見えなくなった目
そんなわけで、早雲とその仲間たちが魔性反乱軍であることが明らかになったわけだが——。
「一体どこにいんだよ、その早雲とかいう吸血ヤローはよー」
統一郎が去った後の広間で、陣呉が畳の上に大の字になって寝転んだ。
「そこまで遠くには行ってないはずだから、まだ江戸にいると思うけど……」
「そんなことはわかってんだよ。江戸って言っても広いぞ。そう簡単に見つけられんのかよ」
「ふふ……まさに正論……」
おずおずと口にした発言を一蹴された田郎は、部屋の隅でデカい体を折り曲げて落ち込む。
普段、江戸の関所はきつく閉ざされており、通過する際には数日前に町奉行所から許可をもらわなければいけない。
役人の厳しい目をかいくぐって通り抜けるのは至難の業だ。関所の出入り口には、妖力を検知して音を発する道具も設置されている。
その道具の感知精度は非常に高く、地上を飛んでいても地底に潜んでいても、そのセンサーから逃れることはできない。雲の上まで舞い上がれるほどなら、別だろうが。
早雲とその仲間が江戸にいることは確実と言っていいだろう。
「魔性反乱軍がどれほどの規模の組織かは未知数だが、組織である以上どこかに拠点があるはずだ。そこさえ見つけられれば、一気に解決するんだが……」
そうだ。魔性反乱軍が魔性討伐軍に対抗するための組織として作られたなら、討伐軍がいる江戸に拠点があるのが自然だ。
地方と江戸の行き来は、誰でも気軽にできるものではないのだから。
「複数のあやかしが集まる場所に心当たりがないか、町の人に聞いてみるか」
いつもの聞き込み調査だ。
方針が固まり、調査は明日から、ということになった。すでに時刻は夜の12時を回っていた。
なお、しばらくは江戸から誰も出すな、と町奉行所は関所の者に指示しておいた。
しかし、いつまでもそんなことを続けてはいられない。
できるだけ早く早雲を見つけ出さなくては。
隊長たちはそれぞれ与えられた自室に戻り、佐助も統一郎の屋敷に戻っていった。
玄関を開けると、奥から統一郎に静止されるのも厭わずに玄関へ向かってくる小春の気配がした。
「佐助さん!」
眼帯をつけた佐助を見て、小春は悩ましげな顔になる。
「まだ起きていたんですか」
「布団には入っていたんです。でも……佐助さんが心配でちっとも眠れなくて」
トテテテテ、と可愛らしい足音が続いてきて、視線を下にやると、白い毛玉が猛スピードでこちらに突進してきていた。
「ワンッ! ワンワンッ!!」
テシテシと弱い犬パンチに、佐助は「落ち着け」とあんこを抱っこする。
佐助がつけている眼帯に気づいたあんこは、ギョッとして思わず化けの皮が剥がれ、たぬきに戻ってしまう。
お前それどうした!?
あんこの顔がそうやかましく問うていた。
「大したことないから。見た目が悪いからつけているだけで——」
「……本当ですか?」
小春がジトッとした上目遣いで見てくる。
「本当に何ともないんですか? 凄い目の色をしていたと思うんですけど……」
佐助が液体をかけられた時のことを思い出して、小春は訝しむ。
その眼球の色がドス黒いものに変色していく過程を、彼女はしっかり見ていた。
「佐助さん。やせ我慢、していませんよね?」
内心ギクリとするが、佐助はいけしゃあしゃあと「していません」と言う。
「佐助」
先に帰っていた統一郎が、佐助に目で合図する。
少し不満そうな雰囲気が漂うその顔を見て、佐助は彼の意を察して小春に向かって言った。
「俺はもう何ともありませんから、小春は安心して眠ってください」
「そうですか? じゃあ……おやすみなさい、佐助さん」
ペコリと頭を下げると、小春は自室に帰っていく。
話している間、小春はずっと両手を擦り合わせていた。
布団の中にいたなんて嘘で、本当はずっと起きていたのだ。
夜も遅くて寒いのに、佐助が無事なのか気が気でなくて、部屋で何をするでもなく体を起こし、手足を冷たくさせていたのだ。
申し訳ないと思うのに、嬉しいと思ってしまう自分もいる。
こんなこと、思ってはいけないのに。
「早く上がれ」
統一郎が顎で示すと、佐助は頷いて履き物を脱いだ。




