第159話 レナタ・再来 ②
五つの屯駐拠点に設置された武装ミサイルマシンが、一斉に多数のミサイルを放った。
それぞれのミサイルは地面に着弾する直前で展開し、個別に干渉波を放出する。
瞬時に干渉波へ反応したレナタが、獰猛な咆哮を上げた。
――キーャウォオオオ!!!
拠点内には鋭いサイレンと〈レナタ接近・迎撃せよ〉のアナウンスが鳴り響き、待機していた特務隊員たちが一斉に動き出す。
重錬に豊久はカフェレストランを出て来て、ビームライフルを抱えたまま首を伸ばして空を仰いだ。
視界いっぱいに広がる黒い影を目にした瞬間、思わず叫び声を上げながら引き金を引く。
「どういうことだ!?レナタの奇襲か!?」
「やっと来たか!」
純一と瑠衣も出迎えて来た。
「最初からこちらを狙ってきたか……ルペライトさんの策が効いたようだな」
冷静に言い切った純一とは対照的に、瑠衣は近くにいた隊員たちへ甲高い声で指示を飛ばす。
「君たち、武器を携行! 私についてきなさい!」
「イエス、マーム!!」
隊員たちは両手にビームライフルを構え、瑠衣の後に追い付いて、レナタへ向かい走り出す。
*
その頃、UCBD対策本部・指揮室。
アラート警報が鳴り響く中、中臣情報管理長が気を引き締めて報告する。
「部長、午後15時36分。渋谷エリア・代々木公園にてレナタ反応を確認。出現後、一直線に渋谷屯駐拠点へ進撃中です」
「殲滅ゾーンはすでに展開済み。現地部隊が交戦中です」
報告を受け、重々しい声で命令が下される。
「赤城山科援所へ連絡。姫路万璃愛を含め、武装戦艦ガニメデ号を出動させろ!」
「了解!」
内線通信が繋がると、暁音は即座に告げた。
「こちら対策本部。レナタ出現を確認。
マリアンヌの出動要請を行います。応答願います」
同時刻――赤城山科援所。
研究棟が林立する研究所団地の中央、水素発電用に造成された人造プールを囲む敷地内に、ピラミッド型の巨大建造物がそびえ立っていた。
出動アラームが鳴り響く中、山型構造の下部が三分の一ほど左右に分割されるように展開する。
内部には巨大な開口部が現れ、500メートル地下の格納庫へと続く発進トンネルが露わになった。
地下の巨大空洞には、全長380メートルを超える巨大戦艦が静かに横たわっている。
白・赤・黄を六:三:一で配した船体。
六枚の鋭利なウィングは、まるで華奢な鋏のように広がり、外装にはエネルギーカノン砲やウィングカッターなど、セントマシン用兵器を遥かに凌ぐ巨大武装が並ぶ。
とりわけ目を引くのは、艦体に備え付けられた四本の巨大ドリルと、それと一体化したドリルミサイルポッドだった。
水滴をモチーフに設計された艦橋内部。
14畳以上はあるパイロット室を、姫路万璃愛が一人で占有していた。
曲線を描くディスプレイに囲まれ、中央の円形床にぽつんと置かれた操縦席。
左右には最低限の操縦レバーとスイッチのみが配置され、その姿はまるで女王の玉座のようだ。
艦体と同色のボディスーツを纏い、胸元、手首、腰、肩、膝にエネルギー石を装着した万璃愛は、水色の宝石と銀属のティアラを戴き、シートベルトを締める。
ディスプレイを操作しながら武装リストを確認し、静かに口を開いた。
「今回はD武装……得意分野じゃないけれど、作戦に基づいた選択なら、このドリルで何とかするわ」
情報ウィンドウを消し、発進トンネルを真っ直ぐ見据える。
補佐役の擬人ロボットが、女性の声で淡々と報告した。
<フルクロープ、ロック解除>
<メインエンジン出力上昇。反重力エンジン、作動安定>
<進路クリア。発進スタンバイ>
左上に通信ウィンドウが開き、サポートチーム指揮部の女性通達員が告げる。
「出動許可を承認しました。事前作戦ミーティング通り、〈レナタ〉を撃破してください」
「了解です」
万璃愛は目を輝かせ、凛とした笑顔で言った。
「川村さん。沖田隊長やみんなが待ってる。急がなきゃ」
「ええ、いつもの通りに、行ってらっしゃい」
トンネルの誘導灯が青へと切り替わる。
「姫路万璃愛、ガニメデ号、発進します!」
両の操縦レバーを前へ押し出す。
点火したメインエンジンが速度を保ったままトンネルを突き抜け、船首を空へ向けて一気に射出された。
反重力エンジンの青い光が煌めき、奇妙な軌道を描きながら巨大戦艦は東京方面へ飛翔する。
一瞬、ガニメデ号の姿は赤城山科援所の上空から消え去った。
再びUCBD対策本部。
「現在、武装戦艦ガニメデ号はネオ東京へ向かっています。五分後には渋谷エリアへ到達予定です」
「彼女が到着するまで、レナタを殲滅ゾーン内に抑え込め」
腕を組んだ綾崎は、現場映像に映るレナタを鋭い視線で見据える。
「……結局、こちらに来たか」
ルペライトは涼しい顔で答えた。
「ええ、想定内の展開よ」
作戦部席に座る戦策シミュレーション担当の男が、疑問を口にする。
「それはどういう意味です?事前予測とは違う動きでは?」
「シャドマイラの予測は、人心の先読み。より暗い想いが集まる場所を、彼女は選ぶのよ。単純だけど、純粋な理屈ね」
「……なるほど。異能者重用策で反感を煽り、最初からレナタを渋谷屯駐拠点へ誘導した、と」
「ええ。今頃、堀田部長は大層ご満悦でしょうね?」
綾瀬は感服したように微笑む。
「誉れを重んじる彼を動かすには、やや非情だが……妙策だ」
「白も黒も関係ない。あの子を倒す、それが最終目的。
今の展開は、彼の思惑通りでしょう」
妖艶な笑みを浮かべ、ルペライトは続ける。
「ちゃんと誉れを与える場を用意したもの。今のところ、円満な流れじゃない?」
「……人心を測って打つ策か。数字では読めない不確定要素だな」
八百年を生きる血族の令嬢を前に、人工知能に頼る理系の男は、自身が決して辿り着けない領域を悟り、畏敬の念を抱いた。
綾瀬は軽く突っ込むようにしつつ、感心した口調で続けた。
「ゾクッとする策だけど……ルペライトさんは、ずいぶん気優しい人だな。
作戦が不向きだとか、動員を減らせるだとか、まるで最初から、レナタが屯駐拠点を襲うと確信しているような建言だった」
「ええ。彼はね、もっと自分の部下たちを大切に扱うべきだと思っているのよ。
下の子たちが、可愛くて仕方ないんでしょうね」
「バンパイヤ令嬢でも思いやりがある、ってことか」
「まあ……《《あの方》》の代わりにこちらの庭を見守る約束がなければ、
こんな仕事、引き受けるつもりもなかったけれど。
痛い子の感情を扱うのは、正直、退屈で面倒だわ」
ところがその一方で、ルペライトは沖田の力量を素直に評価していた。
「それでも、その意図を早々に見抜いて、朝早くから現地に待機している沖田さん。
神雷の名は、伊達じゃないわね」
「そうだな。彼と姫路さんが、レナタを倒してくれればいいんだが」




