表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
307/368

307.超大作「エクソダス」

「エクソダス」は無事完成し、完成試写を迎えた。

 特撮は確実に進歩し、70mmのきめ細かい映像を、繊細な色彩を大特撮でスクリーンに映し出した。


「手堅い傑作だ、傑作なんだが」

「懐かしい感じがするなあ」

「そこだ。新しさを感じないんだ」

「そりゃ聖典が原作だからなあ」


 英雄チームが、本編スタッフが意見を交わす。

 リック監督は無言だった。

 いつもなら自信満々なマイちゃんも、

「ん~。やっぱ年かな」

 と小声で漏らした。


******


 そして関係者試写。

 王立中央劇場を借り切っての試写では、神殿関係者、大貴族は文句なしの拍手喝采を惜しまなかった。


「これぞ映画だ!」

「映画華やかなりし時が戻って来たぞ!」

「映像と音による聖典だ!」

「いっそ昔の『聖典』も今の技術で、リック監督の手でリメイクを!」

 絶賛だった。


 こうして好評の内に、ロードショー公開で予約即売した「エクソダス」。

 35mm一般公開も初日は大行列を成した。


「これ、20億行くんじゃないですか?!」

「そう上手く行くとは限らないよ」


「何でそんな事言うんですか!

 みんなも、私の旦那様も頑張ったんですよ?

 何より社長、あなたの映画じゃないですか!」


 ミーヒャー夫人が怒った。

 というより、リック監督と仲間達のために怒ったのだ。

「あ、ああ。ゴメン。

 失敗はしないよ。でも、20億までは行かない」

「なんで!」


「せいぜい15億。

 だけど、ホントはもっと行って欲しかったんだ。

 でも、俺たち、老けたかな?」

「老けた?」


******


 リック監督の言葉は当たった。


 平日の集客数がガクっと下がったのだ。


 ミーヒャー夫人、いや、トリック特技プロのミーヒャー専務は信じられなかった。


「平日の劇場で、空席が目立っています」

「ロングランは難しいね」

「神殿や学校の鑑賞会を受け入れている劇場はそこそこですが」

「元々値段下げてるから、収益にはイマイチ弱いね」


 結果、それでもロングランに突入し、国内で15億、海外を含め25億。

 大ヒットと呼ばれる10倍には乗った。

 ミーヒャー専務は一安心し、追加報酬をキャスト、スタッフに支払った。


 しかし関係者の前評判の高さに反する結果の所為か「思ったほどではなかった」と評価された。


 製作費の12倍稼いでも、独立プロが独自の配給網を組成してもこんな評価だった。


「なんで~?!」

 納得のいかないミーヒャー専務。


「説教臭いからかも知れないわね」

「聖女様が何言ってるんですか!」

「今更で悪いけど、何か引っかかってたのよ。

 今の若い人から見たらどうかな、って」


「あー、そうか。

 俺たち体は若いけど、考え方は古いんだ…」


 英雄チームは皆鉄道もラジオも学校も無い時代に生まれ育った。

 今は違う。彼らが必死に広めた鉄道やラジオや学校で育った。


 見識はより広く、知識はより多く、そして考え方はより自由だ。


「これも一つの実験さ。

 それより折角だから多くの人から意見を募ろう。

 そうだなー、いっそ意見を教えてくれた人に、抽選で景品を贈ろうか!」


 こうしてトリック玩具やヨーホー映画、ショーウェイ系列の出版社で意見を募集した。


 その結果。

「なぜ一番がんばった預言者だけ罰せられて、馬鹿な民衆だけが喜んで新天地に行けたのか理解できない」

「民衆が罰を受けて預言者とヒロインだけが新天地に行くべきだった」

「異民族だからと言って子供が皆殺しに遭うのは酷い」

「神様は理不尽だ」


「うぎゃあ」


 出来ではなくて聖典そのものを否定するかの様の意見だった。


「これは思った以上ねえ」

「主よ、これ、燃やしてしまうか?」

「いや、名前は伏せてありのままを神殿に報告しよう。

 んで寄せられた声の集計はしよっか…」


「リックさんの考えの、逆だったみたいですね」

 アイラ夫人が呟いた。


「何故預言者様だけが約束の故地へ入れなかったのか。

 何度も不平を言う民が許され、一度怒っただけの預言者様が許されなかったのか。

 説話にある征服者への熾烈な災いが意味するものは何だったのでしょうか。


 今更で申し訳ありませんが、この映画はそれをもっと掘り下げるべきだったのかもしれません。

 神殿と、あのミゼレ祭司様とよく、よくお話しして、納得がいく様に」


 そう言われて、リック社長は天を仰いだ。

「聖典、古典、超大作…

 欲目に、形に捕らわれて本質を見失っていたのは、俺だ」


******


「俺も同罪だよ。これは受け取れないよ」

 イナカン監督が大入り袋を拒んだ。


「いや、受け取ってよ。

 映画そのものは大成功だったんだからさ」

「リッちゃんの言い分、俺にもどっかしら心に刺さってたんだ」


「じゃ、みんなでパーっとやりますか」

「そうしよう!」


******


「俺も、大入り分はパーッとやっちまうぜ」

 と、主演のマイちゃん。


「後ろ向きな事は心にしまっときゃいいさ。

 それより折角の大入りなんだ。

 セプさんみたいにホンモノの良い肉と酒で、リッちゃんちで大騒ぎしようぜ!」

「いやウチの近くに妊婦さんがいるからさあ」


「そ!それなら白亜の殿堂程じゃありませんけど!

 我が社のスタジオで!」

「おお、専務のお嬢さ、失礼御夫人!

