305.東国偃武
リック監督がボウ帝国を訪れた日。
その日の内に諸国条約に対し調停依頼が無電とラジオ波で伝えられた。
キリエリア国王カンゲース6世陛下からから事前に情報を得ていた諸国条約会議は即刻応諾、早速各国から師団単位の軍が高速鉄道と飛行機で出発した。
とりあえずリック監督は状況を伝えに自宅に戻った。
「リック!」
英雄チームが、まだ妊娠初期を過ぎていないセワーシャ夫人も含めて集まっていた。
「聞いたぞ!テレビじゃ大騒ぎだ」
「また戦いになるのかしら?」
セワーシャ夫人の言葉に一同は険しい顔を禁じられなかった。
「あんまり騒ぎを大きくしたくないよね」
「また一人で突撃すんじゃないでしょうね?!」
「目立ちすぎるからみんなで行くよー」
「「「応!!!」」」
「あの~、映画は?」
「ポンさんに進めて貰おう、俺も見に来るよ」
後をミーヒャー夫人に任せて、英雄チームはアイラ夫人とセワーシャ夫人を残し王宮へ。
王命を受け、一同はボウ帝国宮廷へ。
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進軍し、村を略奪せんとするテッキ軍に向かって飛んで来た英雄チーム。
魔導士アイディーが結界を張り、英雄アックスと剣士デシアスが襲い掛かるテッキの兵を素手で殴り倒す。剣士とは?
そして英雄リックは
『ちょーっとここでお客さんを待とうかね』
と敵将の本陣がある天幕に乗り込んで、諸国条約との会見の場を設えた。無理矢理に。
『何奴か知らぬが!我らはボウ帝国の侵略に抗議するものである!』
無論向こうは向こうでこれを好機とボウ帝国を叩き潰す気満々であった。
敵将が凄むがリック監督は相変わらずの調子だ。
『はいはい。こっちはその調停をしに来たんだけど』
『邪魔だてするなら容赦…』
『やってみろよ!』
英雄アックスたち三人も天幕に。
その後ろにはこの3人に殴り倒されたテッキ軍の猛者たちの山。
『まあまあ、一緒にメシでも食おうよ』
『2日後には西側連合軍が来る。
侵略に対する抗議であればそれは認められるだろう』
『だが略奪なんぞは許される事ではない。
殴り倒すだけでは済まさんぞ!』
『諸国条約、展示会で見たでしょ?
じゅ、10数ケ国が集まってきちゃうんだよ~?』
色々お見通しなリック達に敵将は怯えた。
『ならば侵略の賠償だけでも求めるぞ』
『それは通ると思うよ。
じゃまあ、メシにしよっか』
「いつか見たカンジの場面だなあ」
「直接見た訳じゃないけどな」
「まあまあ、本番はこれから、トップ同士の手打ちだよ」
そういうとリック監督は準備しかかっていた炊事場へ向かった。
その日の食事はテッキ軍始まって以来の美味さだったという。
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翌朝、敵陣近くにイキナリ現れた滑走路に飛行機隊が着陸。
更に鉄道で大軍勢が現れた。
それら軍団は条約参加各国の旗を掲げている。
その間にテッキ軍は相手方の王都に色々使者を出していた。
リック監督はひたすら大軍の食事を指示していた。
『アイツ何しに来たんだ?』
訳が分からなくなった敵将が英雄アックスに聞くも
『飯炊きに来たんだよ』
『嘘だー!!』
謎は深まるばかりだった。
『でもおいしいな』
とりあえず食事の場は和んだ。
リック監督が改良を続けて来た諸国条約軍の戦時食は美味であるがボウ帝国軍とテッキ軍は違った。
粗末な食事にリック監督が手を加え、アイディー夫人が手伝う。
出来た食事に大喜びする両軍。
「大分空気があったまったねえ」
「そんなの出来るのお前だけだよ」
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更に翌日、諸国条約代表が仲裁を宣言した。
そして皇帝代理のガタイ第三皇子、カチン大臣がボウ帝国軍の撤退を約束。
『兄が迷惑カケマシター』
余りに素直だったのでテッキ側は拍子抜けした。
(これからの平和を求める時代、ガタイ皇子の様な柔軟な人物の方がこの国の皇帝に相応しいのかも知れぬ)
諸国条約代表団は一見腑抜けに見える皇子に期待した。
テッキ王国軍は王都から派遣された国王代理が帝都の明け渡しとボウ帝国領土割譲を迫ったが、代表団は
「ボウ帝国の侵略による被害者と遺族への賠償、軍費の支払い、常識的な範囲での賠償金は認める。
領土問題は別の問題である」
と過度な要求を諫めた。
国王代理は将軍から耳打ちされ、英雄チームを見遣る。
と、そこに轟音が。
空には数十基の戦闘機隊が飛来して来た。
『いっそこれを機に諸国条約入らない?
