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第152話 嵐の前の静穏 ②

二人は女子向けブランドショップを八軒ほどはしごし、次々と試着を重ねた。

ストリートポップ風のコーディネート、学園テイストに探偵帽を合わせた装い、

リボンを添えたホワイトワンピースに麦わら帽子、

ゴスロリ調の衣装、果てはビキニ水着まで。

服だけでなく、子ども向けおもちゃフロアで「サニーオン君」のキャラクターグッズを眺め、食器売り場で日用品を選び、アイスクリームクレープを頬張る。

結局、二人ともそれぞれ二点ずつ買い物をしたが、

陽菜は自分のクレープを持ったまま、

大口を開けて陽太が手にしていたチョコミントバナナを一口かじる。

その様子は、事情を知らない周囲の人から見れば、

どう見ても仲睦まじい恋人同士にしか見えなかった。


 同じショッピングモール内では、はじめ、レイミ、そしてビリーもすでに現場に待機していた。

 暇を持て余したビリーは、ひとりで空島の外周を即席サスケチャレンジコースに見立て、建物の外壁や連絡通路を使って30周も走り抜けてきたらしい。


 そのままスクエア建物の最上部に立ち、右手を高く掲げて自分に喝を入れるように叫ぶ。


「準備運動オーライ!現場ステージ、異常なしッス!

 あとはリベンジの時を待つだけ! いつでもかかってこいッス!!」


 一方その頃、統とレイミはモール内にあるカフェチェーン


『BLUE LEVEL COFFEE』の一角で待機していた。

 二人は並んで席に腰を下ろし、統は腕時計型デバイスを操作する。

 すると、宙空に監視カメラ映像のホログラムが展開された。

 UCBDが事前に業者へ調査協力を要請していたため、

 統は自身の〈ロジックマスター〉の能力を用い、

 609スクエアからスタジアム一帯までの監視カメラ網を自分の目のように把握している。腕時計型の特製デバイスには、エリア内の映像がリアルタイムで映し出され、統の役割は、現場内外の状況把握と、味方以外の不審な異能者の監視だった。

 アイスラテを一口すすりながら、レイミが画面を見つめて尋ねる。


はじめくん、陽太くんは今、どこで何してるの?」

「今はゲーセンだな。見るか?」


 統は指先で操作し、ゲームセンターに設置されたカメラ映像を拡大した。

 映し出されたのは、二機並んだ操縦席に座り、VRゲームを楽しむ陽菜の姿。

 一方、陽太はゲームをプレイしておらず、

 陽菜が操縦する戦闘マシンの画面を、静かに見守っていた。


「へぇ……陽菜ちゃんがVRゲーム好きだなんて、ちょっと意外ね」

「人には誰でも、表に出さない一面があるってことだ」


 統がそう答えると、レイミは映像を見つめながら、少し羨ましそうに呟いた。


「でも、陽太くんって本当に妹に甘いよね。

 あんなに仲良しで一緒にいるの、ちょっと羨ましいな……」


「妹のことか?」


「うん」


 その言葉の裏にある感情を、統はすぐに察した。


「身近い人をもちろん、一般人が、異能者である俺たちをどう見るか、

 それは、簡単には変えられない問題だね」


 レイミには妹がいる。

 かつては仲の良い姉妹だったが、

 人造念者になっている以来、妹は彼女を“化け物”のように恐れ、

 まるで平行線を引くかのように、会話を拒むようになった。

 レイミは苦笑いを浮かべ、小さく肩をすくめる。


「ええ……アリスは触手系の異能が特に苦手で……

 受け入れてもらうのは、簡単じゃないよね」


「だからこそだ。理解されるまで、俺たちは生き方で善意を示し続けるしかない」

「……そうね」


 ふと、レイミは画面の端に映る人物に気づき、眉を寄せた。


「ところで、この不審な男は誰?

 さっきからずっと、こそこそと陽太くんたちを追ってるよね?」


 彼女が指差した映像には、

 フードを深く被り、少し距離を保ちながら立ち止まる男の姿が映っていた。


「任せて。すぐに、その人物の正体を洗い出す」


 統はそう言うと、男がスクエアに立ち寄った時点から現在まで、

すべての監視カメラ映像を一括で収集した。

正面顔の特徴を抽出し、分析データとしてUCBDのデータベースに照合する。


 結果は、数秒で表示された。

 レイミは目を丸くし、画面に浮かんだ名前を呟く。


「……岡本業茂おかもとなりしげ?」

統は淡々と続ける。

「二十歳。異能は伊達さんと系統が近い、地獄来訪者のハーフ。

能力はアビスブレイズ。得意武器はライフルにサイズ。影に変わって移動できる。

学生時代に一般人への殺人未遂記録が五件。

桜草学園を出所した後、現在はシャドマイラハンターとして活動している」

統は納得したように、冷静な声で呟いた。

「やはりか……この件に関わってきたか、シャドマイラハンター」

レイミは思わず息を呑む。

「シャドマイラを狩って、その個体を第三者と取引する。いわゆるグレー組織、ですよね?この一週間、ずっと傍観していたのに、今さら動くなんて……

一体、何を企んでいるんでしょう?」


「キングピーファピュトンは出現頻度が極端に低い。

研究価値も高いし、この狩りのチャンスを逃す理由がない。

それに、岡本だけじゃない。609スクエア内には、他にも複数のシャドマイラハンターが確認されている」


「……やっぱり、彼らを止めるべきじゃない?」

その問いに、統は首を横に振った。

「いや。剣崎部長や沖田隊長からも繰り返し言われている。

必要がない限り、不審者との衝突は避けろ。

最優先はシャドマイラの討伐だ。

自然災害級の事案では、善悪や個人感情を挟むべきじゃない。

人類の存亡がかかっている問題を解決してからだ」

「だから今は、彼らの動きを警戒するに留め、

それ以上の接触は不要、という判断ね」


レイミはなおも眉をひそめた。


「でも……陽太くんの今日の行動や、

シャドマイラ討伐作戦の詳細を知っているのは、

隊長と剣崎部長、それに李姉さんたち、ほんの一部だけのはずでしょう?

それなのに、接点のないシャドマイラハンターにマークされるなんて……

内部情報が漏れている可能性は?」

統はしばらく考え込み、静かに口を開いた。

「可能性は高い。日野くんの知り合いの中に、

シャドマイラハンターと何らかの接点を持つ人物がいると考えるのが自然だ」

統は現場でマークされている全異能者のデータを抽出し、

〈八王子市内の高校〉〈総房郡〉〈虎本道場〉〈ジャスティスキーパー〉

〈間接関係者〉といったキーワードで再検索をかける。

その結果、三名の顔写真が浮かび上がった。

――紅糸世

――松原心桜

――井口瀧生


「この三人のうち、誰かが情報源を間接提供者の可能性が高い」

レイミは不安そうに言う。

「……でも、岡本さんが陽太くんたちを尾行し続けているのを、

このまま放置して本当に大丈夫?本人は、まったく気づいていないみたいだけど……」


統も岡本の不審な動きには引っかかりを覚えていた。

だが、もう一度ゲームセンターの映像を確認した瞬間、

とある場面に映り込んだ男の顔を見て、

どこか楽しげに、薄く笑った。


「心配いらない。どんな事態になっても……

岡本は、いずれこの現場から追い出されるよ」


その含みのある言い方に、レイミは首を傾げる。


「……どういうこと?」


「《《あいつ》》に目をつけられたなら、企みを問わないすぐに終わりだ」

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