。
「見ていられないし見たくないけど、見ない訳にはいかない」
いつのまにかそんな評価が増えていった。
2クール目に入るころには視聴率が50%を超えた。
トリアン薬品は撤退を悔やんだが遅かった。
今ではレイソン電機が名乗りを挙げ、このテレビ映画の予算を担っていたのだ。
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大プール、オープンで撮影された産業奨励館のミニチュアが逆さづりにされ、ミニチュアの高さに合わせて高い位置にセットされた70mmカメラではオープン撮影のフィルムを元に位置合わせを行い、カメラセットが終わった。
「ハイヨーイ!スターッ!カメラスタート!」
70mmのデカいカメラが音を立てて回る。
閃光ヨーイ!光って!」
閃光がミニチュアを照らすと、産業奨励館の頭上、ミニチュアの下で大爆発!
ドームは骨組みを残して地面にたたきつけられ、建物の上層部も一瞬砕け落ち、直後宙へ舞った!
この後の、戦う武器など持ちようもない女子供が生きたまま焼かれ、のたうち回る姿は本編班の仕事となる。
しかし特撮班はこの後破壊の場面に続いて、焼け野原から舞い上がった放射性降下物が雨雲となり、地上に強いガンマ線の雨を降らせる「黒い雨」の特撮が待っている。
これも「世界最終戦争」で描かれた、極大魔法で観測されるであろう現象だ。
これら悲惨な物語から目を逸らせなくなった視聴者は考えた。
「キリエリアは勝った。栄えた。でも今は本当に幸せか?」
「あのヒノデという失敗国家は、なんでああなってしまったのか」
「繁栄の果てに驕って破滅が待っているのではないか?」
そんな自問自答がキリエリアに広がっていた中、悲惨の上に悲惨を重ねた破滅の映像が安息日の夜を染め上げた。
あまりの光景に家庭も食堂も酒場も駅前も、沈黙に包まれたという。
そしてヨーホーテレビに苦情が殺到した。
だがそれは想定内で、担当者は粛々と対応した。
更に視聴率が60%に跳ね上がったとの報告が上がり、撮影が終わり撤収中だった撮影所に喝采が響いた。
最終回のヨーホーテレビでの同時視聴会には例によってリック社長以下トリック特技プロがゲスト扱いで呼ばれた。
「ライブラリフィルムの撮影者」という結構苦しい理由だったが、しかしそこにいないと逆に不自然な程、彼らがいるのが当たり前になっていた。
「やあ!御夫人!またお会いしましたね!」
「デっちゃんの奥さんもすっかりクランの一員ですなあ!はっはっは!」
マイちゃんやゲオさんと言った重鎮が、そしてダン・ウェーラー氏やデッカー・ナンダー氏と言ったかつての青春スターが、歳を重ねて渋くなった、しかし爽やかさは変わらない笑顔をミーヒャー夫人に向ける。
「あひゃ~!あわあわ!あ!この度は完成おめでとうございます!」
「「「わはははは!」」」
放送が始まり、ヒノデ国は盲信的で破滅思想を持った青年将校の反乱を鎮圧しつつ、皇帝が国民に放送で降伏を宣言する。
各地の軍は降伏したが、「絶対平等社会国家」はヒノデ平民への略奪、殺戮、強姦を一切止めない。裏切り者の将校が投降するが、真っ先に大衆の前で処刑される。
後半は戦争裁判。
「全ての国が持つ、防衛戦争の権利を行使した事そのものが罪というのであれば、私は有罪だ」
「無罪を主張しないと裁判は行われない、無罪を主張せよ!」
「御託は良い。私も貴国も戦争を行った以上、同じく有罪だ、最高責任者は死刑となるべきだ」
「極大魔法という、戦争協定を無視した野蛮人!人類に対する罪を犯した悪魔ベスプチ大統領こそ最悪の戦争犯罪者だ!ここで裁け!」
「被告の発言は無効である!」
「我が麾下に於いて占領地での略奪は厳に禁じ裁いた、その記録には虐殺等ない」
「あったか無かったかなど問題ではない!」
あまりに一方的かつ理不尽な、私刑よりも醜い復讐劇であった。
最後、占領軍司令官を、ヒノデ皇帝が訪問する。
「命乞いに来たのだろう」
司令官は一国の皇帝を軽装で、しかも玄関先で迎えるが。
「朕は如何なる処遇をも受ける。死ねと言うなら死ぬ。
しかし、戦争に責任を持たぬ無辜の民の命は、何卒救い給え」
ヒノデ国を植民地化しようと計画していた司令官は強い衝撃を覚えた。
(何と言う高貴な精神か。
この国は、この皇帝を頂点に精神的に一つになっていたのだ!
この国は…必ず復興する!)
エンドテーマでは焼け野原のヒノデ国、人々が徐々に復興する姿を描き、世界条約に加盟する場面を数秒づつ描いて終わった。
ヨーホー特撮の「海広」、「カタストロフィ」そして「戦争の世紀」は、いずれの作品も、悲惨な崩壊や破滅、そしてその先の希望を描いて見せたのだ。
「速報です!視聴率65%!他局に圧勝です!」
「「「うおー!!!」」」
念願の70%こそ果たせなかったが、3局相競っていた中からで40%台、そしてヨーホーの放送計画を知ってキリエリア2が最終回を1週遅らせるという反則技で、65%という数字をはじき出した。
最終的には68%は行くだろう。
「皆さんありがとう!お疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でしたー!!!」」」
マッツォ社長に、セシリア社長に向けて贈られた拍手喝采が場を包んだ。
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なお、リック社長以下英雄チームが映画とテレビにかまけている最中にも、諸国条約では東国擾乱鎮圧の論功行賞が行われていた。
無論、最高位はリック社長以下英雄チームの筈なのだが全員
「特撮と聖女セワーシャの出産に専念したい」
と固辞した。
それでは諸国条約の沽券に係るとの事で、諸国代表から聖女セワーシャに娘の名と出産の祝い金が贈られた。
その名前は、「ソラチム」。即ち、慰め。
聖女セワーシャと父である英雄アックスはその名を有難く拝受した。
なお、祝い金は2億デナリにも上った。
大規模戦闘、派兵となれば桁が違う出費が必要だったであろう。
勿論最初は固辞しようとした夫婦だが、諸国の代表の意を汲んで、東国での新生児病院の建設、産科小児科医師を育成するための基金に全額を捧げた。




