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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン
第二章

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隊長会議

 「局長が右腕を骨折したと思ったら、今度は副長の左目がダメになるとは……」


 五番隊隊長の武田勇志郎(たけだゆうしろう)が、この世の終わりのような顔をする。


 魔性討伐軍の隊員たちが会議室のような使い方をしているこの大広間に、現在副長である佐助と隊長たちが集結していた。


 魔性討伐軍は五つの隊で構成されており、統一郎が実力と統率力に優れていると判断した者が、隊長の座につくことになっている。


 「もう終わりだあ……今が私たちを潰す絶好の機会だと意気込んだ殺人鬼たちが、明日にでも襲撃してくるんだ……そしたら私なんかすぐに負けて、これ以上ない酷い殺され方を……! ひいいっ!」


 超超超ネガティヴ人間で、すぐに絶望するこの五番隊隊長も、一応は統一郎に認められた隊長なのである。


 武田勇志郎。あだ名は田郎というこの男は、22歳で身長180センチという恵まれた体格だ。肩までのサラサラの黒髪に日本人離れした長い手足を持つ。


 立派な体格のわりにいつもオドオドしていて、平時であれば名前のような勇ましさを感じられない男だった。


 「ダメだ……今のうちに切腹の練習をしておかないと……少しでもマシな死に方を……」

 「まーた切腹の発作かよ! 切る切る詐欺もいい加減にしろってんだ!」


 ブツブツとネガティヴ発言を撒き散らす田郎を一蹴したのは、二番隊隊長の早川陣呉(はやかわじんご)だ。


 歳は18歳で身長172センチ。田郎とは対照的に何事もザックリと捉えて考えすぎない性格で、悪く言えば単細胞、良く言えばおおらかな青年だ。ツンツンヘアーの若干ヤンキーじみた風貌だが、根は真面目である。


 彼は片目を失っており、眼帯をつけて生活している。体は古傷だらけで、そのほとんどが幼少期からの虐待によって刻まれたものである。


 「何かと切腹切腹うるせえけど、今までただの一回もそんな状況に追い込まれたことねえだろうが! 男のくせにすぐにメソメソすんな!」

 「異議あり……男だって泣いていいと思います……」


 恨めしげな涙目で陣呉を見る田郎。すっかり馴染み深くなった二人のやり取りを、他の隊長は生あたたかい目で見守る。


 「局長まだかなあ……早くお顔を見たいなあ……」


 そう言いながら爪をいじっているのは、三番隊隊長の卵井純平だ。


 彼は局長のことしか頭にない。佐助が左目を負傷して視力を失ったことを聞いても「えっマジですか。ヤバいですね」と短くそっけないコメントのみ。


 正直、田郎のように慌てふためかれるよりかは、それくらいそっけない方がやりやすいのだが、一応上司なのだからもうちょっと心配してくれてもバチは当たらないんじゃないかと思わないでもない佐助だった。


 統一郎は、現在医局で小春の容体を確かめていた。隊長たちはトップである統一郎の到着を待ち侘びていた。


 「敵さんも手の込んだことをするな」


 そうため息を吐き出したのは、一番隊隊長の強端樹である。


 魔性討伐軍の中では最年長の40歳で、発足当時からの古株である。身長は178センチで額から鼻にかけてまで斜めに入っている痛々しい傷痕は、殺人鬼に負わされたものだとか。


