第133話 退治策
UCBDヒイズル州本部庁舎——
別棟の最上階に設置された『シャドマイラ防災対策本部』。
百畳を超える広さと四層構造を持つ本部指揮室では、天井十メートルの真上に、謎の技術で浮遊する巨大な水晶体が柔らかな光を放ち、室内全体を照らしていた。
一番下の階層にはビリヤード台ほどの巨大なホロテーブルが置かれ、そこから新東京全域の立体地図が宙に投影されている。
先頭に並ぶモニター群には、衛星から送られてくる足立エリアでの現場戦闘中継が映し出されていた。
二階の情報管理エリアでは、UCBDのエンブレムピンを胸元に付けた女性スタッフが、髪をゴムでまとめながら三階の司令席へと呼びかける。
「剣崎部長、キングピーファピュトンの反応、再び消失しました」
「……体型だけでなく知能も上がっているか。記録データ以上に厄介だ。
中臣、エアー爆撃隊四チームを即時出撃させろ。さらに〈ジャイアン・ウォリアー〉の支援を、いつでも出動できるよう待機させておけ」
「了解しました」
中臣暁音は頷き、指定部署の回線スイッチを押して爆撃隊を呼び出した。
「エアー爆撃隊、四チームの出撃を要請します──」
その頃、品川島エリアの空港からは、エイのようなフォルムの戦闘マシンが次々と浮上し、計十六隻が戦況に向けて編隊を組み直していた。
「次はどこに現れる……?」
作戦対策部の一角で、制服ジャケットではなく白いブラウスに赤い大きなリボンを結んだ、それとブレザースカット何処かの学校制服を着る少女が、まるで雑談のような軽さで助言を口にする。
「あの子は負傷したでしょう? 回復には大量の餌が必要になるわ。
人を追う判断を乱すために、狙いを人間から動物へ移すかもしれない」
「大量の餌……」
薔薇飾りの帽子、艶のある紅いロールツインテール。
緊迫した状況のはずなのに、少女、ルベライトの精神は微塵も揺らがず、続いて静かに言葉を重ねた。
「水産か、畜産がある場所に現れるでしょうね」
副部長・葛西陣弥は白髪交じりの眉をひそめ、目の前の少女へ疑念を向ける。
どう見ても中学生ほどの小柄な少女。その予測をどこまで信じてよいのか、判断が揺れていた。
「部長、本当に彼女の判断を信用してよろしいのですか?
延長戦を覚悟する中、彼女の一言で人員配置を動かすのは、あまりにも拙速にすぎます。無駄に骨を折るだけですよ」
ルベライトは、涼しげな笑みを浮かべて肩をすくめた。
「ふふ、妾の《《血族の力》》が、なめられたものね。
信じるかどうかはお好きに。死傷が出るのも、そちらの判断次第よ?」
作戦対策部の席で、制服ジャケットを肩に掛け、筋肉質の腕を組む三十代の男、
綾瀬颯斗が口を挟む。
「副部長。ナイト・ガーディアンズの指導者として言わせてもらいます。
ルベライトさんは怪人も怪物も倒してきた実績があり、
高レベルのアニマル・コミュニケーター能力を持ち彼女は、シャドマイラの
《《意識》》すら感じ取れる。信頼していいはずです」
その時、シャドマイラ警報が鋭い音を立てて再び鳴り響いた。
「部長!キングピーファピュトンが再出現!」
「何だと!?」
「今度はどこだ!?」
ホログラム地図が高速で切り替わり、名古屋エリアへズームインされる。
名古屋港に、キングピーファピュトンの生体反応が光点として表示された。
「名古屋港です!水産ふ頭の倉庫が襲われています!」
ルベライトの予測が完全に的中した。
葛西副部長は口を開いたまま驚愕し、画面に映る惨状を凝視する。
新鮮なマグロを貪り食う本体、飽きることなく捕食を続けるワームの首たち。
興味深そうに顎へ指を添え、颯斗が言った。
「影さえあれば、どこへでも行ける……瞬間移動に近い能力か」
剣崎部長は勢いよく手を振り、次の指示を飛ばす。
「中臣、伊勢湾に配置した艦隊に連絡し、電磁砲射撃で退治!さらに、現地に滞在しているワルキューレに退治協力を要請しろ!」
「了解!」
ルベライトは小さく笑い、ぽつりと言う。
「ほらね。回復したら、あの子はお腹がすいて仕方がないのよね」
颯斗が気楽そうに声をかける。
「ルベライトさん、さっきはすまなかった。
よければ、あのシャドマイラを倒すヒントを教えてくれませんか?」
少女はため息混じりに、まるで退屈そうに答える。
「焦り追いかけないこと。長期戦で味方ばかり疲弊させても意味がないわ。
今夜、レンジャー隊のお兄さんお姉さんたちにでも銭湯を入れて英気を養わせるとか?」
近くの女性スタッフが目を丸くする。
「……銭湯、ですか?」
「そう、お風呂を入ることよ」
颯斗は豪快に笑った。
「ハハハ!面白いことを言うじゃないか、ルベライトさん!」
剣崎部長は、その言葉の意図を慎重に尋ねる。
「ルベライトさん。今の助言には、何か具体的根拠が?」
「ええ。あの子は鳥型でしょう?
多くの鳥類と同じく、どれほど遠くへ行っても、成獣になると生まれた“巣”へ帰ってくるの。
妾は八百年、風霜を見てきた血族よ。真祖の名にかけて断言する。
あの子は必ずまた東京に戻るわ。
だから今のうちに味方の将士たちへ英気を養わせ、各エリアの戦力も再編・強化しておくことね。台風が去った後、勝機が来るでしょう」
説得力を持った言葉に、剣崎部長はさらに問いかける。
「具体的にどう倒すべきだと?」
「そうね。あの子の精力の源は嫉妬の念。
この大都会に立ち寄る限り、どれほど傷を与えても何度も回復する。ならば、《《一瞬で仕留める》》方法を練らなければ、討伐は不可能でしょうね」
「一瞬で……。やはり《《姫路さんの力》》を借りるしかないか」
ルベライトは指を口元に当て、微笑を深める。
「どうかしらね?彼女には《《逆らえない弱点》》があるのでしょう?」
颯斗は、ルベライトの言葉の意味を慎重に噛みしめながら応じた。
「……要するに、彼女を投入するタイミングが肝心、というわけか」




