第165話 レナタの逃走
万璃愛とレナタの戦闘は、なおも続いていた。
万璃愛はビーム薙刀を振るい、迫り来るワーム状の首を次々と切り落としていく。
すでにレナタの首の分身は、半数以上が斬り捨てられていた。
だが、再び高温の火焔を吐こうとする兆候が現れる。
胴体に赤い光が走り、血管を巡るように脈動しながら、エネルギーが一点に集中していく。
それを察知した万璃愛は、薙刀を構えて叫んだ。
「させないわ!
ガミちゃん、ジャイアントビーム砲とスターズキャノンを一斉に撃って!」
レナタが火焔を吐くより早く、中空に浮かぶガニメデ号が応答する。
左右に組み込まれた二つのエネルギーストーンが発光し、四基のビーム砲が同時に照準を合わせた。
――ビームが撃つ轟音。
四本の太い光束に続き、二発の高出力エネルギー弾が追撃し、レナタの胴体で連鎖的な爆発が起こる。
万璃愛はさらに薙刀を横薙ぎに振るい、
数十メートルを超える太さの鳥脚を中央から斬り折った。
重傷を負ったレナタは火焔の噴射を止め、
長い首を跳ね上げるようにして、悲鳴を上げる。
――キューウォオオオ!!!
巨躯が支えを失い、崩れ落ちていく。
ゴォォ……ドゴンッ!!
「コアなら……まず一つ目。そこを貫くわ!」
万璃愛は腕を高く掲げ、ビーム薙刀を投擲した。
一閃――
投げ放たれた薙刀は正確にコアを貫き、一つを完全に破壊する。
――ヤャンウォオオオ!!!
耳を裂くような咆哮が響き、周囲の建物の窓ガラスが次々と砕け散った。
「これで……もう逃げられないわね。今のうちにドリルで止めを刺す!」
万璃愛は腰部アーマーに固定していたドリルアームへ手を伸ばし、再装着しようとする。
だが、その瞬間――
体勢を崩していたはずのレナタの脚が、急速に再生を始めていた。
首を胴に振り迎え、嘴で突き刺さった薙刀を引き抜き、
長い首が大きな影を落としながら地中へと沈み込んでいく。
――逃げるつもりだ。
火焔噴射を止めた際、万璃愛が無理やり上空へ向けさせたことで、
雲は燃え尽き、空には裂け目が生まれていた。
そこから差し込む陽光が、レナタの逃走経路に影を作り出していたのだ。
それに気づいた万璃愛は歯を噛みしめ、振り返って叫ぶ。
「……私の影を、逃げ道に使うなんて……卑怯よ!!」
ドリルを装着すれば、完全に逃げられる。
そう判断した万璃愛は、即座に駆け出し、
すでに半分以上が地中へ潜り込んだレナタの胴体を両腕で掴んだ。
「逃がすものか!!」
足腰に力を込め、渾身の力で引きずり出そうとした、その瞬間――
胴体から、黒いウニのようにワーム状の首が一斉に生え出した。
間一髪、万璃愛は身を翻してその攻撃を回避する。
だが、体勢を崩し、そのまま尻もちをついた。
「……これは、奇襲?それとも……逃げ切った……?」
万璃愛は薙刀を取り返し、警戒を解かず、しばらく周囲を見渡す。
しかし、レナタの姿はどこにも見えなかった。
――逃走された可能性が高い。
ボディアーマー胸部のエネルギーストーンが点滅を始める。
それは、ジャイアントウォーリアの活動限界が近いことを示していた。
(……嘘。私の任務……失敗、しちゃった……)
万璃愛は肩を落とし、首を垂れる。
ヘッドアーマーに覆われて表情は見えないが、
その瞳は明らかに動揺していた。
そこへ、純一が彼女の肩へと軽やかに降り立つ。
「姫路さん。君は、十分すぎるほど戦った。あとは、みんなに任せよう」
あと数分で、万璃愛は通常の人間の姿へ戻る。
次に変身できるのは、早くても明日以降。
それまで再びレナタが現れれば、彼女は戦線を離脱せざるを得ない。
その現実を噛みしめ、万璃愛は小さく呟いた。
「……私、基地に戻れますか?」
「いや、まだ作戦は終わっていない。確かに今日はもう変身できないが、
ガニメデ号の武装は、まだ使えるだろう?」
「……そうですね。次は、どうすればいいんですか?」
「恐らく、次に現れるのは品川島だ。私たちも、そこへ向かおう」
「分かりました。沖田さん、ガミちゃんに乗ってください」
万璃愛は宙に浮かぶガニメデ号を引き寄せ、純一はそのまま戦艦の上甲板へと跳び移る。
「ガミちゃん、コンパスデッキのドアを開けて」
指示に応じてドアが開き、純一は艦内へ入っていった。
天に伸ばした長い柄は短くに縮んで、そのままバックパックに収める。
やがて、万璃愛の身体が光に包まれ、巨大な姿から、元の人間の身長へと戻っていく。
アーマーパーツも順次パージされ、ガニメデ号は再び戦艦モードへと組み戻された。
万璃愛は艦内通路を歩き、操縦室へ戻る。
渋谷屯駐拠点周辺の大地には無数の亀裂が走り、鎮火しきれない炎と煙が、なおも立ち上っていた。ガニメデ号は船首を南へ向け、上空から港湾地区へと飛び去った。