 近づくと髭がポツポツと生えているのが見えるが、その髭が黒々としているのに反して頭髪は見事な真っ白だった。


 樹は40歳にして総白髪なのだ。


 「山田はすっかり落ち込んでるよ。責任とって辞めるとまで言ってる。そこまでせんでもいいと言っておいたけどな」


 今回、統一郎の屋敷の庭で見張りを担当していたのは、山田という男で一番隊の隊員だった。


 彼は、屯所から一キロほど離れた道端でボーッと突っ立っているのを、同僚に発見された。


 発見時の山田は、夢遊病患者のように目は開いているのだが意識はないという状態で、同僚に往復ビンタされてようやく我に返った。


 彼曰く、すごく美しい女が庭にやって来て、目と目が合ってから記憶がないのだという。


 おそらくその女は、早雲の仲間であやかしだろう。催眠術の類いが使えるらしい。


 女の似顔絵を描いてもらったが、絵心のない山田の似顔絵はあまり当てになりそうもなかった。


 ちなみに統一郎のもとに来た奉行所の役人も、偽物だった。


 統一郎が町奉行所に辿り着き西ノ宮の名前を出すと、俺は呼び出しなんぞしていない、と当の西ノ宮に否定されてしまった。


 嵌められた、と思った時には案内人は姿を消していた。


 「催眠術使いに化け術持ちね——厄介な奴らを従えてるもんだな」


 樹が深々とため息を吐き出す。


 「ちょっと強端隊長。息がタバコ臭いんでため息やめてください」


 卵井は煙たがるように、しっしっと手で払う仕草をする。愛する統一郎以外には、かなり年上の先輩にも傲岸不遜な態度である。


 「佐助。ちょっと目を見せてもらってもいいか?」


 樹がそばに来て尋ねる。


 佐助が眼帯を外すと、他の隊長たちも皆寄ってくる。


 「うーん。これは……」

 「グロいな」


 遠慮なく感想を述べたのは陣呉だった。


 佐助の左目は、黒目と白目の境目もわからないほどにドス黒く変色していた。


 「うう……見てるだけで痛い……」


 田郎がそう言ったので「いや、痛みはもうない」と返す。


 「なんというか、何の感覚もないんだ。ポッカリと穴が空いたような——」

 「へー。じゃあ、そのうち目玉がゴロッと落ちてきたりしてな」

 「おいおい。洒落にならないこと言うなよ陣呉」


 思わずたしなめる樹である。


 陣呉に悪気はなく、彼は自身の眼帯を外すと、そこにない左目を指し示してみせた。


 「俺とおそろいにならないように祈っとくぜ」


 「ちなみに俺は時々、ないはずの目ん玉が痛むぜ〜」と軽い調子で言う陣呉。


 確かに雨の日などは辛そうに目を押さえているな、と佐助は思う。


 「あっ!」


 卵井が嬉しそうな声をあげたので耳をすますと、こちらへ向かってくる足音がかすかに聞こえてきた。


 「反応速度エグっ」

 「愛の力ですよ」

 「どーするよ。これで局長じゃなかったら」

 「ありえませーん。僕が局長の足音を聞き間違えるわけないじゃないですか」


 樹と卵井がそんなことを言い合っているうちに、広間の襖が開かれて統一郎が現れた。


 「すまない。待たせてしまったな」

 「大丈夫ですよ! 今来たところですから」

 「その返しは無理があるだろ」

 「うるさいです、強端隊長」


 統一郎は後ろ手に襖を閉めると、皆の顔を見回す。


 「では始めようか」


 統一郎の纏う空気が、これから重要な話をする重々しいものになる。


 一瞬で部屋の空気が変わり、皆の顔が引き締まった。


 「庭にこんな物が落ちているのを、他中が見つけたらしい」


 まずそう言って懐から取り出したのは、何やら角の生えた生き物が描かれたラベルが巻かれた、特徴的な小瓶だった。


 「それは……!」


 それは宿短子として処刑された菊男が持っていたもの。


 魔性反乱軍と名乗る組織に売りつけられたという、妙な効能を持つ薬だ。


 「この瓶の中身だが、前に宿短子から押収したものとは違っていた」


 中の液体の色が違っていたので、妖力が込められた薬にも詳しい薬屋に調べてもらったところ、すぐに解析結果が出た。


 「佐助の目にかけられたものと同じものだという結果が出た。きっと回収するのを忘れたのだろう。中身は瓶の半分ほどしか入っていなかった」


 であらば、これはあの時自分が目にかけられたものの残りだろう。佐助はゴクリと喉を鳴らした。


 「魔性反乱軍——うちに喧嘩売ってます、って宣言してるような名前だな」


 樹が苦い顔をする。誰もが一波乱起きそうな不穏な気配を感じ取っていた。


 これまでにも魔性討伐軍に反感を抱き、攻撃してきたあやかしがいないわけではなかった。


 しかし、彼らは単独で抗議をしに来ることが多く、魔性討伐軍ができてからの五年間、あっさり鎮圧できていた。


 それが、徒党を組んで潰しにかかってこられるとなれば——。


 「このほかにも妙な薬を作成して売っている者が、魔性反乱軍の中にいるはずだ」


 統一郎の言葉にハッとする。


 「宿短子が売りつけられた薬は、悪事を隠すためのものだった——犯罪を誘発するような恐ろしい効能の薬が市中にばら撒かれたり、殺人鬼の手に回ったりしたら……」


 江戸はかつてない大混乱になるだろう。


 「そうなる前に何とかするのが俺たちの仕事ってことだな! ……っすよね」


 陣呉が敬語に直して、統一郎に確認する。


 「そうだ。江戸の平和を守るため。全ては殺人鬼のいない平和な人の世を作るため。その夢を叶えるために私たちは力を尽くすのだ」


 統一郎は全員の顔を見渡すと、拳を天井に向けて突き上げてみせた。


 「卑怯な殺人鬼共の思い通りにはさせない。必ず魔性反乱軍を捕らえてみせるぞ」

 「はい!」


 統一郎以外の六人の声が、大広間に響いた。


 「それに……この薬を作成した者を見つけられれば、お前の目だって治るかもしれない」


 佐助の痛ましい目を見て、統一郎が言う。


 佐助は慌てて眼帯をつけ直し、見苦しいものを隠した。


 「季節はめでたい春だというのに、右腕を二本も損なう羽目になるとはな……幸先が悪い」


 そう言って自身の骨折した右腕を見た後、佐助に向かって苦笑する。


 田郎は「いいなあ……」という目で佐助を見、卵井は統一郎の表情を凝視しており、他の面々は「またやってる」というような目で、統一郎とその右腕である佐助を見守っていた。

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