表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徳川家康  作者: 本間敏義
2/4

第二話「耐える」

雨が降っていた。




強くはない。だが、止まない。




地は濡れ、空気は重く沈んでいる。




少年は同じ場所に座り続けていた。




動かない。




動けない。




それが許されている唯一の在り方だった。




視線だけが、わずかに動く。




人を見る。顔を見る。声を聞く。




笑っている者がいる。怒っている者もいる。




だが、それらはすべて遠い。




自分とは関係がない世界の出来事のように感じられた。




「動くな」




また、その言葉が落ちる。




少年は頷く。




それでいい。




それで、生きていける。




雨音が続く。




一定で、変わらない。




時間の感覚が、少しずつ薄れていく。




どれだけ経ったのか分からない。




分かろうともしない。




考えても意味がないからだ。




ふと、疑問が浮かぶ。




(なぜ)




だが、その問いはすぐに消える。




ここでは、理由を求めても答えは返ってこない。




ただ一つ、確かなことがある。




ここでは、耐えるしかない。




少年は自分の手を見る。




小さい。




力がない。




何もできない。




だから、使わない。




動かないことが、最も正しい選択だった。




外から怒声が聞こえる。




争いの音が、かすかに届く。




だが、それも関係がない。




関わらない。




関われない。




(生きる)




その言葉だけが残る。




それ以外は、必要なかった。




やがて、雨が少し弱まる。




空気がわずかに軽くなる。




それでも、少年は動かない。




変わらない。




「……いい」




誰かが呟いた。




評価されたのかもしれない。




理由は分からない。




だが、“これでいい”という感覚だけが残る。




少年は目を閉じる。




何も見ない。




何も動かない。




ただ、耐える。




その時間は、無駄ではなかった。




まだ本人は知らない。




だが確実に、何かが積み重なっている。




後に、この少年はすべてを手にする。




だが、その根はここにあった。




動かないこと。




耐えること。




それが弱さではないと、誰よりも早く知った場所だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