 是非お邪魔させてもらうよ!」

「ヒャー!マイト様カッコイイー!」

「はっはっは!俺様もまだまだイケてるか!ハッハッハ!」


(妻よ、ナイスだ!)

 主と仰ぐリック監督も自分も特技部にいた頃と同じ様に笑うマイちゃんに、デシアス監督も何か救われた気持ちになった。


******


「私も混ぜて欲しい」

「げ」

 ミゼレ祭司がやって来た。なんだか作業員みたいな恰好で。


「若い人の価値観、いや、若い人に聖典の真意を伝える努力を、神殿は怠っていないか。

 私はどうだったのか。

 宴の中で私は多くの人の声を聴きたいんですよ」


 こうして、大入りにも関わらず反省会の様になってしまった「エクソダス」の、身内の打ち上げが開かれた。


 追加報酬、大入り袋を辞退した分が費やされた宴となったため、それは良い酒や肉が供された。


 配給協力の各社からもセシリア社長やショーウェイの社長、主だった独立系の劇場協会長も招かれた。


 スプラシリーズ最終回の同時視聴会の様な、かつてのライバルたちが歓談する場がまたも開かれたのだ。


(リックさんのいる所は笑顔が絶えません。

 かの東国偃武すら最後は敵国の将兵がごちそうを囲んで宴を催したと聞きます。

 私は神様から良い贈り物を賜りましたわね)


 かつて華やかな演劇と文化を夢見たセシリア社長だったが、まさかこの様な裏方たちが各社から集まって労う場が再び開かれる事になるとまでは夢にも思っていなかった。


******


「聖典の教えは、これだけ豊かになった今。

 平民でも読み書きができ、多くの物語に触れる様になった今。


 一見理不尽に思える神の教えに潜む、人の驕り、真の信仰、長く伝えられる救いの物語を我ら神官が深く理解せねばならぬ。

 歴史を研究し、歴史的事実との検証も合わせて行う必要もあるかも知れぬ。


 そして我ら聖職者は、能く広く教える力を養わねばならぬ」


 ミゼレ祭司は総本山に、内密に私見を伝えた。


 その結果、本作の成果について以下の通り纏められた。

「映画は世の人の心を映す鏡である。

 人々に問い、説き、そして答えに耳を傾けるべきである」


 要は、引き続き投資して反応を見ようか、という結論に至った。


 リック監督の目論見、従来のスポンサーよりもより太い後ろ盾を得る、その目的は映画界全体から見れば大成功であった。


******


 とは言え、思ったほどではないにしろトリック特技プロは結構儲かった。

「独自配給網を組んだのが良かったですね」

「それをやってくれたのは、我が兄嫁のミーヒャーさんですよ」


「それは違うぞ、妻は主のお陰でショーウェイ系劇場にも旧ジャイエン系にも、大層話が通りやすかったと感心していたのだ!」


「『ゴドラン対トルドー』の時の采配を今でもみんな恩に着てくれてるんだよ!

 やっぱりリックのお陰じゃないか!」


「そーです!それにマイト様や色んな大スターとお近づきになれたし!うひひ!」

「妻よ…」

 ミーヒャー夫人は相変わらずだった。


「次は、ディーの人工衛星打ち上げですね!」

「大丈夫。必ず…は無いけど9割方上手くいくよ。

 上手くいかなかったら、俺が無理にでも」

「ヤメテリックきゅ~ん!

 失敗を繕ったら後からもっとおっきい失敗するんだから~!」


「…ゴメンナサイ」


 本作の収入はスタッフ、キャストへ還元され、リック社長はじめ英雄チームの取り分はまずセワーシャ夫人の出産費用に、次いで人工衛星打ち上げへの基金へ寄贈された。


******


「キリエリア王立宇宙開発公社よりお伝えします。

 地球撮影衛星サテリュム3号を載せたロケット、プレカティオ(祈り)8号は、予定通り衛星部分の切り離しに成功しました」


 王立宇宙開発公社の宇宙基地では、アイディー夫人協力の下、何度目かの地球探査衛星が打ち上げられ、幾度かの中止と点検を繰り返した後、見事成功した。


「只今サテリュム3号からの映像電波をボウ帝国の受信基地が受信しました。これよりその映像をキリエリア始め西側各国の皆様にお届けいたします」


 この衛星の使命は地球の姿を地上に伝える事であり、その使命はテレビ電波受信とともに即座に伝えられた。


「「「おおー!!!」」」


「テレビをご覧の皆様、宇宙から見た地上の姿がお判りでしょうか?

 只今サテリュム3号はボウ帝国北東部の洋上にいます。

 地球の回転がサテリュム3号よりも早いため、これから衛星が相対的にボウ帝国北部の姿を東から西へ、そして大陸中央北部、更にはアモルメ王国北部を撮影して参ります」


「あれが地上の姿なのか…」

「ところどころ白いなあ、雪か?」

「ありゃ雲だよ」

「雲のずっと上から見てるのか!」


 人々は宇宙から見た地球の真の姿を、テレビ中継で初めて観た。

 そして、鉄道開通、テレビ放送開始、諸国展示会以来、久々に実感したのだ。

 自分達は今でも、未来への道を歩み続けているのだ、と。


 それ以後もサテリュム3号は、宇宙から見た地球の姿を地球を何週かして撮影し、昼には地上の姿を、夜には夜半の街の明かりまで撮影し、ついには幾つかの未知の都市の所在を映し出す事に成功した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
映画への反応はいささかアレでしたが、衛星打ち上げは無事成功して良かったです。 未知の都市……いったいどこの国や地域がモデルなんでしょうね? どんな場所なのか楽しみです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