表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徳川家康  作者: 本間敏義
1/6

第一話「人質」

挿絵(By みてみん)


静かだった。




音はある。人もいる。だが、空気は止まっている。




幼い少年は、そこに座らされていた。


立つことも、歩くことも許されない。ただ、その場に存在し続けることだけが求められている。




人質。




その言葉の意味を、少年はまだ完全には理解していない。だが、自由がないという事実だけは、はっきりと分かっていた。




逃げられない。逆らえない。




泣くことも、叫ぶことも意味を持たない。




少年はただ、見ていた。




行き交う大人たちの顔。交わされる言葉。わずかに変わる空気の流れ。




理解はできない。だが、“何か”が動いていることだけは感じていた。




「動くな」




低い声が落ちる。




命令だった。




少年は小さく頷く。それでいい。それが正しい。




逆らう理由も、力もない。ただ従う。それが、生きるということだった。




外では風が吹いているはずだった。だが、その音はここには届かない。壁の向こうにある世界は、まるで別のもののようだった。




閉じられている。




空間も、時間も、未来さえも。




少年は目を伏せる。




考えない。感じすぎない。




それが、正しい。




それが、生き残る方法だと、幼いながらに理解していた。




やがて、誰かが言った。




「待て」




それは命令ではなかった。




だが、逆らえない重さがあった。




曖昧で、しかし確実に残る言葉。




少年はその言葉を聞いた。意味は分からない。だが、消えなかった。




「待て」




その一言が、心の奥に刻まれる。




時間が過ぎる。何も変わらない。




変えられない。




それでも、少年はそこにいる。




動かず、ただ待っている。




何もできない場所で、何もしないこと。




それが、生き残るための唯一の手段だった。




やがて日が傾く。




光が弱まり、影が伸びる。




だが、少年は動かない。




動かないことが、生きることだからだ。




後に、この少年は名を知られる。




徳川家康。




だが、この時はまだ何も持たない。




力も、地位も、未来さえも。




ただ一つ、残ったものがある。




――待つこと。




それだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