第131話 雨中の激戦 ①
新東京・足立エリア。
大雨の降りしきる中、五階建てのビルに匹敵する巨体へと成長したキングピーファピュトンが暴れ回っていた。
住宅街のど真ん中、その長い首を伸ばして嘴を開き、炎のブレスを薙ぎ払う。
衝撃波を受けた家々の屋根が吹き飛び、破損したガス管に引火したのか、大雨の中だというのに火球が燃え上がり、あちこちで火の手が上がっている。
背中からは太さ二十センチを超えるワーム状の首が五十本。ぞわぞわと蠢き、まだ避難できていない人影を見つけると、一斉に伸びて捕食する。
大蛇のように噛みついた首が獲物の頭部を噛み千切り、別の首が別角度から何度も襲いかかる。
最終的に残るのは、腕か足首が一本、そんな破片だけだった。
豪雨と突風のせいで、住民たちは家から外へ逃げ出すことすらままならない。
殲滅も難航し、死傷者は増える一方。
エリア内に配置されていた重装特務隊が、ようやく現場へ辿り着いた。
「こちらチーム332・Dチーム。逃走中のキングピーファピュトンを確認。これより撃滅に移る!」
そう告げたレンジャー隊長が、ビームライフルを構えて叫ぶ。
「撃て! 今度こそターゲットを逃がすな!」
「了解!!」
散開した隊員たちが一斉にビームを放つ。
直撃を受けたキングピーファピュトンは悲鳴を上げ、怒りに燃えたワームの首の目が赤く光ると、隊員たちへ猛反撃を開始した。
「来るぞ!」
「散開!」
「ぐあっ!」
避けきれなかった隊員の一人が、死角から伸びてきた別の首に噛みつかれ、そのまま近くの家屋に叩きつけられる。
マスクのホログラムに映るバイタルモニターが、その隊員の生命反応、鼓動の停止を告げた。
「03号隊員っ……!この野郎!!」
「気を乱れるな!円陣を維持しろ!互いの援護を忘れるな!」
重装特務隊の攻撃は確かにダメージを与えている。
だがキングピーファピュトンの再生速度はさらに速く、削り切ることができない。
ひと薙ぎの火炎ブレスだけで、陣形は簡単に崩され、
ワームの首が猛烈な速度で隊員たちを追い立てる。
やがてキングピーファピュトンが堪えきれないとばかりに咆哮を上げ、巨体を回転させた。
無数のワームの首が、十数本の巨大な鞭と化して周囲を薙ぎ払う。
周りの建物は、まるで積み木で作られた玩具の城のようにあっけなく。
さらに巨体が大きく一歩跳躍すると、一直線に猛進して二百メートルほど先で再び停止する。
住宅街の一軒家は、その暴走だけで、建物も中身も区別なく、ことごとく断壁残垣と化していた。
行く手を塞ごうと、別の小隊が前方で迎え撃つ。
後方からは追跡してきた特務隊員たちが挟み撃ちを試みるが、キングピーファピュトンの動きを封じるには至らず、現場の犠牲者だけが増えていく。
その時、
襲いかかるワームの一本に、一本の釘が突き刺さった。
次の瞬間、電光が走り、その釘を叩いた首が爆ぜ飛ぶ。
一本、二本と釘が撃ち込まれ、二度目の電流が走ると、命中した首が連鎖的に爆散していった。
「な、何だこれは!?」
「レンジャー隊のおっさんたち、加勢に来ましたっス!」
屋根の上から飛び降りてきたのは、腰パンに鮮やかなTシャツ、ストリート系の服装に金髪頭の少年だった。
腕にはリストサポーターとニーサポート。
ビリーマシュクロフトが、戦闘態勢で地面に着地する。
ワームの首が一斉にビリーを狙って襲いかかる。
しかしビリーの目には、その首の動きがナマケモノのように遅く見えていた。
視界に映る雨粒さえ、宙に浮かんで止まっているようだ。
ニヤリと笑い、ビリーが叫ぶ。
「ボルトチャージ!」
次の瞬間、全身から青い電光がほとばしる。
床を蹴ったビリーの身体は音速を超え、雷光のように走り出した。
キングピーファピュトンの攻撃を止めるように、ワームの首の半分を狙って打ち払い、跳ね返していく。
