第30話 白魔術士の金剛鎚~アイアンロッド~
「エルチェ、火のレリクスって……近所にあるの?」
シズクは異世界に来てアローナの街と移動要塞アルハンブラ以外の場所へまだ行っていなかった。
「正確に言うと、『ハルネ地方』だね」
「ハルネは『火の加護の主』が治める地域なの」
「ハルネに出没するモンスターを討伐すれはドロップするわ」
「大昔の神殿跡とかある広野で、モンスター自体も強くは無い」
「……でも少し遠い……」
「歩くと片道で4属性時間分はかかるからね」
当然、シズクは徒歩で行くつもりはない。
――その為のミッキーだ!
今回のスフィアを回収ために、ミッキーとバニラに協力して貰う手配をした。
暗黒騎士バニラとミッキー<職業不詳>。
そしてミッキの嫁であるクリス<職業不詳>の3人と行くことになった。
協力してもらう代わりに、ミッキから『とてもとても頑丈』な『白魔術士用のロッド』を依頼されていた。
シズクは全力全開フルパワーで『土属性の金剛鎚』を作成中。
「でもさ、エルチェ、とても頑丈に作るのはいいのだけど……」
「クリスさんが使うなら回復属性が高い『水属性』にした方が良くない?」
金剛鎚の仕上がりに満足ではある。
しかし、回復力を上げるなら『水属性』のアクアロッドではと疑問に感じた。
シズクはエルチェにお願いして、ロッドというより『片手ハンマー』を仕上げた。
――若干女子がぶん回すには『若干重い』のだが……。
エルチェはシズクがイメージする『武器の形』を上手く再現出来ている。
「まあ、得意不得意が人にはあるからね」
「クリスさんは『土属性』が苦手なのかも?」
「でも、後方支援の武器なら属性に頼るかな?」
「やっぱり頼るなら、今回は『水属性』が『解』だと思うけど……」
エルチェはシズクに的確なアドバイスをした。
……だが、依頼は『土属性』で可能な限り『頑丈』にとの事。
シズクはアルハンブラで成功させている『2属性付与』を……。
っと考えたが、今回は『依頼通り』の土属性で完成させることにした……?
「うーん、依頼主の要望は聞くべきだから、やっぱり頑丈なの作る」
シズクは『土属性』の指輪を付け……言葉を紡ぐ……。
「強気意思と志を与える……全ての物体を打ち砕く堅さ……」
シズクは静かに紡ぎ出す……?
「ブーチャブー……♩ブーチャブー……♪」
……なんと!シズクは歌い出した!
エルチェはシズクのイメージが全く理解できないでいる?
――エルチェは嫌な予感を感じジト目をキメる!
「ブーチャブー……♩ブーチャブー……♪」
金剛鎚にバイオレンスな香り漂う妖気が集まりだした……!
――妖気が最高潮に高まったと同時に……!
「ドーン!とドーンと♪」
見事に『筋肉質な属性付与』を完璧にキメた……か?
シズクは満足そうな……いや……『悪意に満ちた表情』をしている……!
「……よし!」
「よしじゃない!シズク!」
「せっかくクリスさんのイメージに合うように女子力アップのデザインしたのに!」
「……これじゃあ『オねぇ様系』の……何かバニラさんに似合いそうだわ……」
若干女子力があらぬ方向へ向いてしまった!
シズクは試しに振ってみた――!
「……意外と軽いわね……」
シズクの属性の付与で予想していた強度と重みが得られなかった……?
「……おかしいな……私の予想では重く固いイメージで付与したはずなんだけど……」
軽々と『フンフン』振り回しているシズクを見てエルチェが一言……。
「……あのさ……精神力流してる?」
「属性武器って、『己の精神力に比例』して威力が増加するのよ?」
「だから、精神を流さないと。でも、白魔術士用のロッドだから白魔術士以外だと本来の能力が出ないけどね」
「なるほど!……私そういえば、武器って使った事無かった……」
「アルハンブラの時も、持ってなかったし」
鍛冶士になってからは、戦闘および武器の合成自体は大体人任せでやり過ごせている。
「なので、属性付与が強すぎると精神力の消耗が激しくなるの……今回強すぎない?」
エルチェは金剛鎚に付与した属性値が高すぎることに危惧した。
――シズクは気を取り直して、金剛鎚へ精神を送り込んだ……!
「――!?」
『――ズコーーーーン!!!』
強烈な重さにより金剛鎚を床に落としてしまった!
落とした金剛鎚は、張り替えたばかりの床板を貫通し、床下の地面にめり込んだ!
「し、し、シズク!なに落としてるの!!」
「リフォームしたばかりの工房のフローリング割れちゃったじゃない!」
「……って!わたしチョット……かるーくしか精神流してないよ?」
完成した金剛鎚は、精神力を流し込むのと比例して強度が上がるようになった、だが反作用で重量も半端なく上昇してしまう『特別仕様』になってしまった!
