異なる感想
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「かなり人気の演目なんですよ。何度も主演役者を変えては上演されている芝居なんです」
薄暗い芝居小屋から急に明るい屋外に出たので、まだ目が慣れない。
小春は統一郎の説明に相槌を打ちながら、さっきまで観ていた芝居の内容について考えていた。
「どうしましたか? 浮かない顔をして」
「あ……な、なんでもないです。ちょっとボーッとしちゃってました」
「もしや具合を悪くされたのでは……芝居小屋の中は熱気がこもっていますし。どこか座れる場所に移動して——」
「あ、違うんです、本当に。お芝居のことを考えていたんです。最後の場面について……」
「最後?」
芝居は見事主人公が仇討ちを果たし、満足げに微笑むところで終わっていた。
「あの後、主人公はどうなったのかと気になって」
統一郎は意外なことを聞いたというように少し目を見開く。
物語のその後。
主人公は復讐を果たした。目的は達成された。
であらば、その後のことなんてどうでもいいのではないか。
兎にも角にも、願いは叶ったのだから。
「物語の場合、目的地に辿り着いたら、そこでめでたしめでたしで終わりになりますけど、現実は違うでしょう?」
物語と違って、人生は続いていく。
夢を叶えようが夢に敗れようが、人生が終わりを迎えることはないのだ。
「あの人は、大切な人を殺した殺人鬼を殺すことだけを考えて、なんとか生きていた。だったら復讐を果たした後の彼は、何のために生きていけばいいのでしょうか」
そんなことをずっと考えていた。
芝居が終わり、拍手が落ち着いた時も。舞台の上に役者が出てきて観客に挨拶している時も。外に出て明るい日差しに照らされた時も。
物語は終わったが、彼の人生が終わったわけじゃない。
彼はあの後の人生をどんなふうに過ごしたのだろう。
「物語のその後、ですか……」
統一郎が顎に手を当てて考え込む素振りを見せた後に、にっこりと小春に向かって微笑んだ。
「小春さんは面白いことを考えますね。そういうことを考えて芝居を見たことはありませんでした」
親が幼い子どもの独創的な発想を褒める時みたいな、優しく感心したような口調で言う。
「芝居の人物にまで感情移入して、その後の心配をするとは。小春さんはとても優しいのですね」
「いえ、そんな……」
「でも……彼のその後、ですか。そうですね——」
統一郎は空を見上げて言う。
「彼にとっては復讐を果たすことだけが生きる理由だったのですから、その後の人生がどんなものでも満足だったのでは?」
「え?」
「彼は満足して人生を終えた。そう想像していいと思いますよ」
小春の憂いを取り除くように、統一郎は朗らかに言う。
「目的を達成して満足できたなら——その至高の瞬間を味わえたのなら、この上なく幸せだったのではないか、と私は思いますよ」
そう言われても、小春の表情は納得いかなそうに曇っていた。
「確かに仇の殺人鬼を殺した瞬間は幸せだったでしょうけど……でもそれって一瞬のことじゃないですか」
一瞬の恍惚感のために人生の全てを犠牲にする。
小春はそんな生き方に恐怖を感じたのだった。
芝居の中で、男は50年間ひたすらに妻を失った悲しみに暮れ、殺人鬼への呪詛を撒き散らして、血を吐くような修行に打ち込んでいた。
その長い年月の中で、喜びや幸福の気配は微塵もなかった。
そんな人生辛すぎる。
本当に彼は幸せになれなかったのか。彼が報われる別の道はなかったのか。
小春はそう考えてしまうのだ。
「大切なものを失った彼を支える人は現れなかったのでしょうか。身近にそういう人がいれば、もう少し息がしやすい人生だったと思うのに……」
「……この演目は小春さんのお気には召さなかったようですね」
「あっ……! せっかく連れてきてもらったのにごめんなさい……! 多分私が世間知らずなのが悪いんです。周りのお客さんは絶賛してましたし……」
「別に気を悪くしたわけではないですから、安心してください。貴女は何も悪くないですよ」
統一郎は、同性すらも骨抜きにしてしまいそうな笑みを浮かべてみせた。
「ちなみにですけど。私はさっきのお話、結構好きですよ」




