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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン
第二章

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恋は盲目

 「あ」

 「あ、佐助さん。お疲れ様です」


 屯所に戻ると、門のところで小春と統一郎に出くわした。二人も今帰ってきたようだ。


 小春が笑顔で駆け寄ってくる。自分には眩しすぎる笑顔だった。


 小春は俺のことも恩人だと思っている。俺の力になりたいと、そんな健気なことを思ってくれている。


 俺が貴女に到底許されない隠しごとをしているとは知らずに。


 俺を見るなり微笑んでくれる彼女を前にすると、いつも胸がズキズキする。


 小春は統一郎と手を繋いでいたが、佐助の姿を見るとその手を離して、彼のもとへ駆けていった。


 佐助は統一郎の顔色を窺うが、別段不快に感じた様子もない。佐助はホッとした。


 俺はちゃんとあの人に信頼されている。


 それもそうだ。「小春の面倒をよく見るように」と言ったのはあの人だ。これくらいのことで嫉妬していたらやっていられないか。


 「あ、七男くんもいたんだ。お疲れ様です」

 「どうもっす! 局長もおかえりなさいっす!」

 「ああ、ただいま」


 それだけ言うと「では私は先に屋敷に」と小春に断って行ってしまう。


 やはり七男にそっけない。なぜだろう? と考える前に小春が話しかけてきた。


 「あれ? 佐助さん、髪の毛が濡れていますよ」

 「ああ……途中で水を被ってしまったんです」

 「それは大変です。早く帰って乾かさないと……」

 「いや、歩いていてあらかた乾いたので平気ですよ」


 毛先を触ると、まだしっとりしているが気になるほどではない。


 「そのう……小春さん」


 七男が指先を弄びながら、おずおずといった雰囲気で切り出したので、小春は背筋を伸ばして「はい。なんでしょう」と言った。


 「局長と小春さんはお付き合いされてるんすか!?」


 七男は目を瞑って勢いよく尋ねた。


 小春はといえば、質問内容を少しずつ噛み砕くように、目をパチクリさせている。


 「えっ? ええっ!? 私と統一郎さんが……えええっ!?」

 「違うんすか? 俺はてっきりお二人はいわゆる"良い仲"なんじゃないかと……」

 「ち、違います! なんでそんなふうに思って……」

 「だっていくら小春さんに頼れる人がいないとはいえ、わざわざ自分の家に引き取るなんて……。何とも思っていない人間に対してそうそうできることじゃないっすよ。今日も二人きりでお出かけしたんすよね?」

 「う……そう、ですけど……」


 小春の顔が茹で蛸のように真っ赤になっていく。こくんと頷いた彼女を見て、七男はやっぱり自分の予想は正しいのではないかと思った。


 佐助には、彼女はあの言葉を思い出しているのだ、と理解できた。この場所に連れてこられた際、統一郎に言われた言葉を。


 『貴女に惹かれているからです』


 統一郎は小春への思いを打ち明けた。しかし、その気持ちに応えようとはしなくていい、貴女は貴女のままこの場所にいたいだけいればいい。そうも言った。


 統一郎に好かれている。小春は統一郎と接するたびに、そのことを常に意識せざるを得ない。


 小春の中で、統一郎の存在が日に日に大きくなっていくのは自然な流れのように思える。


 好意の返報性というものがある。


 人から好意を受けると、「自分も相手を好きにならなければ」と思うケースが多い。——同じ気持ちを返したい、となってくるのだ。


 小春もそのうちそういう気分になってくるのではないかと、佐助はそう思っていた。


 小春が統一郎を嫌いになる理由はどこにもない。好きになる理由はたくさんあるが。


 優しくて美しくて地位も名声もあり、一途に愛情を伝えてくれる人物。


 そんな人物に苦境から華々しく救い上げてもらったら、好きにならないほうが奇妙だ。


 小春の心があの方のものになるのも、時間の問題だ。


 全てはあの方の計画通り——。


 「少なくとも、局長は小春さんのこと好きだと思いますよ! 見ているだけでビシビシ伝わってきますもん!」

 「う……ううーん……」


 何とも答えようがなく、曖昧な照れ笑いをする小春は何とも愛らしい。佐助は心臓がギュッと掴まれたようになる。


 「俺、応援してますんで! じゃ!」


 そう言うと、七男は屯所の方に向かっていく。年頃らしく浮いた話にはテンションが上がるのか、足取りはいつも以上に軽やかだった。


 この一連の流れを、木の影から見ている者がいた。


 「許せない……絶対に……!」


 屋敷へと戻っていく小春の背中を地獄の獄卒のような形相で睨むのは、三番隊隊長の卵井純平(たまいじゅんぺい)だ。


 「局長があんな小娘と……? 嘘だ嘘だ嘘だ! そんなわけない!」


 卵井は激しく狂気じみた叫び(しかし小声)をもらすと、地面を踏み鳴らした。もちろん小春たちに気づかれないようにとっても静かに。


 「きっとあの娘が局長を騙してるんだ……! 待っててください、局長! 僕が必ずあの女の本性を暴いてやりますから!」


 この卵井、普段はまあまあ常識人と言ってもよいのだが、統一郎のことになると頭のネジが数本吹っ飛んだみたいになって、冷静さは塵と化してしまう。


 そんなわけで、嫉妬に目が眩んだ卵井は完全に小春を敵と認定してしまった。

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