第147話 急の連絡
1時間後――
30分ほど走り続けた陽太は、新宿エリアへと辿り着いていた。
2階建て構造の幅20メートルほどある歩道橋の中央に立ち、足を止める。
高速移動だったにもかかわらず、呼吸は乱れていない。
層を成す高層ビル群の谷間を、浮遊電車が滑るように走り抜けていく光景を見上げ、陽太は小さく呟いた。
「平均時速、90キロくらいのペースだったけど……全然疲れてないな。
まだ余裕がある。もっとスピードを上げられれば、移動時間はさらに縮められる」
昨日、ビリーが言っていた言葉が脳裏をよぎる。
――徒歩移動は、状況次第で一番自由が利くス。
「なるほど……。火急の事態ほど、自力移動の方は効率がいいかもしれない」
交通費もかからず、即応性も高い。
実際に自分の足で走ってみて、陽太は改めて移動手段を見直す価値を感じていた。
「さて……屯駐拠点へ向かわないと」
そう思った瞬間、ポケットの中でMPデバイスが振動する。
取り出すと、表示されていたのは《井口 瀧生》の名前だった。
画面表示はせず、そのまま通話を繋ぐ。
「はい、井口先輩」
『おう。聞いたぜ。昨日はずいぶん現場で活躍したらしいな』
「いえ……そういえば、昨日は現場で先輩をお見かけしませんでしたが……」
『ああ。俺は一度〈レナタ〉の件から手を引いて、別件を回ってた。
昨日は空き巣盗難事件、その後は銀行会社社長令嬢の拉致事件だ。
さっき、ようやく片付いたところだよ』
瀧生の背後には、廃ビルの一室が映っている。
割れたガラス窓、壁に走る亀裂、床に転がる数名の濡れた格好の悪党たち。
規制外の火器や刃物が散乱し、室内には湿った空気が漂っていた。あちこちの床に水溜まりが残ってあった。
部屋の奥には、睡眠剤を飲まされたらしい高校生くらいの少女が横たわっている。
すでに現場は制圧され、警察の到着を待つ段階のようだった。
シャドマイラ案件だけに縛られない。瀧生の立ち回り方を、陽太はよく理解している。
先輩が受けた事件を見事に上げたことを知って、素直に喜んて応じる。
「無事に解決できたようで、よかったです。お疲れさまでした」
『で、〈レナタ〉の件はどうなった?戦ったのに、逃がしたって聞いたが』
「現場にいなかったのに、よくご存じですね」
『知り合いがいていな。……やっぱり、俺がもう少し手を回してやらないと厳しいか』
「……申し訳ありません」
『気にすんな。で、上からはどんな指示が出た?』
「はい。それは……」
陽太は、対策本部から受けた指示と、日曜日の自分の行動予定を簡潔に説明する。
話しながら、足取りは自然と屯駐拠点の方向へ向かっていた。




