第32話 旅の始まりと、女子力高い暗黒騎士の肉料理《ビーフシチュー》
女子力高めの暗黒騎士と、前衛にしか見えない白魔術士、盾を持たない両手剣を武装したナイト、『魔法剣士シズクとエルチェ』のパーティーが完成した!
「なにこの、でこぼこパーティー!」
アルハンブラを攻略した時のような心強さの欠片も無い、ヘンタイパーティーである。
某有名MMORPGで言うところの『アンコック・臼・内藤』である。
側車のミアス2台での旅となった。
シズクとエルチェが乗るミアスには、キャンプ道具満載だ!
意外だったのは、ミッキーの嫁である『クリス』だ。
シズクはてっきり白魔術士はクリスだと勘違いしていた。
クリスは盾を持たないナイトだった。
両手剣を装備している。
一方、ミッキーは……。
「ミッキーさんが白魔術士だったとは……意外ですよね?回復とかできるのですか?」
「ん?回復?ワシは回復なんて出来ないぞ?」
――お前は何故白魔術士になった!?
暗黒騎士バニラが回復魔法が使えるとは到底思えない。
――消去法で……。
「それじゃあ、クリスさんが……?」
「ええ、私が回復も出来ますのでご心配なく……というより、回復必要ないでしょ?」
「ああ、最初にワシが全員にリジェネ掛けるからそれで回復は問題ない」
……大丈夫か?
「私は自分で治癒出来るから問題ないわよ?」
――暗黒騎士バニラ……だろ?白魔術は正反対の属性だ。
「……エルチェ……エルチェ……ヤバくない?」
シズクは小声でエルチェに訪ねた……!
「……小声で聞かなくても……ユニゾン能力で直接話せるわよ?」
「――あ!そうだった!……ってヤバくない?」
シズクの心配にエルチェはユニゾン能力の一つである直接脳に語りかける……!
「――うーん……どうだろう?ハイパーノートリアルモンスター討伐でもしない限り」
「――バニラさん一人でなぎ倒せるかな……?」
「――私とバニラさんがアルハンブラで生活してた時、伝説的暗黒騎士だったからね」
エルチェとバニラはアルハンブラで生活していたときからの知り合いのうようだ。
「シズク姉、先頭は私に任せてもらっていいかな?」
噂のバニラがミアスの走行順を提案してきた。
バニラ曰く、シズクのミアス適応能力が高く、先頭を走らせるととてもではないが追いつけない。よって、バニラが先頭、その後ろをシズクが追従していくこととなった。
――そして……いざ走り出すと……。
「エルチェ……後ろから見ると凄くカオスなんだけど……」
ミアスは3人乗れる……。
が、搭乗方法に難アリだ!
運転者はバニラ。
側車には……なんとミッキ!
タンデムシートに後ろ向きにクリスが乗っている!?
「あのう!私の方にクリスさん乗った方がよくないですか!」
「――ああ?な……って?」
前方を走るバニラ達が何を言っているか聞き取れない!
「だ!か!ら!私の方にクリスさん乗った方がよくないですか!」
「――ああ?な……って!!」
前方を走るバニラ達が何を言っているか聞き取れない!!!!
「シズク!私に任せて?」
エルチェはバニラ達と話す方法があるらしい。
シズクは側車の足下から何から電灯?のような銃?っぽい物を取り出し……。
――カチャカチャ!カチャカチャカチャ!カチャカチャ!
光信号を送った!
「――あああ?チカチカすんなや!」
バニラ達3人の頭の上に『?』が出ているかのように見えた!
――そしてミッキーの頭の上に『!』っと出た来した!
「――あ!ウ〇コか!?」
エルチェはブチ切れて光信号機をミッキに投げつけた!
投げた信号機は見事にミッキーの頭にヒットした!
「なんでよ!あの三人は元軍人よ!光信号位知ってるでしょうか!」
見事にミッキーにヒットした光信号機だが、バニラが運転をするミアスの速度が著しく遅くなった。
追従していたシズクもバニラに合わせてミアスを停車した。
「バニラさん、どうかしました?」
バニラを見るとかなりの疲労感が溜まっているようだ……!
バニラの呼吸が荒々しい。
「シズク姉、休憩にしよう!」
アローナの街から相当距離は離れたが、草原を『1時間程』走っただけだった。
※ファバーダ時間『1時間=1属性時間=地球時間3時間程』
「体力の限界?」
一方のシズクは疲れた様子は微塵も無いようだ……!
腑甲斐ないバニラをクリスが茶化す。
「あら?もう限界?鍛錬が足りないわね!」
「クリス!じゃあ貴方が運転する!?ミアスの精神力の消費量半端ないんだからね!」
バニラはささやかに抵抗した。
だが、一方、シズクは全く疲れていないようだ……!
「シズクさんはエルチェとユニゾンしてミアスを運転しているのに全く疲れてないわよ!」
「バニラ……そんなんでこれから大丈夫?」
「いやいやいや!ミアスを1時間も連続に転がせる人なんてこの世界にいないわよ!」
――確かに……シズクはこの世界の人間ではない。
「クリス、そうバニラを攻めるな。徒歩なら3日掛かるほど進んでいるだ」
「今日の所は丁度小さな湖もあることだから、今日はここら辺でいいだろ」
「……まあ、アンタが言うなら……そうするかね?」
小さな湖の畔に到着してからの3人の手際の良さは光のようだった!
数分も経過しない間にワンポールテントが二張り一瞬で立った!
二張りのテントを結ぶようにタープで連結をして見事な野営地となった!