貿易とかいろいろお得だよ?』
『お詫びも兼ねて色々融通しますから』
リックとガタイ皇子が上から下からと国王代理に妥協を求める。
『お!王に奏上する!』
『ヨロシクねー』
3日後、テッキ王国はボウ帝国への諸国条約へ代表を送る事となった。
かくて東国擾乱は1週間も経たず鎮静化し、西側諸国との交易も再開したのだった。
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「ただいまー」
「パパー!」「ぱぱ~」
二人の娘が駆け寄る。ショーン家とジッセイダー男爵家の子供達も集まって来る。
「お早いお帰りで…」
留守を預かったアイラ夫人が笑顔で、ミーヒャー夫人が呆れて迎える。
「戦いは1日で済んだのにその後が色々面倒でねー」
「アレ面倒で済ますのが怖いなあ」
「主がいなくなったら世界は何かと面倒になるなあ」
「多分ね、みんな含めてね、後百年はそうそういなくなんないよ~」
「それはそれで世界がリックに色々頼りきりになりそうで怖いわね」
「あまり宜しくありませんね…」
色々感慨やら懸念を口にする一同だが。
「『エクソダス』の方は特撮も本編も予定通り進んでいます」
「専務、ありがとう。ポンさんにもお礼言わなきゃね」
「てかお前時々現場覗きに行ってたろ?」
ボウ・テッキ和睦の調停に参加しつつ、リック監督は時々現場に顔を出して可能な限り監督していたのだ。
「ホントはデシアスだけでも先に帰らせたかったんだけどね」
「相手は武こそ重んじる国だからな、我らの誰かが欠けては侮られたと思われかねん」
「全く面倒ねえ」
「これからもそういう面倒な相手と向かい合うんだ。
仲良くしましょう、ってだけじゃ相手のやりたい放題だよ。
キッチリ威圧する所は舐めんなって脅さなきゃ」
一同は納得した。しかしリック監督の言葉にある「面倒な相手」とは何も他国人、異文化だけではなかった。
話しの通じない、いや聞こうとしない、聞いてもなお己が利のみを追い求める様なものは、すぐ近くにもいるのだった。
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『ほほほ。近頃はそちらから来てくれるものよのう?』
『我が身を守るため、マトモに話できるのが閣下しかいませんから』
『…我が国の先行きが暗うて仕方ないのう』
リック監督はカチン大臣を通じてボウ帝国に東西貿易の安定を宣言する様訴えたのだ。
諸国条約は軍事的衝突が終われば交易も戻ると期待していたが、その考えは甘かった。
擾乱収束の報道が各国王立放送で報道された。
しかし商会の息が強くかかった新聞では、未だに
「交易再開の目途立たず」
「懸念される物資不足」
「更なる値上げに備えよ」
と商会にとって都合の良い提灯記事が並んだ。
そこに、リック監督の功が奏した。
新皇帝に内定したガタイ皇子がテレビ、ラジオで直接宣言した。
「戦いは諸国条約の仲介によって短期に収束した。
既に擾乱前と変わらぬ、同じ価格にて、同じ量の物資が西に向かっている。
平和に向けて仲介の労を厭わぬ各国の民に、無用な出費も、無意味な値上げも無き様、朕は諸国に今まで通りの通商を行うべく、いやそれ以上の物産を交易していく事を宣言する」
この放送を聞いてカンゲース6世国王陛下は感心した。
「単にリックのいう事を聞いて、というだけでもあるまい。
ボウ帝国としても交易が絶えれば経済が細り、テッキへの賠償もままならぬ。
むしろ『それ以上の物産』と言ったのは、テッキ王国の産物を西へ売り出す石の表れであろう」
東西交通の終点に近いアモルメ王国でも
「これは物価上昇を抑える為の、各国経済への『値上げ抑制宣言』だ。
気位の高いボウ帝国の皇帝が…あのガタイ皇子は特別としてだな。
権威主義に固まった帝国上層部を抑えて宣言したのだろうなあ。
これ以上は言わずもがなであろう?」
各国とも東西貿易の平常化、それに伴う物価安定を宣言した。
国営テレビを通じ、
「大量の穀物が着荷」
「新皇帝即位記念の美麗な磁気が祝賀特価で続々入荷」
「和睦したテッキ王国から見た事の無い織物が輸入」
「国営卸売展示会開催予定」
等々、続々景気の良い話が報じられた。
更に
「供給減による緊急事態は発生していない。
市場調査と照合し、異常な利益を上げた商会は追加課税の対象と見做す」
と、暴利を貪った商会に打撃を与えた。
更に更に、
「今が売り時だと深夜労働を強いられた」
「雇用を守るため超過労働は当たり前だと言われた」
「これがその命令書だ」
との従業員からの訴えを受け、不払い分の支払い、従業員への賠償、不正蓄財分への課税が行われた。
「そんなに重税を課せられたら商会が潰れてしまう!」
「そうなればこの国の商売が成り立たなくなる!」
「我らはその価値に見合う利益を得ただけだ!」
そう訴える商会もあったが。
ザナク財務卿が一蹴した。
「正しく商売を行い、物価を抑制しつつ従業員への手当を欠かさなかった商会も多数ある!
そもそも彼らにすればお前達が不当な値上げをせねば、従来の習慣に従って無駄に値上げする事も無かったと嘆いておる!」
「それは商会間の連帯に対する裏切りだ!」
「いや、お前達こそ買い手に対する裏切りだ!
今後横並びの値上げを厳に禁じ、強いたものに対し重税を課す法を奏上しよう!」
「「「うひー!!」」」
卸元である大商会の値上げは一旦は治まり、物価は沈静化した。
その次は小売り商会に対する、同じようなお叱りと仕打ちを繰り返す事になるのだが。
「儂も年か。
妻とのんびり領地に温泉と劇場を興して隠居したいものよのう」
とザナク公爵は嘆きがちになったという。
「ほーい、チャイヨーっ!」
公爵は一瞬そう答える声が聞えたとか聞えなかったとか。
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だが、これらの努力を無視するかの様に、消費者心理は冷え込んだままであった。




