第29話 ナキとギルド
ナキとシズクは増改築を終えた宿屋ラパンでワッフルを食べている。
「ナキちゃん、この世界にも『ワッフル』があるのね!」
シズクは異世界の朝を堪能している。
「不思議ですよね?リエージュワッフルがファバーダでも食べられるなんて」
「……レシピって誰から教わったのかなぁ?」
宿屋ラパンの料理はシズク達のいる世界にある料理レシピを参考に作られているようにしか思えなかった。ワッフルだけでなく、他の料理も自然と口になじむ味だ。
食材はファバーダの物を利用しているが、味の繊細さに関しては完璧だった。
上半身裸にエプロン姿で上腕二頭筋を見せつけながら筋肉自慢をしている店主がこちらを見ている!?彼……ではなく、『彼女』のゴツい体格からでは想像できない繊細さだ。
バニラの手料理が自慢の店だ。
以前フィーナやローズと来た時に比べて店舗がかなり大きくなっている。
……不思議な事では、ナキがファバーダで普通にワッフルを食べているのも不自然だ。
「……で、ナキちゃん何でここにいるの?」
シズクはワッフルを食べることに集中しているナキにド直球に聞いた。
ナキは普通の12歳の女児ではない。
神であるナキサワメの直系の孫となる。
ワッフルをほおばりながらナキは答える。
「うぐぐごごがごぐぐもも……」
……ゴクン。
「という感じで来れた!」
「ワッフル美味しいのは判った……」
ナキ曰く、白紙の日記帳の最後のページを開いたら転移出来た。
それ以来元の世界へは戻っていないらしい。
シズクは最後のページを開くことで戻れると話したが、ナキは戻る事は出来なかった。
実物を見せてもらうと最後のページ白紙で何も書かれていなかった。
転移後のナキは大変な事になったらしい。
当然だ若干12歳が異世界で一人生活していく苦労なるも『火を見るよりも明らかだ』……!
苦労話の話題に入ろうとした時……。
「ナキ姉さん!」
聞き覚えのある声でナキを呼ぶ声がした。
「おお!ミッキーどうかした?」
「姉さんに頼まれている『事業計画』の進捗だがな……」
「水路の補強するレンガ作りの焼き入れの工程が遅れがちだ」
「道路をレンガ作りにしたので『在庫』がほぼ捌けてしまったぞ!」
「そうか!ようやく在庫が捌けたか!それでいいのだ!」
「無くなったと言っても家一件分程の在庫はあるから問題ないない!!」
「これからの季節は『冒険者たち』も忙しい季節だ」
「公共事業もしばらく人為不足になるからな」
「沢山レンガあっても『建築できなくなる』から問題ないのだ」
「あと、レンガ屋も当分はマイペースで『レンガ作り』が出来る」
「次の衰退期まで一定の量を作って貰えば問題ない」
「それまでの間にギルドで作った分を一定量ずつ安定的に買いあげていくのだ!」
「姉さん、使いもしないレンガを買い込んでどうするんだ?」
「ミッキーお前の頭はネズミ並か!」
体格の良い中年のオッサンが12歳の女児に対して『姉さん』と呼んでいる違和感が……。
威圧的な風貌のミッキーが『飼い慣らされたハムスター状態』だ。
「レンガの品質と価格は一定では無かろう」
「急場凌ぎで作ったレンガと安定的に買い取りが保証されたているのでは全く違う」
「安定的に製造を頼むことによって品質も自然と向上していくものだ」
「生活基盤も安定するようになれば、良き方向に向かうだろう?」
――12歳がミッキーに説教をしている不思議な絵面だ。
しかも、経営的なことまで話している。
用水路・港・街灯の設置など、色々な公共事業の今後をチクチクとミッキーに説教をした。
「ホントに……どれだけのお金と資材をギルドに貯め込んでいたと思っているの!」
「ギルドの利益は街に還元して街を強化していかないと!」
「ギルドは人と街があってのギルドなの!」
ナキの話しっぷりからだと、『ギルド=市役所』的役割であると言いたいように聞こえた。
「ね、姉さん、ワシ……野暮用を思い出したので一旦帰らしてもうぞ!」
……ミッキーは逃げた!
「あ!ちょっと待て!」
ナキの呼び止めを無視してミッキーは逃げた!
「ミッキーめ……また逃げたな!」
「あ、それで何処まで話したっけ?」
シズクは異世界転移して大変な事があったことがよく判った!
