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304.東国擾乱

 リック監督が先々の事に手を打ちつつ独立プロの枠を超えまくった超大作を製作している頃。


 ヨーホー映像は近未来戦記テレビ映画「大西洋 戦争の世紀」を製作中だった。


 その物語は、かつて「大西洋の嵐」を製作した際、リック監督が軍に協力を仰ぐために架空戦記、即ち彼の記憶にある異世界の歴史の蹉跌、後悔、悲惨を詰め込んだ製作メモだった。


 その後何作か製作された近未来戦記。

 本作はそれらを含めて、ヨーホー映画往年のオールスターを動員して近未来戦記を俯瞰する大作テレビ映画となる予定だ。


 尤も、特撮場面は過去の超大作からの流用なのだが。

「撮り直しゃいいのに」

「何億掛かると思ってんだよこの富豪様はよお!」

 流石にショーキさんがキレかかった。

「怒られたー」



 その内容は。


 架空の島国ヒノデ国が世界不況を大陸開発でしのごうとするが、過去に大陸を侵略して超大国を築いたベスプチ国と利害が衝突し、戦争に突入する。

 小国ながら国民の高い忠誠心、勤勉さがある。


 その悲劇的な努力で、大艦隊と強力な戦力を持つに至るが、資源が無い。

 石油も鉄も世界に輸出するベスプチ国はヒノデ国への禁輸を宣言し、戦争へ誘い込む。


 第三国の内通者による、破滅的な戦争を煽る声。

 敵国の、ヒノデ国を人間とも思わない侮辱的な外交。

 更に、ヒノデ国の慢心が安易な戦争への道、破滅への道を軽々と進ませてしまう。


 そして「大西洋の嵐」で描かれた、劇的な開戦。

 緒戦こそ優位に見えた。

 しかし軍部内の慢心、情報管理の不徹底、兵站、生産能力への呆れるような無関心。

 反面、ベスプチ国のキチガイじみた生産能力、毎週新造の機送艦が派遣され、緒戦で破壊した筈の戦艦も大部分が復活してヒノデ国に弾丸の暴風を降らせる。

 更に第三国による工作員の蔓延によりヒノデ国は破滅に向かう。


 ついにはベスプチ国は国際交戦規約を意図的に捻じ曲げ、

「ヒノデ国は乳幼児から胎児に至るまで戦争に参加しているので、非戦闘員はいない」

と宣言し、全ての都市を焼き尽くす巨大爆撃機を数万機も製造し、ヒノデ国が降伏交渉を持ち掛けて来ても拒否し、果ては新兵器の極大魔法兵器をも実験のために大都市へ投下する。


