第28話 神との契約・街の富
藤波神社から帰ってシズクは精神がどっと疲れていた。
自分の世界での精神を初めて使った。
……正しくは屈曲した世界だろうか?
ナキサワメの想いを紡いだ代償に相当大きく浪費した。
シズクは必死だった。
沢村ナキの想いを紡ぎたい。
その一心だけで考えるより想いが先行した。
――だが、自分の世界でも『鍛冶士の加護』を使える事を証明した。
なぜか『喜び』よりも『責任』を重く感じた。
『本』能的に危険を察知した。
自分の世界にも、『神』が実在し、能力を発動出来る可能性がある。
どの物語の主人公も『苦悩』が付き纏う。
能力者の宿命がシズクに乗りかかる。
――そして一人の少女の運命に関与した事実。
帰ってからもエルチェが色々と小言を言っていた。
シズクは全くと言っていいほど頭に入らなかった。
「で、シズク!……いいの!やっぱり……の色とか拘った方がいいよ!」
エルチェがファバーダ側で何かを作っているらしい。
エルチェはファバーダとシズクの世界側で同時に意思疎通が出来るっぽい。
工房でお客さんが来たり何かあれば教えてくれるのは助かるが……。
時間のズレが若干厄介だった。
時間の概念がまだ不明だった。
シズクがファバーダへ行っている間はシズクの世界は時間が停止する。
――だが、戻ってきてもファバーダの時間は止まらない。
むしろ速く、加速して進んでいる……。
エルチェの報告だと、まるで箱庭製作ゲームの『亀さんからアルパカさん』に切り替えたように時が進んでいる気がした。
エルチェが色々指示を頼んで来た気がしたが……確認は明後日の放課後にファバーダに行って確かめれば良いと思った。
――沢村ナキの事を気になりながら、シズクは眠りに落ちた。
◇
「よーし!行くよ!」
誰もいない図書室、月曜の夕方にシズクの気合いの掛け声だけが響いた!
――シズクの精神力は全快した!
沢村ナキの件は気にはなっていた。
今週末にもう一度『藤波神社』へ行って会いに行こう。
今度こそ、ワッフルを一緒に食べようと決意していた。
「ファバーダ・ストーリー」
シズクはファバーダストーリーを呼び出し。
最後のページを開く――!
――そしてファバーダへ転移する――!
パタンと本を閉じ目を開ける。
3回目の転移した。
「シズク!遅い!」
エルチェが不機嫌そうにシズクを呼ぶ。
「だって、授業あるから終わって図書室の整理もしないと!」
「エルチェ君私も忙しいのだよ!」
「さてさて!鍛冶士のお仕事始めますよ!」
転移してきた時間は丁度朝食前位だった。
3日ぶりにファバーダ側に来たので、まずは朝食を食べに腹ごしらえに宿屋ラパンに行くことにした。
シズクの鍛冶工房のドアを開け表に出た。
……表に……?
シズクはそっと工房のドアを閉めた。
「エルチェ!!工房前の道がレンガ作りの道になってるよ!」
3日前は舗装されていない砂利道だった。
それが『綺麗なレンガ作りの道路』に豹変いていた!
よく観ると工房も少し広くなっている。
さらに、武器防具生活雑貨などがキレイに陳列されている。
「なんか色々変わっちゃってるよ!工房も!」
工房も3日前とはかなりレイアウトが変更されていた。
シズクが昼寝をしていたソファーがグレードがアップしている。
工房奥には無かったキッチンが設置されていた。
さらに大きな変化が……!!
その変貌にシズク!が驚愕する!
「トイレが洋式の水洗トイレにパワーアップしてるよ!」
この工房唯一の不満だった『アンティークなポットントイレ』が洋式の水洗トイレにパワーアップしていた。
シズクは屋根裏部屋に上ると『アルプス少女風、草のベッド』から『アンティーク調ふかふかベッド』に置き変わっていた。
シズクは屋根裏部屋から階段を滑り降りエルチェの元へ戻った。
「たった3日程でこんなに変わっちゃってるよ!」
エルチェはヤレヤレ感3ヶ月分程で答える。
「まあ……シズク……こっちの世界、3ヶ月経ってるから変化もするよ」
「だから言ってたじゃん、ベッドどれにする?とか」
「街道のレンガの色とか拘った方がいいんじゃない?とか」
「シズクが……ああ……んん……とか適当に返事したから、協会のミッキーさんには私のセンスでお願いしたけど……」
「この街の『鍛冶士 シズク・アローナ』なんだから、ちょっと自覚してよね!」
「フィーナさんが助言してくれたからまだ何とかなったけど」
――3ヶ月経過!?
シズクは3日ぶりに来た。
だが、ファバーダは3ヶ月経過していた。
シズクはエルチェの言っていることが本当なのか疑った。
工房のドアを開けアローナの街を見て回ることにした。
◇
アローナの中心にある噴水にたどり着く。
シズクが転移して『ファバーダストーリー』を腰掛けていて読んでいた噴水だ。
――街道がレンガ作りに舗装されている!
たった3日程……いや……たった3ヶ月でこれだけの規模の公共工事が可能なのか?
――シズクは街を見渡す。
そして交番程度の大きさだったはずの『ギルド』が『鍛冶士の加護』を受けた『協会』程の大きさになっていた。
宿屋ラパンが二階建てから三階建てのプロヴァンス風のお店に。
一階はオープンテラスのあるレストランに変化していた。
――港の方を観るとアルハンブラに掛けていた木製の橋が『石作の立派な橋』へ変化していた。
しかし、アルハンブラは既に出航していて港には停泊していなかった。
「……何が……どうなってるの……」
キョトンとしていたシズクにエルチェが近づいていてきて話しかけてきた。
「驚いた?シズク……」
「……驚いたと言うか……こんな短時間で街がこんなに発展するものなの!」
あり得なかった。どれだけの財力あったらここまで街が整備されるのかと。
「シズク、これは貴方の功績よ。そしてシズクが『神』と契約をしたから実現できた」
「これだけの規模の発展が『人の力』だけで実現は出来ない」
「シズクがこの街にもたらした富のお陰よ」
シズクには全く覚えが無い。
『神』と契約?
『富』を街にもたらした?
記憶にない……。
この三日間でしたことは……。
沢村ナキの軌跡の剣……軌跡のペンダントを……想いと紡いだだけだ!
「そう、私の想いを紡いでくれた」
「おばぁと私の想いを形にしてくれた」
――聞き覚えのある声。
――必死に老婆ナキサワメの人生最後のページを一緒に紡いだあの子の声。
「ありがとうございました……名前……エルチェさんから色々伺っています」
「シズクさん!」
シズクが振り返るとそこには……。
――三日前に会った『沢村ナキ』がいた。
彼女は『一冊の日記』を手に持ちペンダントを胸につけシズクの前に現れた。
「シズクさん、ラパンで『ワッフル』と『カフェオレ』をいただきませんか?」