「それで……今は何処に住んでいるの?」
自分達の世界に戻れなくなったナキはアローナの街で生活している事になる。
「うぐぐごごがごぐぐもも……」
「……んで、フィーナの家でVIP待遇なわけ!」
シズクは『生クリームが乗ったワッフル』の二つ目も美味しい事と、フィーナの家に住んでいることは理解した。
「丁度いま、鍛冶工房にも仕事の依頼を色々頼んでいるわ」
「エルチェさんに『街灯のランタン製造』をお願いしてるわ」
「シズクがファバーダになかなか来ないから、街灯のポールは立ててるけど『火の加護』を付与が出来てないために街灯が完成してない状態よ」
「原理はよく判ってないんだけど、鍛冶士に『火の加護』を受けると『地脈の精神エネルギー』を吸い上げ、『火のスフィア』が光る事によって灯りを灯す事が出来るんだって」
「闇属性の『火の加護』を利用することによって、夜の間だけ点灯するご都合主義らしい」
「……この世界……便利だわ」
「光と闇の属性を使い分けることによってONとOFFが可能になる。スイッチ的役割を果たすことが出来ちゃう」
ナキ曰く、「日中に動かしたい場合は光属性」「夜活動させる場合は闇属性」を付与することによりオートマター的な仕掛けを作ることも可能らしい。
――何より、ナキの天才っぷりにシズクは驚いていた。
ただの12歳とは思えない程の知力と閃きだ。
率直にナキに訪ねると、『祖母であるナキサワメ』からの『継承』により色々と出来る知識と能力を手にすることが出来た。
だが、完全なる『神』として継承したわけではない。
ナキは『神の力』を『中途半端』に使える状態にある。
故に、街が中途半端な形で進化を遂げる事になった訳だが――。
「この街って……変だよね?」
唐突にナキは街の疑問を語り出した。
「国王?市長?らしき主軸になる人がいないのよね」
「誰に聞いても、この街の代表は『シズク』の名前を出すのよ……」
確かに、シズクは『アローナの鍛冶士』代表である。
この世界での『鍛冶士』の地位はかなり高い事はアルハンブラの件でシズクは自覚をしていた。
「それで、この街に来たときの事になるけど、エルチェと会って私が『シズクの知り合い』だって事が『街の民』に判明してから色々と街に関することを頼まれるようになっちゃんだけど……」
「……この街……色々と『どんぶり勘定』だったんだよね」
「特にあのミッキー!」
「だいぶ貯め込んでいたわ」
「……あの野郎……金の猛者ミッキーめ!……もっとシメテヤラネバ!!」
「私らの世界のミッキー並みの集金野郎だね!」
ナキが目をギラギラさせながらミッキを追い込みをかけようとしている。
ナキの先導の元、シズクがファバーダに来なかった二カ月間で街全体の設備を見直し、インフラ工事をした。
ミッキーの評判はガタガタに堕ち、ナキがこの街のギルドを仕切るまでになっていたのだ。
彼女自身に相当の采配力と求心力もあるようだ……!
神の力を継承しているのも少なからず魅了する材料となっている。
たった二ヶ月で街をかなり発展させる敏腕ぷりを見せた。
「帰れなくなっちゃったら、家族……心配だよね?」
シズクは本で元の世界へ戻れるが、ナキは戻れなくなった。
若干12歳の女児には酷な事だ。
既に二ヶ月経過しているが、シズク達の世界ではナキに出会ってからだと2日しか経過していない。
だが、まだ初等部に通う彼女が帰ってこないとなると大変だ。
「うんまぁ……戻れないからどうにもならない!」
シズクとナキでは……もしかしたら時間軸が違う可能性もある。
エルチェはファバーダでは100年経過している。
ナキは2ヶ月経過しているが、シズクも2か月後に来てしまった。
……ナキがシズクと同じように『転移前の時間』に戻れるなら、何年経過しても問題ないと言えば……問題はない。
シズク自身この問題はどうにもならないので、棚上げにする事にした。
「あ!そうそう、シズクにも仕事の依頼があるんだよね」
「さっき言ってた街灯のランタンだけど、『火のスフィア』が全然足りないの」
「んで、チームを編成して『レリクスに火のスフィア』を回収に行ってきて欲しい」
ナキの進める『公共事業の為』に『迷宮』に行くことになりそうだ……!





