第二話「耐える」
雨が降っていた。
強くはない。だが、止まない。
地は濡れ、空気は重く沈んでいる。
少年は同じ場所に座り続けていた。
動かない。
動けない。
それが許されている唯一の在り方だった。
視線だけが、わずかに動く。
人を見る。顔を見る。声を聞く。
笑っている者がいる。怒っている者もいる。
だが、それらはすべて遠い。
自分とは関係がない世界の出来事のように感じられた。
「動くな」
また、その言葉が落ちる。
少年は頷く。
それでいい。
それで、生きていける。
雨音が続く。
一定で、変わらない。
時間の感覚が、少しずつ薄れていく。
どれだけ経ったのか分からない。
分かろうともしない。
考えても意味がないからだ。
ふと、疑問が浮かぶ。
(なぜ)
だが、その問いはすぐに消える。
ここでは、理由を求めても答えは返ってこない。
ただ一つ、確かなことがある。
ここでは、耐えるしかない。
少年は自分の手を見る。
小さい。
力がない。
何もできない。
だから、使わない。
動かないことが、最も正しい選択だった。
外から怒声が聞こえる。
争いの音が、かすかに届く。
だが、それも関係がない。
関わらない。
関われない。
(生きる)
その言葉だけが残る。
それ以外は、必要なかった。
やがて、雨が少し弱まる。
空気がわずかに軽くなる。
それでも、少年は動かない。
変わらない。
「……いい」
誰かが呟いた。
評価されたのかもしれない。
理由は分からない。
だが、“これでいい”という感覚だけが残る。
少年は目を閉じる。
何も見ない。
何も動かない。
ただ、耐える。
その時間は、無駄ではなかった。
まだ本人は知らない。
だが確実に、何かが積み重なっている。
後に、この少年はすべてを手にする。
だが、その根はここにあった。
動かないこと。
耐えること。
それが弱さではないと、誰よりも早く知った場所だった。




