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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン
第二章

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魔性討伐軍を嫌う者

 「なんだよー。町奉行所の奴だったのかよ。それならそうと早く言えよな」


 通された座敷で、シキはあぐらをかいてガッカリした顔をする。


 佐助が「遊びではなく仕事の調査で——」と口にするやいなや、シキは肩をすくめてため息をついた。


 「また町奉行所かよ。そう何回も聞き込みなんかせずに、窃盗犯くらいちゃっちゃっと捕まえろっての」


 現在逃亡中の窃盗犯が吉原の奥に隠れていると、そんな噂を聞きつけて町奉行所の人間がえなる屋に聞き込み調査に来たのは、3日前のことだった。


 シキは、佐助が町奉行所の人間で、また聞き込みに来たのだと勘違いしていた。


 町奉行所も普段は制服を着ているのだが、魔性討伐軍と同じ理由で吉原に来る際は私服を着ていた。


 「いや俺は——」


 佐助が訂正しようとした時。


 「でも、まあ——魔性討伐軍じゃなくてよかったよ」


 妙に実感がこもっている一言に、思わず開いていた唇を閉じる佐助。


 「魔性討伐軍だったら、塩撒いて追い返してるところだった」

 「うちから殺人鬼が出たなんて噂でも立ったら、客が減ってみんな飢えちゃうからね」


 お茶を淹れてきた楼主の顔には見覚えがあった。


 「二年前のような有り様は、もう二度と経験したくないもんだ。シキのおかげで何とか持ち堪えられたのは、不幸中の幸いだったよ」


 魔性討伐軍は、ここを訪れる際は隊服を脱いでひっそりと調査する。


 しかし、それでも人の口に戸は立てられないようで、殺人鬼を捕まえに魔性討伐軍がえなる屋に来たことは、一週間も経たずに吉原中に知れ渡った。


 となると、そのうち客の耳にも入るようになって、殺人鬼を出した店としてえなる屋の評判は下がってしまった。


 「あそこにいる遊女は実はみんな殺人鬼で、客の生命力を奪うらしいぞ」


 そんな勝手な噂がまことしやかに囁かれ、店で働く遊女の半分以上が辞めざるをえないという惨状を招いた。


 そんな窮状に現れたのが、シキという救世主だった。


 二年前、女衒に首根っこを捕まえるようにしてえなる屋にやって来た彼女は、店に来てしばらくの間は死人のように覇気のない顔で過ごしていた。


 しかし、そんな状態でもシキは美しかった。今までえなる屋に連れてこられたあやかし女の中でも、一番と言えるほど綺麗な容姿をしていた。


 経営の苦しさに喘いでいた楼主は、この少女を起死回生の一手にするしかないと、まだ13歳のシキに客を取らせた。


 「えなる屋にべらぼうに美しい遊女がいる」

 「かなり変わり種で、女らしいところの欠片もないが、そこが新鮮で逆にハマる」

 「まるで男友達と話してるみたいに気楽に飲めるのが良い」


 そんな評判が広まり、シキが来てからというもの、えなる屋は小見世ではありえないような繁盛を見せていた。


 シキは、何度一人称を"おれ"ではなく"私"にしろと楼主に言われても、改めようとしなかった。


 女らしくしろと言われても、


 「嫌なこった。女の格好して女の口調まで真似するようになったら、そのうち本当に女になっちまうじゃねーか」


 と舌を出すのだ。


 「お前は女のふりをしているのか……?」


 楼主にシキが来てからの経営回復物語を語られた佐助は、驚いて尋ねる。


 佐助はシキが女装した男なのではないかと思い始めていた。足をガバッと開いて座るし、自分のことをおれと言うし、何より雰囲気が少年じみていた。


 「ほれっ」


 シキが着物の胸元を緩めて急に谷間を見せつけてきたので、佐助は口に含んでいたお茶を吹き出しそうになった。


 「な、何するんだ、おもむろに!」

 「見せた方が早いかなって思って。今はこんなだけど、生まれた時は男だったぜ。別にいつでも男の体に戻ろうと思えば戻れるんだ」

 「じゃあ、なぜ女になって遊郭で働いたりしているんだ」

 「全部魔性討伐軍のせいだよ」


 狂った女を見てもけろっとしていたシキが、表情を歪める。


 「ここに住み着いて良かったことの一つとして、偉そうに隊服着て歩いてるあいつらを見ないですむ、ってのがあるな。町中であいつらを見ちまったら、石でも犬のフンでも投げつけかねないからな。そうなっちまったら一巻の終わりだ」

 「なぜ——どうしてお前はそこまで魔性討伐軍を嫌っているんだ。魔性討伐軍がお前に何をしたんだ」

 「何をしたか、だと?」


 怒りに燃えた目を向けられて、佐助は思わず視線を落として自身の服装を確かめた。


 今日は隊服を着ていない。俺が魔性討伐軍であることをこいつは知らない。そう確かめると安心できて、再びシキの目を見返す。


 「世間では、魔性討伐軍は高潔な正義の味方としてチヤホヤされているが、お前はこれを聞いてもその認識を保っていられるかな?」


 挑発的なシキの口から、二年前のとある事件が語られる。


 それは、魔性討伐軍に入ってからの佐助にとって最も苦しい記憶——まさに黒歴史と呼ぶのに相応しい凄惨極まる一件だった。

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