第23話 初めての武器・エルチェの剣
シズクの想い、エルチェの想いが交わった。
シズクのドールは、ファバーダでもエルチェと共に暮らすことになった。
「シズク、早速なのですけど、お願いがあります」
エルチェは合成して間もない『名もなき細剣』をシズクに見せた。
「この細剣にはまだ『鍛冶士の精神』が宿っていません。加護の付与をお願いしたいのです」
「もちろんこの剣は、私がファバーダで使う剣です」
シズクはエルチェの願いに……。
「エルチェ、武器が必要なの?」
シズクは素直に付与を引き受けなかった。
シズクはエルチェと共に歩む事はとても嬉しい。
同時に、レリクスのような危険な場所へ行きたくなかった。
ノンビリとこの工房で暮らしたいと思っていた。
「はい、シズクとレリクスに行くことがこの先あります」
「あと、アローナにモンスターや野蛮な連中が来たときに守る為にも必要ですので」
「この細剣って……少し太いよね?でも片手剣としたら細い……」
「強度が足りない感じがするのだけど?」
レイピアとして使うには太く、打撃に使うには細い中途半端な剣だ。
「シズクはこの剣を私は『どのように使う』と思いますか?」
質問を質問でエルチェは返してきた。
シズクの答えは……。
シズクはエルチェから剣を預かり、『加護の付与』を実行する……。
シズクは『風のブローチ』を付け、工房の在庫から『風のスフィア』を取り出し……。
そして……シズクは……。
――エルチェの想いを紡ぎ言葉にする……。
「名もなき剣に名を与える……『シルフィード・ソード』」
「風の加護を与える……主、エルチェ・アローナのパートナーとなり物語を刻め!」
「……そして……エルチェを護り……風を紡ぎ……全てを切り裂け!」
……エルチェが合成した剣に風の精神が集まる……。
シズクは剣に『シルフィード・ソード』と名づけ迷わず『風の加護』を与えた。
「シズクさん、風の加護……を与えたのです?」
フィーナは迷わず『風の加護』を付与したシズクに疑問を感じた。
「実はですね……エルチェをお迎えした時に、風の天使をイメージして想像したからですよ」
「ですから、エルチェは風属性特化型です」
すこし照れながらシズクは答えた。
シズクはエルチェをお迎えする時に、明確なイメージを膨らませていた。
「これでいいかな?エルチェ。私が加護を付与するより、ローズさんにお任せした方が良かったかなと思ったのだけど……」
ローズは風属性をとても得意とする鍛冶士だからだ。
新人のシズクとでは仕上がりに差がでるのは当たり前だが……。
「シズク、私は……誰が主?」
エルチェは当たり前の事を言った。
シズクも当然気付いていた事だ。
シズクが尋ねた事は愚問だった。
シズクは判ってはいたが、あえて聞いた。
「……だね。私がまだまだ見習いだけど、私が仕上げをする……」
「エルチェが合成した剣だもんね。しかもエルチェが使うなら尚更だよね」
シズクは当然の事を聞いた。エルチェの主は今日からシズクだ。
エルチェが作った武器や道具は、シズクが合成したと同義だ。
「でも、私が武器を合成するとばかり思っていたので、ちょっと……驚いているかな」
シズクは、この世界でフライパン位なら……作れるかなと思っていたが、さすがに一から剣を作る技術は難しいと考えていた。
――ご都合主義全快の展開に安堵した……。
「シズクさん、エルチェさんは特別ですよ」
「エルチェさんは前のオーナーの技術を継承しています」
「前のオーナーが得た知識と技術をお借りしていると考えてください」
シズクは鍛冶の知識は殆ど持ち合わせていない。
数日前までは、ただの本が好きな女子高生だった。
フィーナはシズクが安易に考えていそうな表情をすぐに見抜いたのだ。
同時にフィーナは、より高見を目指して欲しいという気持ちも込めての発言だった。
「フィーナさん、確かに私は前任者と共に鍛冶を経験しました」
「シズクとこの世界で共に過ごすため……私の得た知識と経験はシズクと共にあるためです」
「前のオーナーには感謝しています」
「ですが、私の『主』はシズク一人です、この先も、今までも」
「フィーナさん、ドールとはオーナーと共に歩む存在、私は100年前にこの世界へ来ました」
「今までの100年はシズクとこの先の物語の為にあるのです」
エルチェの想いは100年越しに叶うことになった。
100年という長い間『主』であるシズクを待ち続けていた。
そして、エルチェはフィーナの発言に『反抗』の気持ちも込めての発言だった。
――だがおかしい……。
エルチェの発言には矛盾がある。
シズクの世界で色々な所へ一緒に行った話をしたばかりだからだ。
ドルフィードリーミー自体がここ10年程前に発売され、人気が出たドールだ。
当然、100年前には存在していない。
アルハンブラの浄水釜にいた『ナキサワメ』の件も含め、一度自分の世界へ帰って調べたいと思った。
――ナキから貰った『よくある物語の本』の事も気になっていた。
シズクは、もう一つ重要な疑問もあった。
「ねぇエルチェ……」
「エルチェって、ご飯とかお茶とかケーキって食べられるの?」
一気に場の雰囲気が……。
「シズクさん……いきなり何言い出すのですか……」
フィーナがシズクの的外れな質問に『やれやれ』感を出し答えた。
「ドールも人と同じく生きているのです。ケーキ食べたりしますよ……常識ですよ?生きているのです。食事して当たり前ですよ」
「あ!そっか!シズクと私の世界では、私って食べないですもんね」
「一緒にお茶会参加していますけどね!」
「ええええ!そうなの!」
シズクの世界では、『ドールはお茶会に参加』するが食べない。
「シズク、ウ〇コもするよ!」
シズクの世界では……え!?
シズクはドールが生きていることを実感した!
「あ、そうそう、シズク。お願いがあって……」
エルチェが何か頼み事をお願いしたそうだが……。
「エルチェェェ夢を……壊さないでー!」
シズクはエルチェが……。
シズクは現実逃避しそうだ!
「シズク……お願いがある……だけど……」
シズクの心が若干崩壊した……!
「シズク!!!」
「ああ!ど、どうしたのエルチェ!」
――シズクは現実世界へ戻ってきた。
――本が無くても異世界へ転移できそうだった。
「ある本を『私達の世界』から召喚して欲しいの」
「それはいいのだけど……エルチェに渡したら……私の手から手放すと消えると思う」
――召喚した本は、シズクの手から離れると消える。
シズクのチートスキルの欠点でもある。
「いえいえ、その点に関してはシズクが知識として得れば、同時にパートナーである私も得ることができるの」
――ドールは『主』の分身であり、知識も共有できる。
前任者の『オーナーの知識と技術』を継承しているエルチェだ。
100年の経験でも会得出来ていない事があるようだ――。
「エルチェ、何が知りたいの?」
「……それはですね……」
――シズクとエルチェの鍛冶士ペアー生活が始まった。