「よし……完璧なテントだ!」
仕上がりにミッキーは納得している。
「さあ!クリス。宴の準備を始めるわよ!ミッキーぼーっとしてないで薪の準備よ!」
すさまじい手際の良さにシズクはミアスにまだ乗ったままだった。
シズクはミアスをテント横に停車し、エルチェとタープの下に置かれている椅子に腰掛けた。
シズク達がリラックスしていると、バニラが夕食の準備に取りかかった!
手のひらサイズのスキレットを人数分用意した。
スキレットを使った肉料理を披露してくれそうだ……!
シズクとエルチェは、豪勢に働くバニラ達に疑いを抱いていた。
※豪勢に働くは和歌山弁である。
「ねえ……シズク?」
「はっ!金剛鎚は120%の仕上がりだからね!」
シズクは『あらぬ方向に』なった出来栄えを気にしているようだ……!
このスフィア回収のミッションでアイアンロッドをシズクは気にしているようだ……!
「……いや……アイアンロッドは別に良いから……」
「そもそもなんだけど、あの三人……どうも怪しい」
「一番お金になりそうなスフィアの取り分がシズクが総取りってのが……」
「……まさかと思うけど、『鍛冶士』が同行しないと回収できない素材……」
「……狙ってるかもよ?」
エルチェは信用していないようである。
ミッキー達への報酬に関しては、スフィア以外のドロップ品全てである。
シズク達の工房の『売り上げ』は、街の『街灯のランタン』を完成すると、実費負担とは別で1本辺りの手数料を貰えるようになっている。
火のスフィアだけは『手に入らなかった』為、シズク達が回収に行くことになった。
当然、エルチェは『火のスフィア』を市場価格で上乗せする予定だ。
今回の街灯は、商売上手なエルチェに任せることにした。
ミッキーとバニラの話では、『鍛冶士シズク』がいれば、『あるモンスター討伐』が可能だからと、『スフィア』は全て貰えるようになった。
――感のいいエルチェは『筋肉バカ三人の策略』を疑っていた。
だが、マイペースなシズクは『手伝って貰える』だけで満足しているようだ。
「エルチェ!人を疑ったらダメだよ!確かに見た目は危ないけど、中身はきっとピュアだよ!特にバニラさんなんて『乙女の心を持つ女の子』なんだから!」
……シズクの説得力はゼロである!
間違いなく『鋼の筋肉とドス黒い女の裏面』を持つヘンタイである。
だが、残念なことに『料理の腕前は並の女子力』では勝てない。
しかし、食材があっての女子力だ。
シズクは野菜を積んできていたのは確認をしてきたが……。
「バニラさん……ってベジタリアン?」
「お肉ないですよね?」
――発育期であるシズクはキャンプと言えば、『肉』であった。
肉料理に使いそうなスキレットをカンカン鳴らしながらシズクは訪ねた。
「ん?バウンスの肉なら用意できるから大丈夫だ!」
※バウンスとはこの世界の『牛』の一種である。
――広大なのどかな草原に『バウンスの親子』がのんびりと草を食べている。
――いやいや……。
――まさか?
暗黒騎士バニラは懐から巨大な牛刀包丁を取り出した!
おいおいおいおい!
せめてお母さんの方にしてあげて!!
暗黒騎士バニラは迷わず『バウンス』めがけてまっしぐらした!
――広大なのどかな草原に『バウンスの子』の鳴き声が響き渡った!
「肉も女子も処女が美味しいのよ!」
バニラはトンデモない事を言った!
シズクは予想通りの結果に……。
「……だよね……エルチェ……」
「ん?よくある事よ?ここは異世界だからね」
「……でもでも、せめてお母さんの方にしようよ!」
シズクはせめてお母さんバウンスにして貰えなかったのかと悩んだが……?
「うーん、子バウンスだけで生き残れないから、バニラさんの選択は間違ってないわ」
「あと、私たちのパーティーで無駄なく食べ尽くすなら子供の方よ」
「彼女の選択は間違ってないと思うわ」
シズクとエルチェが無慈悲な現場を見ながら語り合ってる間に、バニラは見事なまでにバウンスを処理した。
処理を終えたバニラが勝ち誇るかのうように語り出す……!
「今日は最高のビーフシチューが出来るわ!」
バニラのビーフシチューにシズクが即反応する!
「エルチェ!今、ビーフシチューって言ったよ!」
「……シズク……ビーフシチュー好きだったっけ?」
エルチェはシズクが特段ビーフシチューが好きだとは思ってなかった。
「そういう意味じゃなくて……『ビーフ』って言ったって事!」
ビーフ=バウンスと紐付けた事にツッコミを入れた!
「……絶対……バニラさん私たちの世界の人間でしょ?」
バニラの料理がシズクの馴染みのある料理ばかり出てくるからずっと疑っていた。
「まあ、シズクの言い分も判るけど……私は100年この世界で生活してきているわ」
「その100年の中で、バニラは赤子の時から知ってるから、この世界で産まれている」
「……転生?して記憶があるなら………うーん、どうなんだろ?」
「ただ、言えることは、シズクとは違う。私たちの世界の記憶がないわ」
「それに、ナキのように神の血を引く血族でもないわ」
「可能性として、転移してきた『料理の師匠』がいるかもね?」
シズクはバニラの料理に一目は置いている。そして日本食のニュアンスが多く感じられる懐かしい味に助けられていると思った。
バニラはバウンスの命に感謝し、バウンズの肉を綺麗に捌ききった。
シズク達の旅が充実した事は言うまでもない。





