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本の世界の鍛冶士 柊シズクの物語  作者: 川崎タイチ
港街アローナ・ビルド編<街灯ビルド>
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第31話 シズクと側車ミアス

 シズク達は出来上がったアイアンロッドを持ち、バニラの経営する宿屋ラパンへと向かった。

 ハルネ地方のモンスター討伐の準備をする為だ。

 昼食時が終わった頃にラパンに来るようにバニラに言われていた。


 ラパンに到着すると馬車……ではない乗り物が停車していた。

 シズクの初見では、『木の車輪が付いた乗り物』ではある……が?


「ねえ、エルチェ?荷車……じゃないよね?この世界にも乗り物があるの?」

 形的には馬車や牛車など、家畜に荷車を引かせる構造ではない。

 ……むしろ……。


「シズクは初めて観るのね。この世界の乗り物よ」

「あれは『ミアス』だね」

「風のスフィアを利用した風力で稼働する……まあ、判りやすく言えば車だね」


 無駄に大量の書物を読み漁っているシズクはこの乗り物を知っている……。

 縮尺が若干違うが……?


「あ!ウラルだ!」

 

 シズクは側車に興奮をした!


「構造的には風のスフィアを利用した動力よ」

「スフィア自体は風の加護を引き出すユニットに過ぎない」

「スフィアから出る高圧力の『風の力』を『風車』に当てることで回転の力に変換するの」

「変換された力を『歯車』を介して『車輪』にパワーを伝達する仕掛けよ」


「って!この世界は『産業革命』が起きているのね!」

 『エンジン』に近い構造体が存在していることにシズクはワクワクした!

 異世界と言えば『荷馬車に若いメスを乗せた奴隷商人』が乗ってる『荷馬車』だからだ。


「うーん、どうなんだろ?『スフィア』や『精神の力』があるから、ここ100年は停滞してる」

「アルハンブラのような大きな物体を動かせる動力がある」

「……まあ、おたのしみ・・・・・に言わないでいるけど、多分シズクが一番驚く街もこの世界にあるわよ」

「航行予定では、あと『60日位』したらアローナの港に来るわ」

「それまでに街灯のランタン……完成させるわよ!」


 シズクは三輪車にワクワクしている!

 もちろんシズクは運転席に乗る気満々だ!

 シズクはジロジロと『三輪車のミアス』を眺めていると、『ある装置』が付いていない事に気付いた。


「エルチェ!ブレーキ付いてないよ!!」

 興味津々にシズクが訪ねた……答えはエルチェではなく……。


「ああ?ブレーキって何だ?」

 野太い声の……絶世の美女『バニラ』が逆に質問をした。


「バニラさん!この『ウラ……』じゃなくて、『ミアス』の『制動装置』が付いてないんだけど?」

 ハンドルにはクラッチレバーは付いているが、『アクセルとブレーキ』が付いていなかった。


「コイツの発進と停止は気合でするのよ!」

 筋肉的解答だった!


「……シズク、ある意味、気合いで合ってるわ」

「精神力で加速・減速が出来るの。但し、急制動は出来ないわ」

「一応、歯車を逆回転すれば……急制動出来ると言えばできる」

 エルチェはバニラよりは丁寧に説明をした。


 ――シズクの表情が悪意ある笑みへと変化――。


「バニラさん!このミアス……私に乗らせて貰ってもいいですか?」

 シズクはバニラにミアスの試乗を嘆願してみたが……。


「ん?姉さんにはさすがに難しいと思うわよ?」


 シズクは『まさかバイクに乗れる』とは思っていなかった。

 正確には『三輪カー』だが、シズクはワクワクしている!


 ――当然、無免許運転である!

 そもそも、異世界に免許は無いであろう?


「……まあ、シズク姉さんには世話になってるから、構わないけど」

「まあ……動かせたらね……」


「よし……!」

 ――シズクの表情が悪意ある笑みが深みを増した――!


「それじゃ!ちょ……っと街の中流してくるね!」


「……え、ええ……?」

 バニラは快く思っていない?

 むしろ『動かせるものならやってみな』的なようだ?


 許可を貰ったシズクの行動力は『風のごとく』素早く動き……!

 『ミアス』に跨がり(また)、『精神』を車体に込める……!


「姉さん……ミアスは相当な鍛錬をして『初めて前進できる』代物ですわよ」

「早々に……」


 ――『ギャィィィィン!!』

 まるでスーパーチャージャとモーターの音が重なった様な音を奏で出す――!

 

「おいおいおい!嘘だろ!」

 バニラは『乙女心』を忘れ、『オッサン』に戻っている!

「タービン回すだけでも難しい……はずだ!」

 バニラは『どうせ発進も出来ない』と思っていた。

 バニラの顔が青ざめる……!同時にオネエキャラも若干崩壊してる。


「待て待て待て!!!シズク!!」

 ――バニラはシズクを止めようと必死に――!


 しかしバニラを無視し、左手のクラッチを握り――

 左足でシフトレバーをけり入れた!


 ――『ガコン!』

 ギアの入る音が響き渡る……!


「……へぇ……エンジンとブレーキが無い以外は、ほぼ『バイク』みたい」

 シズクはとてもとても落ち着いている……!


「それじゃ!」

 シズクは静かにクラッチを離し……走り出した!

 そして、離したクラッチレバー……ハンドルバーから左手を離し……!

 ……左手を上げ『ピース』サインをした!


 ――軽快にシズクは走り去った!!


「……おいおい……嘘だろ!マトモに走ってやがる!」

 バニラは心底驚いた……!


 ◇


 ――シズクは軽快に『アローナの街』を走り抜ける――!

