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第七話「裏切り」
報せは突然だった。
「……離反」
短い言葉。
だが、重い。
家臣の一人が敵に通じた。
小さな存在ではない。
守るために築いたものが、揺らぐ。
「なぜだ」
誰かが問う。
答えは出ない。
だが理由はある。
恐れ。
不安。
そして――遅さ。
「動かぬからだ」
その言葉に、誰も反論しない。
待つ。
耐える。
それは正しい。
だが、遅い。
守る前に、人の心が離れる。
家康は黙って聞く。
否定しない。
できない。
事実だからだ。
「どうされますか」
問われる。
時間はない。
動かなければ崩れる。
だが、焦ればもっと崩れる。
家康は目を閉じる。
浮かぶのは、弥吉の顔。
待っている。
信じている。
目を開ける。
「……動く」
初めての決断。
だが、それだけではない。
「崩さぬ」
矛盾しているようで、違う。
狙いを絞る。
広げない。
確実に。
裏切りを討つのではない。
揺れを戻す。
「間に合うのか」
答えない。
ただ動く。
静かに。
だが確実に。
やがて報せが戻る。
戻り始めている。
だが、すべてではない。
失われたものもある。
家康はそれを受け入れる。
守りきれないものがある。
だが、それでも守る。
止まらない。




