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【完結保証】のけものの幸せな結婚  作者: 絶対完結させるマン
第一章

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続く生活

 ***


 「おかえりなさい、佐助さん」


 俺が帰ってくることの何がそんなに嬉しいのか、わざわざ玄関までやって来て頬を緩ませる小春。


 統一郎はまだ事務仕事に明け暮れている。


 佐助の肩に乗っていたあんこが、待ってましたとばかりに小春に飛びつく。


 「ワンワンッ!」

 「ふふ、あんこは元気だね。今日はどんなことをしたの?」


 朝に別れてから数時間しか経っていないのに、あんこは数年ぶりかと思うほどはしゃいでいた。


 小春の頬を短い舌でペロペロ舐めると、小春から「くすぐったいよ」と嬉しそうな声が返ってくる。


 こうやって玄関先まで出迎えてもらっていると、まるで夫婦になったようだな……と思ってしまい、慌てて口元をキュッと引き締める。


 「佐助さんはよくへの字口をしますね」


 小春が拗ねたように言ったので少し狼狽えると「ふふっ冗談ですよ」と笑った。


 夕食を食べ終えると、あんこは糸が切れたように眠りこけてしまった。


 「今日は隊員たちに構われまくってましたから。いつもより疲れたんでしょう」


 まだ怪我が治らず、絶対安静を強いられている隊員が何人かいた。あんこは娯楽と癒しに飢えた隊員たちに可愛がられ、今日は佐助と共にはおらずに他の隊員たちと遊びまくった。


 最初は警戒していたあんこも、根がチョロいというか人恋しいので、随分隊員たちに懐いてしまった。


 「佐助さんも無理しないでくださいね。怪我の重さで言えば、一番酷いんじゃないですか。菊男さ——短子さんと戦ったんでしょう?」


 小春は、死んだのは短子ではなく菊男だと知っている。


 短子(今はもう菊男ということになったが)は、彼女に全てを打ち明けた。香澄と菊男の歪な夫婦関係についても、オブラートに包んで話した。


 体を一時的に乗っ取り、弟を殺そうとしたことに対して彼が深く謝罪すると、小春はこう言った。


 「わかりました。そういうことでしたら、この秘密は墓場まで持っていきますので安心してください」


 ちなみに、最後の最後で活路を開いてくれたあんこにも、事情を打ち明けた。


 「ごめんな」と謝る彼に、あんこは言った。


 ——じゃあ、これからは菊男って呼ばなきゃいけないんだな。また大福もらいに行くから用意しといてよね。


 菊男が香澄とあんこの関係に気づいて驚くのは、少し先の話である。


 「小春」


 佐助の改まった声音に、小春は彼の方に向き直る。


 佐助は正座すると、深々と頭を下げた。


 「お礼がまだでしたね。本当にありがとうございました」

 「えっ、えっ?」


 心当たりのない小春は、佐助の強い感謝に戸惑う。


 「貴女にああ言われなければ、俺はあいつを"殺せてしまっていた"かもしれない」


 ——次に宿さんと会った時は、戦う前にまず話を聞いてみてほしいんです。


 彼女の言葉がなければ、俺は感情を殺してあいつを敵と認めて、排除していたかもしれない。


 きっとそうなっただろうと思うのだ。いつもそうしているように。


 殺す前に話を聞く。愛宕山に向かっている間、ずっと彼女の言葉が耳に焼き付いて離れなくて、あいつの話を聞き終えてから、ようやく気づいた。


 俺はあいつが何か重い事情を隠していることを何となく察していて、それを知りたくてたまらなかったんだと。


 そして、それを知ったら何とか力になりたいと思っていたんだ。


 だって俺はあいつのことを——。


 「やはり二人は友達なんですね」


 小春が、まるで自分のことのように嬉しそうに言う。


 「……はい」


 友達だと思っていたんだから。


 貴女はその気持ちに気づかせてくれた。俺があいつを殺すのを止めてくれた。


 感情に蓋をして見ないふりしようとして、危うく大事なものを失うところだった俺を、貴女の言葉が救ってくれたんだ。


 あいつを殺さなくて本当に良かった。


 「ですからありがとうございます」

 「私は何もしていませんよ。でも、私なんかでも佐助さんの役に立てたなら、それはとても嬉しいです」

 「"私なんか"なんて言わないでください」


 佐助の表情が苦しげに歪んだので、小春はハッとする。


 「貴女は自分が思っている何百倍も尊くて、価値がある人間です。貴女が生きているだけで俺は——」


 これ以上は余計だと気づき、佐助は口を真一文字に閉じる。


 「良かった……」


 小春が目を潤ませて胸に手を置いているので、佐助はギョッとする。


 「私、佐助さんに迷惑がられているんじゃないかと思ってましたから……。そんなふうに言ってもらえて嬉しいです」

 「迷惑だなんて……そんな」

 「佐助さんは私と一緒にいる時、よく険しい顔になりますから」

 「それは……」


 心当たりがありすぎて、佐助は申し訳なくなる。


 「不安にさせてしまってすみません。ですが貴女に原因があるわけじゃないんです。問題があるのは俺の方で——」

 「それ禁止です」


 小春がムッとしたように言った。


 「すぐに自分のせいにするのは、佐助さんの良くないところです。佐助さんが何を胸に抱えているのか、私は全然わからないですけど……あなたに全ての責任があるなんてことはないと思います。……私こそすみません。あなたを責めたくてこんなこと言ったわけじゃないんです」


 ただ……と小春は膝の上で拳を握りしめる。


 「私が佐助さんと一緒にいて安らぎを感じるように、佐助さんにとっても私と一緒にいる時間が心地良いものであってほしい——それが今の私の願いなんです」


 俺みたいな男のことをそんなに気にしないでほしい。


 彼女にそこまで気にかけてもらえて嬉しい。


 相反する感情が交互に襲いかかってきて、佐助はどんな顔をすればいいのかわからなくなった。


 小春は改まった口調で言う。


 「佐助さん。不束者ですが、これからもよろしくお願いしますね」


 まるで嫁入り後の挨拶みたいじゃないか。


 そんな考えが浮かんでしまった自分の頬を張り飛ばしたくなったが、平静を装って佐助もこう返した。


 「はい。こちらこそよろしくお願いします」

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