第161話 レナタ・再来 ④
太く長い鳥首が高く持ち上がり、鋭く遠くまで響く咆哮が夜空を震わせた。
折れた首の根元には瘤が盛り上がり、そこから新たなワーム状の首が一斉に生え伸びる。
レナタはこの数日の間、飽食を重ね、さらに三日間身を潜めて力を蓄えていた。
大きな損傷を負ってなお、その再生力は驚異的だった。
獰猛な叫びとともに巨躯を大きく振り回す。
その回転で生まれた突風は、耐えきれない物も人もまとめて遠くへ吹き飛ばす。
続けざまに脚を踏み込み、本体の鳥首が大きく口を開いた。
胴体から首へ赤い光が走り、次の瞬間、高温の焔が吐き出される。
炎は駐舶場を薙ぎ払い、間一髪で緊急回避した特務隊員たち。
しかし本陣に留まっていた運輸マシンは逃げ切れず、次々と爆発した。
駐舶場は一瞬で炎の海と化し、植えられた木々や草花が燃え広がる。
都市の大規模火災を防ぐため、複数のビル屋上や高所に設置された消防用ミサイルポッドが作動。
空から撃ち込まれたミサイルが上空で爆散し、消火剤が散布され、炎は次第に抑え込まれていった。
その間も、沖田純一はレナタの背中へと斬撃を浴びせ続ける。
首の群れを斬り落とせば、レナタは即座に再生する。
背中を切り裂かれても回復し、攻撃と再生の拮抗が続く。
純一は戦いながら、冷静に呟いた。
「……こいつは、ネオ東京の住民が抱く嫉妬の念を糧にしている。
コアを同時に破壊しない限り、何度でも再生する……
やはり、内部から叩くしかないか」
耳にミサイル接近音を捉えた瞬間、純一は背中から跳び退いた。
その直後、高空から、数十発のドリルミサイルが降り注ぐ。
ワーム状の首群れと胴体に一斉に命中し、複数の首が貫かれ、爆炎が連鎖的に広がった。
「来たか……姫路さん」
雲を切り裂き、巨影が現れる。
上空二千メートルで静止するのは、巨大戦艦ガニメデ号だ。
レナタがダメージを負っている隙を見て、万璃愛は眉を引き締める。
「よし、今のうちに!投下ゲートを開け!」
左側の青いスイッチを押すと、操縦席下の円形ハッチが開き、座席がエレベーターのように下降する。
格納区画へ到達すると、ゲートはすでに解放されていた。
吹き荒れる強風が、万璃愛の前髪を揺らす。
シートベルトを外した万璃愛は、操縦席右のアームレストに置かれた銀のケースを開ける。
中には玉状のカプセルが並んでいた。
その一つを取り、鮮やかなアルミ包装を剥がし、チョコレートに見えるそれを飲み込む。
「行くわよ!皆さん!」
次の瞬間、心臓が強く脈打つ。
万璃愛の瞳が大きく見開かれた。
「効いてる……!ジャイアント因子、アクティベーション!」
高らかに叫び、彼女は外へと飛び出した。
落下する万璃愛の身体は光を放ち、一気に二十倍の巨人へと変貌する。
スーツも同じ比率で巨大化し、白銀の輝きを放つ。
「来て、ガニちゃん!アーマーモード・パージ!融合着装!」
音声指示に応じ、ガニメデ号の機体が分離。
船首部は二脚のレグアーマーへ、中段は左右に分かれて二本のアームアーマーへと変形。
五つのパーツが四肢へ装着され、中央のボディアーマーが展開する。
さらにバックパックが射出され、3/4仮面型のヘッドアーマーが万璃愛の頭部を覆う。バックパックの中パーツはボディアーマーの背後部を差し込み、合体機構がしっかり組み付けた。
女神像を思わせる鋭いアーモンド形の瞳が光を宿した。
ネオ東京タワーと並ぶ巨躯、マリアンヌが、レナタの前に着地する。
「マリアンヌ様が来たぞ!」
「われらの守護神だ!」
「勝利を導いてくれ、マリアンヌ様!」
地上から市民たちや特務隊員歓声が湧き上がる。
瑠衣は戦況を見極め、即座に指示を飛ばした。
「これからは大物同士の正面勝負よ!
距離を取ってから、彼女に火力支援を!」
「イエス、マーム!」
巻き込まれないように、特務隊員は戦術を変更し、200メートル以上の距離を取ってビームカノン砲の狙撃に入れ替わった。
万璃愛は巨大な腕を突き出し、レナタを睨み据える。
「そこまでよ、レナタ。今度は私が相手よ!
ジャイアントレーザー砲、撃て!」
背後に浮かぶガニメデ号が応答し、左右四基ずつのレーザー砲が一斉発射。
直撃を受け、レナタが悲鳴を上げる。
本体の鳥首が向き直り、四つの赤い眼が光る。
再び火炎ブレスを吐こうとした、その瞬間。
「そうはさせない!!」
万璃愛は直進し、巨体の質量で強引に突進。
両腕で鳥首を掴み上げ、無理やり天へ向けさせる。
方向を失った火炎は、曇る空へと盛大に噴き上がった。
だが、十数本のワーム首が一斉に万璃愛へ突進する。
怪力の直撃を受け、彼女は尻もちをついた。
「痛ったた……。まったく、暴れん坊子ね。お仕置きが必要だわ」
レナタは最大の脅威と認識したのか、本体と分身の大半の首を万璃愛へ向ける。
無数の目から怪光線が放たれる。
万璃愛は片膝をつきながら、叫んだ。
「ジャイアント・テリトリー展開!」
両腕と両脚のエネルギーストーンが発光し、巨大なバリアシールドが形成される。
怪光線は、寸前で防ぎ止められた。
「今度は、こっちの番よ!来て、ドリルアーム!」
ガニメデ号から二本のドリルアームが射出され、万璃愛の腕に装着される。
三本のドリルが高速回転を始めた。
「さて……弱点は?」
ヘッドアーマーの視界に、レナタ内部のコア位置が表示される。
三つ、明確に分離したコアをよく見えた。
「あそこね!なら、貫くわ!ジャイアントドリル・トルネードストライク!」
万璃愛は突進し、襲い来る首群れを左腕のドリルで受け止め、そのまま突破。
右腕を正拳突きの姿勢で突き出す。
首たちが壁のように立ちはだかるが、ドリルが次々と貫通する。
しかし別の首が伸び、関節や腰、太腿に噛みついた。
「ぎゃあああっ!!」
装甲部は耐えたが、柔らかい部分には激痛が走る。
縄のように絡みつく首も縛り付けてくる、万璃愛の動きを拘束する。




