第129話 支援プロジェクトのミーティング ②
三階分の高さの天井は吹き抜けになっており、大きな作業テーブルにはさまざまな研究機器が並ぶ。その中でもひときわ目を引くのは、物を作るための機械だ。
小型装備のパーツを削り出す溶接トーチ、最先端のデジタル紋章を刻み込む専用端末、錬術士アーティファクトを作るための魔導用ROMライター、ここは研究室というより、発明家の工房に近い。
遮光ゴーグルをかけ、何やら細かい加工をしている大原啓道の姿を見つけ、瑤妤が声をかけた。
「大原所長、陽太をお連れ来てしました」
手を止めた大原は遮光ゴーグルを額に上げ、嬉しそうにこちらへ振り向いた。
「おお、来たか日野くん。待っておったぞ」
「お待たせしてしまって、すみません」
「気にするでない。儂は忙しい男じゃからな、人を待つ時間も無駄にはせん。こうして作業しながら待つのが常じゃよ。それに、ミーティングの参加者はまだ全員揃っておらん」
「そうなんですか……。沖田さんがまだ、とか?」
「いや、キングピーファピュトンの件で支援要請が入ってな。今朝、都心へ向かってもらった」
「そうでしたか……。では、他の参加者は——」
陽太がそう言いかけたとき、研究室の自動ドアが開いた。
Cカーブを描く洗練されたミディアムヘア、白衣の首元から覗くIDカードには
〈異能支援部〉の文字。
その女性と、クリーンスーツ姿の三人の研究員が入ってくる。先頭の女性に見覚えがあった陽太は、思わず目を見開いた。
「お久しぶりですね、日野くん」
数日前、支援センターで身体検査のときに付き添ってくれた斎藤亜由実だった。
「斎藤さん……このプロジェクトのメンバーなんですか?」
「久しぶりに会いましたけど、元気そうで何よりです」
「日野くん、彼女は君の支援チームの主任じゃ。君のプロジェクトは、彼女たちの提供するデータを基礎に組み上げられる」
「そうなんですね。斎藤さん、その節は本当にお世話になりました」
「これからもよろしくね、日野くん」
「日野くん、紹介しよう。彼らが今後、君の支援プロジェクトを担当するチームだ」
痩せ型の四十代男性、無骨そうな雰囲気のある顔つき。
バングツーブロックの金髪ショートヘアの白人青年。
そして10代後半くらいに見える少女。
先に声をかけてきた四十代男性が手を差し出した。
「チームの装備制作と改造を担当する、門脇豊日だ。よろしくな」
門脇はグローブをつけていない素手で握手を求める。
陽太は真っ直ぐに目を見て握手を返した。
「日野です。よろしくお願いします」
ほんのり温度を帯びた手の感触に、門脇は口角を上げる。
「ふん、興味深い少年だ」
「それから、彼は装備のデジタルシステムを担当する、ヘンリー・デリックじゃ」
門脇の背後から白人の青年が一歩前に出て、歯を見せて明るく笑う。
「君と同じ超人属の異能者だ。ヘンリーって呼んでくれ。よろしく」
高い鼻と鋭い顎、いかにも陽気そうな彼も、陽太と固く握手を交わした。
その手には、普通の人間にはあり得ない“粘性のある物質”がまとわりついている。
気づいたものの、陽太はあえて口に出さなかった。大原が代わりに補足する。
「彼は非ニュートン流体の物質を分泌する体質でな。異能者として、良きアドバイザーになってくれるじゃろう」
「よろしくお願いします、ヘンリーさん」
その瞬間、陽太の頭に、ふっと微かな電波のような感覚が走った。
視線を向けると、最後の少女が知的な微笑みを浮かべていた。
「キュフィネと申します」
ミントブルーのダブルポニーテールは、海ぶどうのような飾りで結ばれている。
絵の具のように白い肌、サファイアのような瞳に、トパーズ色の虹彩。
人間離れした雰囲気とともに、部屋全体の“空気”がふわりと柔らかくなるような感覚、まるでマイナスイオンが急に増えたかのような心地よさが広がった。
年齢は陽太とそう変わらないように見えるが、とても普通の学生には見えない。
陽太は思わず質問した。
「彼女も……この研究所の研究員なんですか?」
「彼女はシリウス系の惑星から来た、レムリタクス星人だ」
「レムリタクス星人……。キュフィネさんは、本物の宇宙人なんですか?」
彼女は微笑みを深めて言う。
「陽太様、宇宙には文明を築いた星が、海辺の砂ほど存在しますよ」
生まれた初めで本物の宇宙人と接触し、更に自分の名が呼ばれる気分に妙に照れ臭い陽太。
「名前で呼んでくれるのは嬉しいですけど、様はちょっと堅いかも……」
キュフィネはアーモンド形の美しい瞳を瞬きもせず、さらりと続けた。
「多人数の場では、直接的な関係にない方を呼ぶとき、名の後ろに敬称をつける。それが、レムリタクス星人の一般的な習慣なのです」
「そうなんですね……」
陽太は頷き、大原へ視線を向けた。
「UCBDって、宇宙人も普通に働いているんですか?」
その疑問には、瑤妤が答える。
「陽太くん、地球には人類以外の種族がたくさんいるの。中には、他の星から長期滞在している人たちも。
反重力や超伝導をはじめとする高度な技術の多くは、彼らの監督と指導があったからこそ実現したのよ」
「キュフィネさんは、レムリタクス星人の研究者なんですか?」
「私は、学校の課題として開発中の文明の現状を調査するために地球へ来ました。
技術開発担当ではありませんが、星間テレパシー通信によって、故郷の同胞たちの知識と経験にアクセスできます。人類の研究に関する質問にも、ある程度お答えできますよ」
「意識を介して、他人の経験を利用できるんですね。……すごいです」
そのとき——
頭の奥で、まるで火花が散るような感覚が一瞬走った。
チェスターがテレパシーで語りかけてきたときとよく似ている。
キュフィネの口は動いていないのに、意識に直接声が響いた。
(わたくしのことより、陽太様のほうがよほど興味深いのですよ。
《《ラーヌスの火種》》を受け継ぐあなたに、安らかな日々が訪れるよう、心より祈りましょう)
奇妙な言葉に、陽太はしばし呆然とする。