一瞬のうちにビリーの姿が隊員たちの前から掻き消え、残るのは走り抜けた電光の軌跡だけ。
ストリートダンスを思わせるアクロバティックな動きで、彼はワームの首を一本一本叩き折り、わずか二秒で五十本の首の攻撃を封じてみせた。
「もう一丁、ボルトシェイキング、食らえ!」
ビリーはキングピーファピュトンに向かって拳を振り下ろす。
床に叩きつけられた拳から高圧電流が地面へと走り、
地面ごと振動しながら、衝撃波のようにキングピーファピュトンの全身を襲った。
イヤァァァァン、ミャオオオオ!!――
甲高い悲鳴とともに、キングピーファピュトンの動きが一瞬鈍る。
「あの少年……一瞬でキングピーファピュトンの死角攻撃を全部止めたぞ……」
「少年、所属はどこだ!」
「チーム・ウィクトーリア所属、ビリー・マシュクロフトっス!」
「聞いたことがある……神雷が指導する若手異能者チームか」
「ってことは、あの少年が噂の【電気キッド】か」
「レンジャー隊のおっさんたち、自分から距離取ってくださいっス。巻き込まれたら、俺の電気で感電するかもしれないっスよ」
「よし、彼から距離を取って援護射撃に切り替えろ!」
「了解!」
重装特務隊員たちはビリーから十分な距離を取り、後方からの援護狙撃に回る。
ビリーは掌の上で石を軽く弾ませながら、挑発するように言い放った。
「このアグリー・バード、これ以上暴れたら、マジでぶった切るっスよ?」
石をキングピーファピュトン本体の首めがけて投げつけ、指先から電流を走らせる。
瞬間、石が電撃とともに爆散した。
「「「!!!」」」
挑発に乗ったキングピーファピュトンが、全てのワームの首を一斉にビリーへと向ける。
「へへ、簡単に釣られたっスね!」
物凄い速さで襲い来る首を、ビリーは半ば弄ぶかのように避けていく。
キングピーファピュトンは、その動きをまったく捉えられない。
速度だけでなく、体のキレもストリートダンサー顔負けだ。
回避と同時に釘を撃ち込み、わずか五秒で五十本の首それぞれに一本ずつ釘を刺してみせる。
高く跳躍したビリーが、天へ指を突き上げる。
指先に電流が集中する。
「ボルトブレイク!!」
放たれた雷光は、無数の電気鮫龍のような形となって飛び散り、
一本残らず、先ほど打ち込んだ釘に食らいついた。
五十万ボルトを超える高圧電流が流れ続け、ワームの首という首が、すべて撃ち折られていく。
邪魔する首を一掃すると、ビリーは着地し、
腕から迸る青い電流を拳に集中させ、そのままキングピーファピュトンの胴体へと渾身のストレートを叩き込んだ。
続けざまに左拳。
両手を突き出して叫ぶ。
「エレクトロニクス・ブレイカー!!」
一瞬、ビリーの瞳が真っ白に染まり、全身から爆発的な電流が迸る。
ゼロ距離で集中した電撃エネルギーが、直撃した。
直に衝撃を浴びたキングピーファピュトンの脚が崩れ、その巨体が地に倒れ込む。
焦げ臭い匂いが立ち上る。
一度飛び退いたビリーが、倒れた怪物の様子をじっと窺った。
「ゼロ距離の電撃は効いたっスよね?」
そう思った矢先、キングピーファピュトンの巨体が霞むように消えた。
数分も経たないうちに、先ほど折ったはずのワームの首が、一瞬で再生し、黒いウニのように全身から突き出る。
ビリーは反射的に跳び退き、10メートル以上離れた家屋の屋根へと退避した。
「このアグリー・バード、タフすぎっスね!なら、もう一丁!」
一旦距離を取ったビリーは、キングピーファピュトンを逃がさぬよう、再びボルトシェイキングを地面に叩き込み、その動きを麻痺させる。
「援護射撃を緩めるな!」
ビリーと重装特務隊員たちが、キングピーファピュトンと激戦を繰り広げる中、
上空の雨雲を、白銀の機体が突き破って現れた。




