第149話 それぞれの想い ②
一時間後。ビル四階のコンサートホール。二列目の席に座る実瀬は、セイレーンズのリハーサルを観ていた。右には優唯、左には奈穂。ほかにも数人のフェアリーズが集まっている。コンサートが近いせいか、先日より見学者が増えていた。
『七つ海を越えたラブライター』が流れる。
青のマーメイドドレスにハイヒール、五人は軽快に踊り出す。
背景には、手紙の入ったガラス瓶が波に揺られる立体映像。
海の生き物のレーザーが舞い、泡が噴き上がる。
途中、雷鳴が轟きテンペスト演出へ。曲調が一気に変わり、衣装も瞬時に変装する。
オフショルダー、へそ出し、短いスカート。白地にそれぞれのイメージカラーを纏い、鰭や鱗を思わせる装飾が踊る。足さばきは大胆で、視覚的にも色気が増す。
そして歌。五人がパートを分け、ソロが重なる。美しい歌声がホールに響き渡った。
実瀬は魅入るように見つめていた。
優唯がふいに尋ねる。
「みっちゃん。デビューコン、家族は観に来る?」
「……来てほしいけど。母と父が仕事で長期アメリカだし、姉はUCBDの重装特務隊だから、仕事があるんです」
「最近、シャドマイラ騒ぎで忙しいもんね」
「はい。だから家族は来ないです。代わりに、VIPチケットをクラスメイトに渡しました」
「そっか……」
「優ちゃん先輩は?」
「うちは家族みんな来るよ」
「羨ましいです。行動で応援してもらえるの、心強いですよね」
奈穂が肩をすくめるように言った。
「私は家族なんて、うちのアイドル活動を関わりしたないねん。」
「何てですか?」
「うちは華族やからね。家の名声がどうとか、コンセプトがどうとか、いちいち口うるさいねん。結局、仕事の幅も制限される。じゃまくさいわ」
柳原奈穂は、フェアリーズの中でも知力と学力が突出している。京都出身の名門大生で、知識・クイズ系番組の常連。かつては受験勉強企画『奈穂ちゃんと一緒に○大へ行こう』で生放送の顔にもなった。だがそれは、彼女が望んだキャライメージではなく、家の意向との折衷でもあった。
「大変なんですね、柳原先輩……」
「やから、できれば家族には無関心でいてほしやけど。その方が自由に動けるし、気楽やもんや」
優唯が実瀬に尋ねる。
「みっちゃんは、もっと家族に応援してほしい?」
「……うん。言葉では“頑張れ”って言うけど、それ以上の感想もアドバイスもなくて。まるで赤の他人みたいに感じる時があって……ちょっと寂しいんです」
奈穂が静かに言う。
「その気持ち、分かる。でも、私だって、赤星さんみたいに、自由に企画をやってみたい」
「柳原先輩は、どんな企画を?」
奈穂は目を輝かせた。
「ライターマシンで世界一周とか、エベレスト挑戦とか、アマゾンで一か月サバイバルとか!」
実瀬は、これまで抱いていた“ギフテッドな大和撫子さん”のイメージとのギャップに、思わず感嘆の声を漏らす。
「意外と……勇ましいですね」
(でも、全部海外で、しかも長期だよね……。プロデューサーが許すのかな……?)
実瀬は心の中でツッコミながらも思った。
フェアリーズは、それぞれがそれぞれの事情と想いを抱えて、ここに立っている。
それでも自分は、身近な人にもっと認められたい。
そんな気持ちは、まだ消えていなかった。
先輩たちのリハーサルを見ている実瀬はデビューコンに向け、静かに胸を熱くした。




