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第164話 実瀬の本物 ②

 優唯が小さく息を呑む。


「……みっちゃん」


 華恋も驚いた顔で呟いた。


「いつものみっちゃんと……違う……」


 水天みそらは半ば呆れたように、しかし目は真剣に言う。

「なんでやねん……実瀬ち、急に本気すぎるやん……」


 雫玖は、部屋に漂う心の声を拾いながら、黙って実瀬を見つめていた。

 綾香も声を挟まず、落ち着いて賢紳へ視線を移す。

 賢紳は怒鳴るでもなく、実瀬と同じ高さまで言葉を落とし、問いかけた。


「顔を上げなさい。赤星さん。

 言ってごらん、君はどんな理由で、どんな気持ちで、そこまで望む。

 なぜ命を賭してまで、緊急プレイに立ちたい?」


 実瀬は背筋を伸ばし、胸元に右手を当て、真っ直ぐに答えた。


「私は……守られるだけのアイドルになりたくありません。

 そのためにフェアリーズに入りました。

 空の明るい星みたいに、歌とダンスで、人に希望を届けたい。

 今、ネオ東京はシャドマイラに襲われていて、特務隊や異能者のみなさんが命を懸けて戦っています。

 救援も、避難誘導も、全部、誰かの命を守るために。

 だったら私は、私にできる形で、応援したいんです」


 実瀬は一息つき、さらに言葉を重ねる。


「私は源使いでもないし、異能もありません。普通の人間です。

 でも、ステージとファンのみなさんを守りたい気持ちは、先輩たちと同じです。

 先輩たちの力を信じています。

 でも、もし私の声がひとつ加わることで、みんなの心が少しでも強くなるなら、

 私は、その役に立ちたい。

 緊急プレイのリスクは覚悟しています。

 今も戦っている姉の気持ちが、少しだけ分かるから……私も同じ意志で臨みます」


 まっすぐすぎる言葉に、部屋の空気が静かに震えた。

 優唯は感心したように微笑み、華恋は目を潤ませる。


「あれは、覚悟を決めた目ですね」

「あんた、予想以上に大胆な子だわ。やっぱり、放って置かないよね」

 雷葉に続き、林檎が頷く。

 しばらく沈黙が落ちたあと、賢紳は嬉しそうに眉を上げ、口端を持ち上げた。


「ふふ……イレアナさん。

 まさにその名にふさわしい気骨だ。

 君が初めてオーディション面接で言った言葉を、私は覚えている。

 年上でUCBD特務隊の姉の背中を誇りに思う。アイドルとして、声と舞踊と心で人を守りたい。その意思が、今も変わっていないのだな」


 きっぱり頷く実瀬は応じる。 


 「はい!」


 そして、賢紳は条件を出した。


「もうひとつ条件がある。

 初代フェアリーズのイメージソングを歌えるか?イレアナさん」


「『フェアリーズの花』ですね。練習してきました」


「ふむ……そこまで備えていたか」


 賢紳は、どこか楽しげに言葉を続ける。


「どうやら、君と同じ気持ちを抱くフェアリーズは、他にもいるようだ」

「……それは、どういう……?」


 優唯が立ち上がり、実瀬へ真っ直ぐ声をかけた。


「みっちゃん。一緒に緊急プレイに出よう?」


「優唯先輩……」


 そこへ春妃と葵も、息を切らして部屋へ飛び込んでくる。


「葵先輩、春妃先輩……?」


 葵が言い切る。


「チーフ。私も緊急プレイに出たいです」

 賢紳は二人へ向き直り、名を呼ぶ。


「ミディ、クライザレズ」


 春妃が続ける。


「意識の高い後輩が危険なプレイに出るなら、私が怯えて隠れる理由はありません。チーフ」

 

賢紳は満足そうに笑みを深めた。


「よかろう。君たちの意志を尊重しよう。覚悟を決めた者には、出演を認める。

 各チームのマネージャーへ通達し、全フェアリーズに共有しなさい。

 自由参加の前提で、緊急プレイに立つ機会を伝えるのだ」


 歌波うたは雫玖しずく水天みそら雷葉らいは、フェアリーズたちは顔を見合わせ、張り詰めていた空気がふっとほどけたように、表情に笑みが戻っていく。

 七人に背負わせるはずだった重圧が、確かに分散されたのだ。


 廊下の外で立ち聞きしていた柚奈は、硬い表情のまま立ち尽くしていた。

 意識だけじゃない。

 行動力だけでもない。

 異能がなくても、命を賭けてステージに立つ覚悟。それを、実瀬は当然のように口にした。

 しかもチーフは、当初の七人固定案を、全員にチャンスを与える自由参加へ変えた。

 実瀬の言葉は、それほどの説得力を持っていた。

 柚奈は気づく。

 あの子は、才能だけでここにいるわけじゃない。

 フェアリーズプロそのものを変えてしまう力を、持っている。


(……これが彼女の《《本物》》ってやつ?

 どうして、そこまでできるのよ――赤星実瀬……!)

 

目を細めるほど、視線の光は鋭く揺れる。

 それは嫉妬という名の海が、胸の底で波立っている証だった。

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