「シズク!これ失敗だよ……強度上げると重量まで上がるなんて……」
「どうイメージしたら……こんなヘンタイ仕様になるのよ?」
「職業適性が上乗せされたらさらに重くなるわよ!」
「これははっきり言って失敗作ね……」
恐ろしい程の強度を得ることで、落とすだけで大変な事になる代物が完成した!
「と、とりあえずよ!ミッキーさんの注文通りに仕上がったわ!」
土属性の強力な加護を付与して高い強度を得ることが出来た。
――ただし、精神で強化すればする程、おまけで『重量マシマシ』だ!
「エルチェ!私は完璧以上の仕事をした!いいね?」
――エルチェはジト目をキメた!
「……まあ、ミッキーさんから預かった材料は1つ分だから2つ目は作れないわ」
「……それを……持っていくしかないね?」
「シズクが!謝るのよ!」
精神力さえ流さなければ、シズクでも振り回せる重さの良い出来だった。
エルチェが100年の修行の成果を台無しにしたかのように……この時は思えた?
シズクは床が抜けて地面まで落ちてしまったアイアンロッドを拾い、工房のソファー前に置いている『テーブルの上』に置いた。
「……精神力……流さないと大丈夫……!」
アイアンロッドは元の重量に戻っていた。
『ひと仕事』を終えたシズクは『アルハンブラ茶』とバニラから貰った『ショートケーキ』で疲れを癒やすことにした。
――シズクはショートケーキの甘さに『とろけながら』やはり疑問に感じた。
「ねえ、エルチェ?やっぱりバニラさんの料理って私たち世界の料理だよね?」
シズクがずっと感じてた『違和感』だ。
彼……ではなく、彼女もやはり『シズクの世界』側の人間なのだろうか?
――シズクはショートケーキを……一口……一口食べるたびに『何となく……どうでもいい』と思えてきた。
そして、シズクの質問にエルチェは何も言わなかった。
シズクはケーキを堪能しながら工房のソファーでくつろいでいると、工房のドアが鈴がなった。
――チリンチリン。
「こんにちわーシズクさん!」
朝聞いたばかりの幼さが残る声、ナキが工房に訪れた!
「いらっしゃい!ナキちゃん!」
シズクはナキをとびきりの笑顔で歓迎した。
「そろそろお昼だから……って!ケーキ食べてる!昼食誘いに来たんだけど……」
シズクは時間を気にすることなく、おやつを堪能していた!
「もちろん!食べるわ!今さっきまでミッキーさんの奥さんのクリスさん用アイアンロッドが出来たこと」
丁度良いタイミングに工房のキッチンより香ばしい香りが漂ってきた!
「……???クリスさんだよね?白魔術士用アイアンロッド?……まあいっか?」
ナキは『クリス=アイアンロッド』のイメージが無いようだ……!
「シズク!昼ご飯出来たら工房のテーブルに持って行って!」
エルチェは用意周到に昼食を用意していたようだ。
どうやら、ナキはシズクの工房へいつもお昼ご飯を食べに来ているようだ。
そして、いつものようにナキは工房のテーブルを片付ける……。
エルチェが飾っている花瓶の花を移動し、『アイアンロッド』も移動する……。
ナキは『アイアンロッド』を……。
「さすがエルチェ、良い出来だね!」
ナキは『アイアンロッド』をフンフンと振り回し……!?
ナキは『アイアンロッドに精神力を!』
『――ズコーーーーン!!!』
見事に『アンティーク調のテーブル』と『真新しい工房のフローリング』をぶち壊した!
「おぉ……地面にめり込んでいるわ……!」
ナキは12年で一番重い物を床に落とした!
「……さすが!良い出来だわ!」
見事に工房の床をぶち壊し、テーブルが真っ二つに折れた!
「ナキ!……もう!!修繕費どうするの!?」
「工房のフローリングの木材は『ミスリルカンバの木』なんだよ!」
「ミ、ミスリルカンバ?」
シズクは謎めいた木のネーミングにキョトンとしている。
「てか……ミスリルカンバのフローリングぶち抜くてどれだけ重いのよ……」
「で、ミスリルカンバっていう木材があるんだけど」
「ミスリルソードも折れる程の強度と耐火性がある木材の事よ」
「贅沢にもこの工房の床はミスリルカンバ製なのよ」
――もちろん、お値段もミスリル価格である!
工房の床にアイアンロッドの形をした穴が2つ開いてしまった!
エルチェはイタズラに触れられないようにアイアンロッドを片付けた。
食事中にナキと『スフィアの回収』を手伝って貰えないか訪ねた。
今度行く火のスフィア回収には参加してもらえないとの事だ。
ナキ自身、まだ職業の加護を協会より受けていない。
受けてない理由に、神の力を持つナキが加護を受けるのも変な話だからだ。
強いて言うならば、ナキは加護を与える側の立場だ。
仮ではあるが、神の血を引き継ぐナキは人々を導く側だからだ。
その点ではナキはアローナの街の民に十分な恩恵を与えている。
シズクは『スフィア回収パーティ』の協力に『怪しい金剛鎚』持って行くことにした。
……一口……一口食べるたびに『何となく……どうでもいい』……。





