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第185話 潜伏の危険 ① 

大柄の男は、賢紳へ歩み寄りながら声をかけた。

「やあ、相賀くん。相変わらず賑やかな親睦会だな」

その声に、賢紳は一瞬だけ表情を引き締める。

「黒野さん。ご多忙の中、弊所の親睦会へご参会いただき、ありがとうございます」

男の名は――黒野権造。

レイモンドダイヤ社、ヒイズル州事業企画部長。

その姿を認めた瞬間、賢紳の笑顔はわずかに硬くなった。

近くにいた優唯と奈穂も、あまり関わりたくない相手だと察したのか、

営業用の笑顔を浮かべて軽く一礼し、静かにその場を離れる。

黒野は左手をポケットに入れて姿勢、口元を歪めた。

「当然来るさ。何しろ昨日のシャドマイラ襲撃、あれを凌げたのは、我が社が現場に設置した試作の超音波拡張発生装置のおかげだろう?」

確かに、それは事実の一部だった。

決定打ではないが、現場支援として機能していたのは否定できない。

賢紳は静かに頷く。

「おっしゃる通りです。御社の支援のおかげで、コンサートを継続することができました。感謝しております」

黒野は満足げに笑う。

「だが、さすがフェアリーズプロだな。ずいぶん多い逸材を揃えているじゃないか?」

賢紳の目が細くなる。

「どういう意味でしょうか」

黒野は軽く肩をすくめた。

「簡単な話だ。UCBD特務隊の渋谷拠点は壊滅的被害を受けた。だが同じ敵を相手にして、そっちはどうだ?スタジアムはほぼ無傷。死傷者ゼロ」

指で軽くグラスを回す。

「データは正直だ。お前がプロデュースしている異能者アイドルは、戦力として極めて優秀ってことだ」

そして、少しだけ声を落とす。

「この前の提案、考えてくれたか?」

レイモンドダイヤ社は、世界規模の軍民両用、異能活用技術開発企業だ。

フェアリーズプロに対しては資金提供よりも、セキュリティ顧問や現場支援という形で関わってきた。

その裏で、フェアリーたちの異能を利用し、技術データを収集する。

黒野の狙いは明白だった。

異能を起点とした新兵装開発。応用ユニットの量産。

そして、莫大な利益を企んでいる。

賢紳はそれを理解している。だが同時に、完全に無視もできない。

レイモンドダイヤ社は、親会社スターライズの大株主でもある。そして昨日の件でも、確実に役に立った。それでも、賢紳は、きっぱりと答えた。

「何度お聞きいただいても、答えは変わりません」

賢紳は静かに言い切った。

「金輪際、フェアリーズプロは芸能以外の仕事は受けません。うちの子たちを、武器や実験体として扱うことは認められません」

黒野はわずかに首を傾け、口元に含みのある笑みを浮かべる。

「ふふ、いくら否定しても、データは誤魔化せないだろう」

ゆっくりと言葉を重ねる。

「これまで彼女たちが関わった現場で起きた怪物・怪人の事件。それを止めてきたのは、我が社のガードではない。ほとんどが、彼女たち自身の異能だ」

グラスを軽く揺らしながら続けた。

「つまり、フェアリーズプロは、もはや“ただのアイドルユニット”ではない。その事実は、世間にも知れ渡る」

一歩、踏み込む。

「それに、エンターテインメント事業としても、そろそろ多角化を考えるべき時期じゃないのか?このままでは、いずれ成長は頭打ちになるぞ」

賢紳は一瞬だけ目を伏せ、そして真っ直ぐ黒野を見返した。

「御社の装置が、子どもたちの安全を守り、現場の被害を抑えたことには感謝しています」

「しかし」

声がわずかに強くなる。

「黒野さんのご提案は、我々の理念とは相容れません」

「フェアリーズは、人々に幸せと愛、そして希望を届ける存在です。この世界には、すでに十分すぎるほどの災いがあります。その上でフェアリーズ自身が“災いの種”になるようなことは、断じて認められません」

黒野は肩をすくめた。

熊のような厚い肩が、わずかに揺れる。

「甘いな」

淡々とした口調だった。

「力を持つ者は、必ず災いを引き寄せる。どれだけ隠そうと、それは変わらない」

視線が鋭くなる。

「彼女たちは、もう“選ばれた側”だ。その宿命から逃れることはできない」

賢紳は微動だにせず、答えた。

「ご忠告、痛み入ります。ですが、我々がその選択をすることはありません。アイドルに、社会へ新たな負担を生む仕事を背負わせるつもりはない」

黒野はゆっくりと息を吐いた。

「その頑固さ。いずれ後悔することになるぞ」

声が低く沈む。

「せっかく育てた才女たちを自らの手で地獄に突き落とすことになり、異能を持つアイドルは、人気と同時に、狩人の標的にもなるんだ」


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