 情報軍参謀部が書いた検討用台本26回分。

 国民に対する戦争についての教育用として翻案された、あまりに重すぎる内容。


 しかし安息日の夜に放送されるため、あまり過激に難解にならない様、一兵士、一家族を主人公にして描かれた物語を見て、リック社長は安堵した。


「これをみんなが観てくれたら、キリエリアは戦争する前から負ける様な事はないな」

「戦争は戦って見ないとわからんものだろ?」

「そんな事ないよ。余程の事が無きゃ、戦争は戦う前から勝ち負けは決まってるもんだよ」

「余程の事そのものが何か言ってるわね」


「しかし主よ、古参の将校が何人か退官したと聞くが…この脚本が切っ掛けか?」

 この脚本に描かれていた内容を参考にして発覚した内通者が一掃されたのだった。


「おらしらねぇー」

とリック監督はスっとぼけた。


******


「国王陛下があなたに感謝していましたわ」

とセシリア社長。

「エクソダス」製作状況の報告にリック監督は白亜の殿堂に来ていた。


「この作品が上手く言ったら、私もそろそろお役御免かしら」

 寂しさ半分、安心半分でセシリア社長が呟く。

 そう言うのも無理はない。

 かの内乱で命を狙われ、一度は引退した上に、ヨーホー再興のため無理に復帰を請われて再就任したのだ。


「息子と呼ばれた俺からすれば、是非観劇三昧、悠々自適の暮らしに入って欲しいのですが」


 そう言うとリック社長は顔に影を落とした。

 セシリア社長もそれを察した。


「東国情勢ですね」

「いざという時は俺たちが駆け付けますが、俺たちばっかり暴れたら向こうも示しがつかないし、敵国も同じでしょう。

 それに、ある意味戦乱が終わった後こそ本番の戦いが始まります。


 末永く落ち着かせるためには色々面倒な段取りが要ります。

 ボウ帝国の新皇帝がそこんとこキッチリできるかですが」


「ムリでしょうね」


 西側諸国では新皇帝の評価は散々だった。

 前皇帝の評価はカチン大臣とガタイ第三皇子の活躍でそこそこだったのだが。


「多くの人の命がかかってます。

 ホントにイザって言う時には、俺たちが乗り出します。

 そのために授かった力ですからね」

「頼りたくないのですが、民のためです。

 くれぐれも無理しないでね」


******


 一方、0番スタジオ脇、大プールの特美倉庫すぐ近くの特技部。

 最近リック邸との鉄道の往来が無い所為か、鉄道が錆びている。


「大西洋 戦争の世紀」の撮影は本編からすでに始まっていた。

 特撮班では序盤の特撮として長距離戦闘機試作の特撮、巨大戦艦グラン・パクス建造シーン、そして大陸戦線での戦闘、敵対部族の長が乗る鉄道を爆破するシーン等のミニチュア作成中。


「あ!リックさん!お久しぶりです!」

 かつて内海に沈めては修理してまた沈めた戦艦や空母のミニチュアを特美班が修理していた。

 通気性に気を配った特美倉庫だが、それでも油性塗料のニオイはキツい。

 だがそんなものリック監督は平気の平左だ。


 蘇りつつあるミニチュアたちの不滅の命を感じて

「おお!綺麗になったねえ!もうひと働きしてね!


 みんな、ホント修理を宜しくね!

 使えなくなったら俺が引き取るからね!」

我が子の様に撫でて回るリック監督だった。


(ホントこの人ミニチュアやヌイグルミ大好きだなあ)

 呆れ半分、しかし感動半分の特美班だった。


「おう!おひさ!」


 相変わらずのショーキさんが迎えてくれた。


「なんかリッちゃんがいないのが普通になっちゃって寂しいなあ」

「いやいや!ちゃんと色々進んでるじゃないの」

「ああー。なんつっても、元々今までのフィルムを生かして、って後ろ向きの発想だからなあ」


 本作は過去の近未来戦記特撮を大量に流用する。

 追加撮影は冒頭の大陸でのグダグダな戦乱や、大西洋での戦いの前半戦、南方でダラダラと起きた消耗戦。

 あの超大作、連合艦隊壊滅後に更に繰り返された愚かな空母艦隊自滅戦、そしてヒノデ国全土が壊滅させられる全土空襲。


 そして、極大魔法による地上の地獄。


 映画にはなっていない、グラン・パクス沈没、若者の命を爆弾と共に敵にぶつけた「統帥の外道」、特攻の場面、他の沿岸部での艦隊殲滅シーン等は過去作で使用されなかった抑え用のカットからの流用だ。

 ポリちゃんが怖ろしい記憶力で集めている。


「大体思った通りにあつまってるね。ポリちゃんの頭どうなってんだろうねえ」

「何言ってんですか!それを言ったらリック監督だって」

 半分笑いながらポリちゃん監督が抗議する。


「ははは!俺なんか全部忘れてるよ」

「「それはそれでどうだよ?」ですか?」

「「「ワハハハハー!」」」


 特技部は相変わらずだった。


「こりゃスプラシリーズより見応えありそうだなあ」

「そいつは解らんがキリエリア2の史劇なんかには負けられないよ!