 シズク達の工房前のレンガ作りの道を通り抜けた。

「意外とスピード出るんだね」

 街外れ付近にある工房を過ぎると、塀も無く広野へと続く未舗装の道になった。

 シズクは、『ミアス』のサスペンションの動きのチェックをしている。

 想像していたより『柔らかい』セッティングになっているようだ……!


 小高い丘を登り、『ミアスの馬力』のチェックも欠かさなかった。

「馬力に関しては……ちょっとトルク不足かな?私の精神力の細さ……?」

「……ということは!」

 シズクは『本』脳的に察し……ではなく、『ライダー』としての感を発揮し……。

 ――風スフィアの『タービン』を超高回転させるイメージをした!

 トルク感が感じられなかったミアスの動力装置から『パワー』を感じ取れた!


「なーるほど……この感じ……250cc4発だね!」

 シズクはどちらかと言えば『トルクフル』な乗り物を期待していた。

 ミアスは高回転型の『エンジン』だと理解した。


 バーハンドルに目を遣ると、『メーターらしきタコゲージ』が3つ付いてた。

 ……右から1つは『精神力』のゲージ。

 ……2つは『パワー』のゲージ。

 精神力とエンジンのパワーバランスを表記しているようだ……!

 シズクが精神力を上げると比例してパワーゲージも上がる。

 どうやら2つのゲージのバランスを加味しながら操縦するようだが……。

 シズクは『ライダーの血』の力で乗りこなしているようだ!

 本来であれば、かなりズレるメーターなのだろうが……?

 シズクは『精神とパワーゲージ』が『タイムラグ無し』で乗れるようだ!


 ――3つめは『???』なんだこれ?


 不思議に思ったが、メーター自体は『少しずつ溜まってきている』ようだ!

 3つめのメータの下には『怪しいマークのボタン』が付いている――!

 そして、運が悪い事に『ゲージが満タンになった!』ようだ!


「――このボタン……押してはいけないボタン……な気がする!」 

 ――ラノベ主人公としては押すべきである!

「……いや……押したらダメだから……」

 ――本の主人公なら間違いなく押すボタンである!

「くっ!!直接脳に刺激を!!!」

 ――押すべきである!!


 シズクはボタンを……!


「押さないわよ!」

 いつになく興奮をしている!


 ……結局、シズクはボタンを押さなかった。

 シズクはマイペースな性格の為、普通なら引っ掛かりそうな罠には引っ掛からない!


 色々試した結果、『精神とイメージ』で乗りこなす事が出来た!

 人馬一体感と説明しておく。


 コーナリング性能は側車が付いている為か『峠を攻める』程の無茶は出来ない。

 シズクはミアスの運転を完璧にこなした!


 ◇


 ミアスで走り去ったシズクが軽快に飛ばして宿屋ラパンへと戻ってきた。

 時間的には一刻ひととき位だろうか?


 ――『ギュィィィン――カシュン!』


「ふぅ……ミアスって意外と遅いね……!」

「私のボルドールから比べたら全然遅い……」


「し、シズク姉さん!貴方何者!?」

「ミアスは相当な訓練を受けた軍人のエリートでも一刻ひとときも転がせないわよ!」

「……私でも無理だわ……」


 シズクはクールな顔をしこの物語一番のドヤをキメる!


「……それは、私にとってバイクは……人馬い……ゴホッ!ゴホッ!」

 ――肝心な所でむせた!

「うっうん……よし……まあ、楽勝よ!」

 ドヤ顔をキメた!


「それで、バニラさん。」

「んん?何か気になったかい?特にそのハンドルのボタンとか?」

 ――やはり押してはいけないボタンのようだ!


「……いや……ボタン気になりますけど……」

「このミアスを譲って貰えませんか?」

「もちろん、購入代金は払います」


「……構わないけど……」

「シズク姉さんならエルチェさんに頼んで自分好みのミアス作ったらどうだい?」

「そもそも、そのミアスを作ったのは『アルハンブラの鍛冶士』のローズ姉だからな」

「基本設計そのものは共同製作者のエルチェさんだからね」

「ただ、風の加護を主とする構造だから、『ローズ姉』の才能ではあるけどな」


 目をギラつかせシズクはエルチェを見る!


「ダメダメダメ!ミアスは作らないからね!」

 全力で―拒否された!


「……何で?」


「……まあ、製作に2年は必要だからよ」

「全てのパーツを1つずつ吟味して作る必要があるの」

「そう簡単には出来ないわ」

「汎用型のミアスなら……というか、バニラさんのミアス借りて!」


 目をギラつかせ今度はバニラを見る!


「……貸すだけだからね……あげないわよ!」

「……まあ、正直、私には『若干』扱いづらい代物だったから」

「乗りこなす事が出来る人材に乗って貰うのも『ミアス』のためになるか……」


「……よし!」

「エルチェ!とりあえず、私のミアスを設計お願いね!」

「……2年掛けてスーパーボルドールをこの世界で完成させるわ!」


 シズクにとって大きな目標が出来た!……のか?


「……はいはい……いつかバレると思ってたから……覚悟はしてたわ……」


「あ!サイドカー外せる?」

 シズクはとても失礼な事を言い出した!


「うーん……この世界に『二輪車』に乗るという習慣がないので、仕方なく側車付けた結果だからね。一応、二輪車にも出来るけど……」

「そうなると荷物が積めないし、シズク以外誰も乗れなくなるわ!」


「ああ!自転車無いんだ!この世界」

 シズクは意外な点で異世界を実感した!


「それより、シズク姉さん達は『宿屋ラパン』に用事があってきたんじゃないの?」

 シズク達は、ようやく本題の『遠征』の準備を開始した!

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