第157話 特務隊の影 ②
重錬と豊久、そして別チームの隊員たちは、雑談めいた会話を交わしながらテーブルを囲んでいた。
その様子を眺めていた重錬が、どこか面白そうに口元を緩めて呟く。
「へぇ〜赤星隊長も、あんな顔を見せることがあるんだな」
識別番号〈334C01〉の隊員が、半ば冗談めかして肩をすくめる。
「相手が、あの大英雄だからな」
続いて〈334A04〉の隊員が、羨望を隠しきれない表情で言った。
「同じように人命を救ってるはずなのに……この差は何なんだろうな」
「それはさ」
〈334C01〉の隊員はヘラヘラとした調子で割って入る。
「異能を持って、ヒーローみたいな活躍をすりゃ、女が寄ってくるのは自然だろ?
結局、強い男が好きってのが、女の本質なんじゃないか?」
「いやいや……それでも神雷は別格だろな」
重錬自身も、そう言って苦笑する。
「あの光速超えの剣術だぞ。救ってきた命の数、もう数え切れないだろ」
豊久は手を頬に当て、静かにそのやり取りを聞いていたが、やがて落ち着いた声で言った。
「人を羨むよりさ。どうすれば自分たちの実績を増やせるかを考える方が、建設的だろ?」
特務隊には女性隊員もいるが、赤星瑠衣は別格だった。
ただ美しいだけではない。凛とした佇まい、穏やかな物腰、そして抜群の自己管理能力。上から降ってくる重圧を、そのまま部下に押し付けることは決してしない。
理不尽な叱責やパワハラとは無縁で、隊員たちの信頼は厚い。
〈334C01〉の隊員は、そんな赤星の姿を思い出し、どこか複雑な表情で呟いた。
「……でもさ、いいよな。あの【無双宝刀・赤星】が、特務隊の前では一度も見せなかった顔を、
神雷の前じゃ、まるで恋する少女みたいに見せるんだから」
豊久が応じる。
「きっと、ずっと前からの知り合いなんだろ」
「隊長は源使いだし、一般人より異能者と関わる機会も多い。
高校時代から、任務に関わってきたって話だしな」
重錬は頷きつつも、二人の関係がどこか気になっている様子だった。
豊久は、話題を和らげるように続ける。
「異能者同士なら、一般人には話せないことも多いだろう。
特務隊は異能者の割合が少ない分、話が通じる相手がいるだけでも
救いじゃないか」
「そもそも、異能を持ってるなら特捜部とか、
適性に合った部署に行くか、経験者は独立捜査を選ぶことが多い。
俺たち特務隊に来る方が、珍しいんだよな」
やや皮肉を含んだ言い方だったが、重錬にとって異能の有無は大きな問題ではなかった。
入隊する前から、それはもう受け入れていたことだ。
「それでもさ」
〈334C01〉の隊員が、鬱憤を吐き出すように言う。
「俺たちが必死に戦ってるのに、美味しいところはいつも異能者に持っていかれる。
そのせいで比べられて、挙句の果てに、
作戦の怠慢だなんて言われたら、たまらないだろ」
重錬は問い返す。
「足立エリアの撃退戦の話か?」
「ああ。あんな暴風雨の中で、無理に突っ込めば被害が出る。
それを抑えたのに、電気ガキみたいに突っ走る連中と比べられて……
俺たちの努力が、まるで無意味みたいに扱われた」
「……気の毒な話だな」
豊久は、そんな理不尽な上官に当たらずに済んだ自分を、内心で幸運だと思った。
〈334C04〉の隊員が、せせら笑うように呟く。
「結局、現場は力がすべて、ってことだろ。
俺たちにも、別格の機能を持ったパワースーツや強力な武装があれば、話は違ったかもな」
「とはいえ、俺たちは量産仕様の装備で戦うしかないけどな」
「でもさ」
豊久が静かに反論する。
「異能がなくても、同じ装備で成果を出してる長官だって大勢いる。
武装の性能を嘆くより、戦術や運用の工夫を考えるべきじゃないか?」
重錬は肩をすくめ、軽い調子でまとめた。
「正論だな。けど、俺たちはこのスーツと武装を与えられた時点で、
民間人より多くの命を守る責任を背負った存在――
言ってみりゃ【憑装者】だろ。
だったら、あとはこの力で任務を果たすだけ。
案外、話はシンプルなんじゃないか?」
連日の屯駐警備で疲労は溜まっているが、
豊久や重錬の戦闘意志は衰えていなかった。
一方で、強く、凛とし、スマートな赤星隊長に率いられる〈491〉隊への羨望は、
〈334〉隊の隊員たちの表情に、どうしても曇りとして滲んでいた。




