第160話 レナタ・再来 ③
万璃愛が出動する10分前、渋谷エリア。
公園上空を通過する航路は、すでに全面通行止めとなっていた。
往復していた民間マシンの進路に、突如として現れたレナタが立ちはだかる。
回避が間に合わなかったマシンは、そのまま山壁に激突するかのように、巨大な胴体へと正面衝突した。
後続のマシンも次々と追突し、複数の民間マシンが炎上する。
後方から即座に反応したマシンは、左右に飛び交いながら急上昇・急降下し、別階層の航路へと逃れようとする。
だが、そのうちクラクションを鳴らして挑発した数機に反応するように、ワーム状の首が大きく口を開いた。
次の瞬間。
呑み込まれたマシンは食道内部で押し潰され、そのまま爆散した。
水平上方から、ビームライフルの火線が走る。
エイー型UCBD戦闘マシンが出撃してきたのだ。
十二機。三個小隊に分かれ、一斉に接近。
火線を切らすことなく、連続攻撃を仕掛ける。
しかし、攻撃を受けた首をかばうように、別の首が薙ぎ払われ、戦闘マシンが撃ち飛ばされる。
さらに別の首の赤い目から放たれた怪光線が追撃し、レーザーに切り裂かれたマシンが次々と撃墜された。
交戦開始から、わずか三分。
戦闘マシン五機が失われた。
地面に突き立つ柱のように太い脚が踏み込まれる。
その一歩で地面が大きく揺れ、爪先から三方向へ放たれた衝撃波が地表を引き裂いた。
干渉波発生装置は損傷を受け、数台の機器が機能停止、爆散する。
十本の首が上空から地面へと突き刺さり、地中を掘り進む。
地盤は大きく隆起し、屯駐拠点が襲撃された。
これに応戦する特務隊員たちが、ビームライフルを構えながら叫ぶ。
「なんだ……これは!?」
「避けろ! 散開して攻めろ!」
だが、激しい揺れに足場を奪われ、踏ん張っていた隊員たちは地面からの衝撃で投げ飛ばされる。
――ぐわああああ!!
地面を突き破って現れたワームの首が、無防備な隊員を丸呑みにし、そのまま上空へ持ち上げた。
地中から地表まで一直線に掘り返され、地盤が爆裂。
公園の施設、輸送マシン、ミサイル武装マシンが一瞬で壊滅的被害を受ける。
あまりの破壊力に、呆然とした隊員が呟いた。
「……破壊神かよ……」
「バカ!立ち止まるな!死にたいのか!攻め続けろ!!」
特務隊は散開し、必死に反撃する。
だが、与えたダメージは瞬時に再生され、焼け裂けた箇所がみるみる塞がっていく。
「この再生力……どうやって倒す!?」
「死にたくないなら、下がれ」
隊員たちの前に、背を向けたまま立ち上がる青年、武田覚。
「誰だ、あいつ?」
「知らないのか……ナイド・ガディアンズの刀使いだ」
戌の文字が刻まれた宝玉を組み込んだ鞘から、覚は刀を抜く。
左脇構え。
七十センチの刀身に、背筋を凍らせるような鋭い光と気配が宿る。
「おい! 正面から行くな! 死ぬぞ!」
だが、土を掘る振動、爆発音、悲鳴――
それらすべてを無視するかのように、覚は静かに目を見開いた。
(――俺が相手だ。来い)
その気迫に応じるかのように、首が地上へと掘り上がる。
「明鏡剣・逆光!」
一閃。
地面から現れた首が左側から断ち切られ、百センチ級の排水管ほどもある首が、鋭く斬り落とされた。
――ドン、と重い音を立てて地に伏す。
覚は間を置かず、反対方向へ踏み込み、再び斬る。
遠距離から援護していた隊員が、唖然と声を漏らした。
「……太い首を、一刀で……」
「正面から受け止めて、斬ったのか……」
「赤星隊長の剣に引けを取らない……」
覚は止まらない。
地面を蹴り、折れた首を足場に跳躍する。
「明鏡剣・百光!」
脅威と認識したのか、三本の首が同時に襲いかかる。
覚は首から首へと跳び移り、狙いを定めて斬り、踏み替え、さらに斬る。
十数の斬痕が刻まれ、ついに重傷を負った首が後退した。
<491>チームは、瑠衣の指揮のもと、怯むことなく応戦していた。
「散開!バスターモードで本体を狙え!」
「了解!」
その時、再び大きな揺れが走る。
「ここから十メートル離れろ!」
重錬、豊久をはじめ、隊員たちは次々と跳躍して距離を取る。
だが、逃げ遅れた女性隊員が崩落に巻き込まれそうになる。
瑠衣は迷わず跳び出し、崩れ落ちる岩を踏み、彼女の腕を掴む。
そのまま回転の遠心力を利用し、安全圏へと投げ飛ばした。
次の瞬間。足場を失った瑠衣は宙に投げ出され、地中から現れた首に呑み込まれた。
救い出された女性隊員が、思わず叫び声を上げた。
「赤星隊長!」
心配を募らせた重錬が、怒りを滲ませた声で叫ぶ。
「くそっ……! なんで、こんなことに……!」
豊久は渋い表情のまま歯を食いしばり、ビームライフルを撃ち続ける。
「ここから退け! また崩れるぞ!」
その直後、地上に湧き出したワーム型の首が天へと引き戻される。
長大な首は、まるで地層を切断する鉄縄のように一直線に走り、地盤が瞬時に沈下。
裂谷が生まれ、轟音とともに、地下から突き上げた首が崩れた土石を一気に地表へ掘り上げ、爆散させた。
立ち上がった首の先では、鋭い歯を幾重にも並べた口が、威嚇するように咆哮を上げる。
――隊長を失ったと思い込んだ隊員たちは、怒りを叫びに変え、必死の反撃を続けていた。
その時。
首の中央から、鋭い青光が突き抜ける。
次の瞬間、両腕のビームソードを大きく振り上げた瑠衣が、内側からワームの首を真っ二つに切り裂いた。
断ち割られた首はそのまま崩れ落ち、瑠衣は中から飛び出して、確かに地面へと着地する。
「どうしたの? 死人を見たみたいな顔して」
重錬が、感服したように声をかける。
「……いや〜さすが隊長だな」
「感心してる場合じゃない!次が来る!」
その一方で、沖田純一は神速で前線を駆け抜けていた。
迫る首が、まるで止まって見える。
特製の木刀を抜き放ち、音速を超える一刀。
衝撃波とともに首が粉砕される。
折れた木刀の柄から、水晶質の刃が瞬時に形成され、再び光を放つ。
純一は勢いを殺さず、倒れた首を足場に跳躍。
宙空から、光速の一文字斬りを放つ。
衝撃波は百メートルを越え、胴体に生えた無数の首を、刈り取る稲のように一気に四十本も斬り落とした。
――キィィィィィ!!
レナタが悲鳴を上げる。
純一は涼しい笑みを浮かべ、レナタの胴体に着地した。
その攻撃は一瞬。
誰一人、その全貌を目で追えなかった。
だが、その一刀が戦場の流れを変えた。
特務隊の士気は一気に高まり、勝利への確信が芽生え始めていた。
この一撃で戦況、一気に劣勢を覆すその剣は、特務隊の士気を大きく押し上げる。
隊員たちは盛大な鬨の声を上げ、不可能だと思われていたこの戦いに、勝てるという確かな手応えを掴み始めていた。




