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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン
第二章

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あの時の心情

 「あの日浴びた血の感触、まだ覚えてる」


 シキはまだその血が拭えないというように、頬を擦った。


 「あたたかった……駒は生きていたんだ。魔性討伐軍は、そんな簡単なこともわからなかったんだ。おれたちの血があたたかいことすら、理解できない馬鹿ばっかりが集まっている。江戸の奴らはあいつらに騙されているんだ。あいつらの本質はおぞましいものなんだよ」


 「おれが男に戻らない理由はわかっただろ」とシキ。


 「おれがあの場からいなくなったことをあいつらと役人たちは知ってる。崖から海に落ちたんで、死んだと思われてるんだろうが……それでも男のまま江戸をウロウロしてれば、気づく奴がいるかもしれない。あの時、処刑し損ねた奴だと」


 性別が異なれば、まず合点がいく者はいない。


 「魔性討伐軍にまた捕まって殺されるなんて、まっぴらごめんだ。そんな殺され方、殺人鬼に殺されて豚の餌にでもなる方がまだマシだね」


 シキを見た時、既視感を覚えた理由が明らかになり、佐助は激しく動揺していた。


 そうか。こいつはあの時の子ども……。


 集められた多くの者のなかで、シキは特に印象に残っていた。


 自身も庇護されるべき子どもでありながら、幼い妹を必死に安心させようとしていた姿。


 震える体を寄せ合う兄妹の痛ましさ。


 本当にこれが魔性討伐軍として正しい行いなのか、本当にこうすることが"殺人鬼のいない平和な世界"を作るために必要なことなのか。


 誰もいない場所に移動して、統一郎にそう問いかけた。


 佐助は、一族根絶やしという決定を知らされず、急にその日の朝「ついてこい」と統一郎に連れられてここまで来たのだ。


 「そうだ。犠牲なくして新しい世の中は作れない」


 一切の迷いなく、統一郎は断言した。


 「しかし……。ですが……」

 「ではお前に尋ねよう。あの中の誰かが殺人鬼として大勢の人間を殺したとしたら、お前は責任を取れるのか?」


 取れるわけがない。あの中に危険な考えを持った者が——未来の殺人鬼がいないなんて保証はどこにもない。


 実際に、殺人鬼の近親者は殺人鬼になる傾向が強い。そんな現実が存在する。


 でも……でもだからって……。


 「……そうか。お前は"無理"だったか」


 統一郎の声に感じたことのないものを感じて、佐助はハッと顔を上げた。


 今にも泣き出してしまいそうな、家族と離れたような幼い子どもじみた表情が、統一郎の顔に浮かんでいた。


 佐助はこの瞬間、初めて統一郎が人間なのだと真の意味で理解した。


 超人ではない。英雄ではない。救世主ではない。


 ただ懸命にそうあろうと——そう見えるようにと精一杯気を張っている、ただの人間なのだと。


 これほどまでに頼りなさげな統一郎の姿を、佐助は初めて見た。


 「すみません……」


 自然とそんな言葉が口をついて出ていた。


 今までずっと一人にしてしまってすみません。色々なことをあなただけに押し付けてすみません。


 この人を一人にしてはいけない。


 この人だけに背負わせるわけにはいかない。


 「わかった。理由も告げずに強引に連れてきて悪かった。耐えられないというのなら、今すぐこの場を離れろ」


 帰ってよし、と言われるも、佐助はその場を動こうとしなかった。


 「? おい——」

 「離れません」


 暗いながらも迷いのない声。


 「これからこの場で何が起ころうと、俺はこの場を離れません。あなたのそばから決して離れません」


 自分をここに呼んだ統一郎の心境を思えば、どうして自分一人綺麗な屋敷の清潔な部屋に帰る気になれようか。


 大きな夢の前に、数多の苦難と苦悩を背負うこの人に寄り添う者がいるとしたら——。


 「あなたの隣には俺がいます。あなたは一人ではありません」


 それは自分であってほしいと——そう願うのだった。


 「あなたの夢は、選択は、背負うべき穢れは、俺のものでもあります。だから俺はここを離れない。耐えられなくとも耐えてみせます」


 佐助の覚悟に、統一郎は安堵の表情を浮かべた。


 「お前ならそう言ってくれると思っていた。——ありがとう」


 統一郎は一瞬だけ頬を緩ませると、すぐにこの処刑場に相応しい無表情に戻った。


 「なら早く戻るぞ」

 「はい」


 それから次々と処刑が行われていったが、佐助は統一郎の隣に佇んで、決して一歩も動きはしなかった。


 しかし、凄惨な光景にさすがに目を背けてしまう。


 下を向き、唇を噛み、拳を握りしめる佐助と比べて、統一郎は眉一つ動かさずに一人殺されては海に落とされる光景を眺めていた。


 彼の姿をそばで見ていた佐助は、まだまだ統一郎の域には達していない、中途半端な自分自身を恥じていた。


 目的のためにと、このような惨劇を受け入れたのは自分なのに、何一丁前に嘆いているんだと——。


 「おい、顔色が悪いぞ。大丈夫か」


 シキの心配そうな声に、現在に意識が戻る。

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