20.何が悪い
「…コ、コハル…?」
アカツキが動揺を隠せず上擦った声でコハルに呼びかける。
「あっ…す、すみません…!失礼な物言いを…!女好き、ではなく、女性が…というより、すべての生き物を愛していらっしゃるんですよね、わかっています…!」
コハルの発言によりまたもや周囲の人々が何とも言えない雰囲気に包まれる。そんな雰囲気を破ったのはカナメとアカツキだった。
「…何を言っている?アカツキがすべての生き物を愛してるわけないだろう?」
「…コハル、私はすべての生き物を愛していない」
キョトンとするコハルにカナメが続ける。
「むしろこいつは人嫌いだ。無口で無愛想が通常仕様。特にアカツキの容姿と肩書きが目的で近寄ってくる女性には虫ケラを見るような目をして平気で嫌悪感を露わにするぞ」
「…虫ケラの方がまだマシだ。喋らないからな」
「…え?」
いつも穏やかで微笑みを絶やさないアカツキと無愛想なアカツキが結びつかない。
「だから君を疑ってるんだ。寝ている間に話を聞いだけであの距離感はおかしすぎる」
「…はい、私も寝ている間に話を聞いていただけであの距離感はおかしいと思い、てっきり博愛主義を掲げている方なのかと…友達に相談したら女たら…いえ、女性がお好きなのではないかと…」
コハルとカナメの視線が同時にアカツキに向いた。
「…寝ている間にコハルの話を聞いていただけだが。何が悪い」
憮然とした表情でアカツキは答える。
「…コハルの声は、ただ、ただ、愛ら…しぃ……」
そう言うとアカツキはぐらりと倒れ落ちた。
・・・
真夜中の静寂がキーストン家を包み込むなか、カナメは自室の長椅子に座って大きく息を吐いた。
アカツキが倒れた後、カナメは遠巻きに見ていた警備の者へアカツキとコハルの治療を指示すると、カナメ自身も意識を失って倒れてしまった。
意識を取り戻したのは、半月後だった。
報告によると、廊下の外に倒れていた使用人はアカツキを襲ったことを——寝ているアカツキに馬乗りになり、頬にキスをしたことを認めたようだ。
使用人はアカツキを本邸に移動させた際に臨時で決めた、アカツキの世話係だった。
コハルがアカツキと親しくなった様子を見て、自分もアカツキとお近づきになれると思い、あんな大胆な行動に出たらしい。
アカツキから攻撃を受けた前後のことは覚えておらず、何度聞いても首を傾げ、ゆるやかに波打つ淡い金色の髪を揺らすだけだったという。
発見時、使用人は気を失ってはいたが特にひどい外傷はなかった。おそらく、アカツキは魔力を放って扉を壊してから、次に使用人を強風で廊下まで放り出したんだろう。
「…一応、傷つけないよう配慮はしたんだろうな」
カナメはまた大きく息を吐いた。
それにしてもコハルだ。
アカツキの発言を踏まえるとコハルは白だ。
コハルは今キーストン家の客室で手当てを受け休んでいる。傷が癒えるまで客室に滞在してもらう予定だ。
カナメは何度目かになる溜息を吐いた。
「キーストン領を守るためとはいえ、酷いことをしてしまった…」
カナメは自身の手を見る。傷は癒えたが、体はまだ重い。試しに指先に風を集めようとするがうまくいかず、ただ疲労感が増しただけだった。
それにしても、と思う。アカツキは寝ている間に意識があったというが、カナメが寝ている間は意識なんか一度も浮かび上がらなかった。
「…器用な奴」
そう呟いてカナメは長椅子の上でずるずると身を滑らせた。
アカツキはコハルに洗脳されていなかった。アカツキが目覚めてからコハルに執着していたのは、ただ単にアカツキ自身がコハルを慕っているからなんだろう。
「紛らわしいんだよ、アイツは…」
であれば、アカツキが長い眠りについた原因は一体何なのか。一体誰がアカツキを原因不明の昏睡状態に?
俺は何を、何を見落としている——?
カナメがしばし考えてを巡らせていると、コンコンと扉が叩かれた。