 何しろリッちゃんの憎い仇だからな!」


 ナントカ氏の事だ。


 リック監督は散々コケにされつつしつつの事をスポーンとスっ飛ばして言った。

「一時は一緒に戦った戦友だったのになー」

 内乱の時、内乱軍から放送局を守ってくれ、再放送で何とか多くの人達に娯楽を与え続けてくれた、あのナントカ言う人は。

 あの時は、確かに一緒に戦った戦友だったのだ。


 名前と顔を憶えていないのがリック監督たる所以であるが。


「優しいなあリッちゃんは」

「そんな事ないよ、名前覚えてないし」

「「「え???」」」


 壁には並行して撮影中の「内海沿岸炎上」の撮影スケジュールが書かれていた。


(撮影はみんなで見に行かなくちゃなあ)

 巨大な石油基地が連続爆発する場面が楽しみで仕方なかった。


 自分が見たい特撮が、自分の手を離れて、時に今でも自らの手で生み出されていく。

 マギカ・テラの「1799」も、ヨーホー映像の「大西洋 戦争の世紀」も、自ら撮影中の「エクソダス」も。


 それこそが自分の見たい特撮だったのだ。


「封切りの時はブライも帰ってこないかなあ」

と思うリック監督だが。


 その想いは暫し待ったが入る事になる。

 ボウ帝国が隣国のテッキ王国に戦争を仕掛け、緒戦で敗退したのだった。


******


「馬鹿な事したもんだ、ホントの馬鹿だったかそそのかされたのか」


 新皇帝最初の親征敗北。

 帝都から西側諸国居留民が大使館の手引きで脱出した。

 その動きに気付いた帝都民も、鉄道で飛行機で、西へと逃げだし、大混乱が発生したのだ。


 しかし帝国から諸国条約への支援要請は無い。


「どうなってんのこれ?

 撮影の邪魔もいいトコだよ!」


 リック監督は瞬間移動でカチン大臣を訪問するも、その離宮は幽閉状態。

「映画どころではないのだが…妾に内通の嫌疑が掛けられておっての」


 やはり新皇帝は他国が寄って来るのが正しく、頼るのは誤りだとガチガチに考えていた。

 なので過度に、と帝国上部は思っているのだが、キリエリアと親しいカチン大臣を危険ししていた。


 その上新皇帝の権威を周辺蛮族に示すため、また今後行われる即位式典に箔をつける為「親征」と称し小競り合いを仕掛けた。

 これは正に二重の失敗だった。


 そんなボウ帝国の行動原理は相手となるテッキ王国に見透かされていた。

 彼らはナメてかかって来た皇帝軍の中央を騎馬隊で急襲、以後親征軍は音信不通となってしまったのだ。


「これは新皇帝の次が要るなあ」

「何と!」

「多分もう敵に討たれてるよ。

 本来ならそうなった時の策を打っておくべきだろうけど、それがイヤで閣下を幽閉したんだろうなあ」


 国の運営としては最低の悪手である。


「よもやそこまで狭量とは!こうしてもおれぬ!」

「ほい」

 二人は瞬間転移で宮殿へ。


「やあ」

 そこにいたのは皇位継承権二位の第二皇子ではなく、相変わらず呑気そうな第三皇子殿下。

「『やあ』ではありませぬ!第二皇子殿下は?」

「逃げちゃった」

「ハァ?」

「飛行機でね」


 リック監督もカチン大臣も頭を抱えた。

 つくづく問題の多い帝国である。


「兄上!条約各国に調停を依頼なさりませ!」

「んな事いっても兄陛下が」

「もう死んでるんじゃないんですの?」


 テッキ軍は最初の突撃で新皇帝の首と胴体を見事に断ち切ったのだ。

 そしてその首を掲げて帝都に進軍してきているのだ。


「えー!?そ!そりゃ、早速通信使を!」

「並行して各国大使を招き、状況説明!」


「もうカチンが皇帝でいんじゃね?」

「しっかりなさい兄上!」

「ひぇ!」


「神輿は軽い方が良いってホントだなあ」


 リック監督は余計な自己顕示欲のため世界経済を混乱させた新皇帝に怒りを感じつつ、慌てて諸国条約への要請文を認めるガタイ皇子に何故か心癒されていた。


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