第115話 報告と相談、事件の匂いを嗅き追い ③
「そうだ、昨晩起きた不可解な事故だ。」
瀧生は自分のディバイスを操作し、保存してあったニュース映像を陽太に見せた。
画面に映る見出しを首を伸ばして読む陽太。
「会社のサーバーが謎の火災に……だと?」
「どうやら、データ保存用のルータユニットに不可解な痕跡が残っていたらしい」
事故報道に使われた写真には、ルータユニットに多数の小さな穴が開いた痕が写っていた。
「ひどい被害ですね。まるで機関銃で撃たれたみたいだ」
「よく見ろ。穴の縁がギザギザしてるだろ? 銃弾の跡とは違う。なんらかの異形に噛まれたような痕なんだ」
陽太は指で画面を弄ると、他に同事件の写真を見ながら訊ねる。
「なるほど……ニュースの写真以外にも、先輩は現場を別角度から撮った写真を何枚か持って居ますね?」
「ああ。捜査協力している知り合いのエージェントが送ってくれたものだ。昨晩は同様の被害が五箇所で連続して発生している。発生順を見るに、同一個体の仕業と見て間違いない」
「でも、これは本当にシャドマイラの仕業ですか?」
「情報の共有が遅れたのかもしれんが、昨夜UCBDを通じてネオ東京地域のジャスティスキーパー連盟にシャドマイラの捜査依頼が出た。今回の相手は……」
「まさか、キングピーファピュトンですか」
「お前も知ってたのか」
「ええ。今朝、同じ道場を通う先輩から聞きました」
瑤妤に通報したことを素直に言えず、陽太の表情がやや固くなる。
「なら、昨晩のサーバ会社連続被害はキングピーファピュトンの仕業だろう」
「でも、シャドマイラって人間以外も襲いますか?」
「シャドマイラは種ごとに習性が違う。幼獣は人間を直接狙わず、別の摂食方法で成長することもある」
「紅先輩は、原因は嫉妬から生じた憎悪だと、タレントやアイドル絡みのネット炎上が引き金になったって言いましたけど……」
「たぶんそうだ。ネット上で嫉妬が集積された場所を襲い、シャドマイラは貪欲な生き物だ。まだ別のサーバ会社が被害を受ける可能性もある」
「でも、ヒイズル州にあるサーバ会社は東京だけじゃなく、ほかな地域にもあるんじゃないですか?」
「ああ、同じ会社でも支社はいくつもあるからな」
追う対象をどう絞るか、途方に暮れたように陽太は戸惑いを口にする。
「でも、全部を重点監視するには人手が足りない。やっぱり、シャドマイラ本体が建物並みの大きさに成長するのを待つしかないのか……」
「いや、それを待ってたら手遅れになる。ヒグマほどの大きさになれば、摂食ターゲットは人間に移るかもしれない」
「完全体になるのは六日後だ。成長の痕跡から見て、もうすぐ誰かに目撃されるはずだ」
「完全体にさせはしない。俺はこれからしばらく東京を巡回する」
「毎日往復つもりですか?」
「当然だ。五年前、北九州を壊滅させたのと同種だ。既に巨大災害と同レベルの案件だ。東京連盟の連中に丸投げはできない。お前も来るか?」
「はい、行きます……でも明日は用事があるので、その後に合流します」
「捜索範囲が広いから分担して動くべきだ。それに、お前、動揺してるな。何が気になってるんだ?」
「いえ……ただ、この件で“嫉妬の対象”になったアイドルが一体誰なのかが気になって……」
「確定はしてないが、もしかするとフェアリーズかもしれない。ちょうど新グループのデビューコンサートが近いし。ネット上で話題になる要素が多いからな」
陽太は驚いて口を開けた。
「まさか、エアーリアルズと関わるか?」
――まさか、赤星さんが関わっているなんて。彼女は大丈夫だろうか?
「知り合いにアイドルがいるのか?」と瀧生が問う。
「はい、同級生です。彼女が無事ならいいんですけど……」
「まあ、心配はするな。シャドマイラが襲う対象は嫉妬された被害者そのものではない。嫉妬する対象や場を狙うんだ。ネット上で煽られた場が大都会なら、巨体になったキングピーファピュトンはそこを広域に破壊するだろう」
陽太は自分のディバイスで「イレアナ」「赤星実瀬」「記事ネタ」といったキーワードを検索した。表示されたのは『フェアリーズ公式サイト』、芸能ニュース、デビュー訪問の記事、テーマソングは特撮ドラマの主題歌に使われるに関する報道、人気投票のリンクなどだった。目立った悪影響を示す記事は見当たらない。
陽太は画面を下へスクロールする。やがて、炎上気味の記事のタイトルで画面が止まった。
『エアーリアルズのクイーン・イレアナは凡庸?オーディション基準がブレているのでは』
掲示板へ飛ぶと、サイトはアクセス不能になっていた。システム障害の告知が画面に大きく出る。
《ただいまアクセス集中および不明な障害により、該当ページは一時的にご利用いただけません。復旧までお待ちください。ご了承いただきますようお願い申し上げます》
「このページが読めないのか?」
「被害を受けたサーバ会社がデータを保存しているから、ページが落ちるのは当然だ。日野、俺たちには、今は、炎上ネタに気を取られている場合じゃない。キングピーファピュトンを見つけて倒すことが優先だ」
陽太は瀧生の忠告を受け、気を逸らされないように深く頷いた。
「……はい、分かっています」




