第181話 問診、目に焼きつく事相 ①
目を覚ました瞬間、視界に映ったのは白い天井の照明だった。
部屋は清潔で、かすかにアルコールの匂いが漂っている。
窓際にはカーテンが引かれ、外の様子は見えない。
心電図や心拍数を示すモニターが、規則的な電子音を立てて作動していた。
体温表示は、48度。
点滴スタンドは横にあるが、今は何も吊るされていない。
陽太はゆっくりと状況を理解しながら、掛け布団に包まれていることに気づく。
その時、耳に聞き覚えのある声が届いた。
「――私は大丈夫だよ。でも、お兄ちゃんは戦って戻ってきたあと、まだ目を覚ましていないの」
陽菜の声だった。
彼女は手にMPデバイスを持ち、誰かと通話しているようだった。
『陽太お兄貴がシャドマイラを倒して倒れたって!?
あの人、夜通し起きてても平気なくらい元気なのに……まさか大怪我したとか?』
通話の向こうから聞こえるのは悠乃の声だ。
驚きと心配が混ざった、少し高い声だった。
陽菜は戸惑いながら答える。
「ううん、怪我はないみたい。
ただ、急に大量のエネルギーを使ったせいで体力が尽きたって。
それで今は眠ってるの」
『そっか……それじゃ、明日継続の勉強合宿はキャンセルかな?』
「どうだろう……。お兄ちゃんがいつ退院できるか、まだ分からないから。
合宿を続けるかどうかは、明日また連絡するね」
『うん、分かった。でも陽菜も看病で無理しないでね』
「うん。ありがとう、ゆっちゃん」
『じゃ、おやすみ』
「おやすみ」
通信が切れった。
MPデバイスの画面には、22:10の数字が表示されていた。
部屋は再び静かになる。
その静寂の中で、陽太はゆっくりと上体を起こした。
「……陽菜」
その声に、陽菜がはっと振り向く。
「お兄ちゃん!?」
彼女は目を大きく見開き、慌ててベッドへ駆け寄った。
「目が覚めたの!?」
「うん……」
次の瞬間、陽菜は勢いよく陽太に抱きついた。
「よかった……!!お兄ちゃん!!」
泣きそうな声だった。
陽太はまだ少しぼんやりしたまま、妹の顔を見つめる。
「……泣いてるの?何があったんだ?」
首を陽太の肩から離れる陽菜は目をこすりながら言う。
「だって……もしお兄ちゃんが目を覚まさなかったらどうしようって……」
陽太は苦笑する。
「大げさだな。ちゃんと起きてるじゃないか」
「でも……」
陽菜は小さく首を振る。
「お兄ちゃん、あんなすごいエネルギーを爆発させたんだよ?研究所の記録にもないレベルなんだって。異能者専門のお医者さんも、原因が分からないって言ってた」
陽太は少し困ったように笑った。
「……陽菜に心配かけたみたいだな」
そして、妹の頭を軽く撫でる。
「でもさ、僕は母さんと父さんに約束しただろ。陽菜を一人にはしないって。だから、そう簡単には死なないよ」
陽菜は小さく頷く。
「……うん」
しばらくして、陽太が尋ねる。
「それで……ここはどこ?」
「レナタはどうなった?」
陽菜は答えた。
「ここは赤城研究所の病室だよ」
「レナタは……お兄ちゃんが倒した」
陽太は静かに息を吐く。
「……そっか、よかった」
陽菜は言う。
「先生呼んでくるね」
「うん」
陽菜は立ち上がり、ベッド脇の壁にあるインターホンのボタンを押す。
「斎藤さん。お兄ちゃんが、今、目を覚ましました」
スピーカーからすぐ返事が返ってくる。
「分かった。今そちらへ向かう」
陽菜は安心したように陽太を見た。
そして、ようやくほっとした笑顔を浮かべた。
「そう言えば、陽菜は改人の犯罪組織の手先に襲われ、更にあの怪人に縛られたよね?何か怪我とか何か嫌らしことがされたでは?」
今は攫われたこと陽菜は苦笑いを浮いて言う。
「鎖に縛れた何処に軽い擦り傷だけど、救出された時に、レイミ姉ちゃんの触手に手当てされて、既に治ったよ。皆のお陰で無事に助けられた、血に汚れた服が損なったけど」
よく意識すると、陽菜の研究所は来所者の検査服を着替えた。
事件の被害者として、被害証拠を記録するために、こちらに送れた時に第一時間に傷害検査を受けた。
検査を受け後、彼女はシャワーも浴びたから、血の紋様が何処にも残されずに洗い消えた。
「陽菜が無事なら良いけれど……」
陽太は少しほっとしたけれど、それでも陽菜が襲われた事に気になって、腹はすっきりしない気分だった。




