第22話 シズクのドール
ローズ達とのお茶会を終えたシズクとフィーナは、シズクの希望により……。
シズクの願望により、アローナの工房へと戻ることになった。
アルハンブラでの『カサ・ミラ』との出会い、鍛冶士の仕事を観ることができた。
今日の経験、シズクは参考になった。
シズクの工房への足取りは、とても軽かった。
――既に駆け足レベルだった!
「し、シズクさん!ちょっと速いですよ!」
「え!?あ!ごめんなさい!ドールと聞くとどうしても……」
シズクはドールに対して何か思い入れがあるのだろうか?
「そこまでドールが手に入る事が嬉しいのですか?」
フィーナはシズクの『ドール』への食いつきが出会ってから一番やる気満々だと感じた。
「あ……実はですね……私、ドルフィードリーミーのオーナーでして……」
――『ドルフィードリーミー』とは、シズクの世界での『ドール』の事だ。
シズクはアース側の部屋にも1体のドールをお迎えしていた。
「まさか、ファバーダでもドールをお迎え出来るとか!しかも……生きているなんて!」
「ドリーミーのオーナーとして夢の世界ですよ!」
シズクは異世界転移で『チートスキル』を貰うより相当嬉しかった。
夢の国に来てしまったシズクだった……ギルド長のミッキーは夢をぶち壊しそうだが。
「急ぎますよー!フィーナさん!」
「あああ!ちょっと待ってください!シズクさん、せっかく来たのに……買い物を……」
シズクはルンルン気分で『シズクの工房』へと急いだ!
フィーナ声はシズクには聞こえていないようだ!
アルハンブラの門を抜け、アローナとの架け橋を渡りながらシズクは工房を観ると……。
「あー!フィーナさん!工房の煙突からモクモク出ていますよ!」
シズクは工房の煙突を指さして『煙?』らしき白いモクモクが上がっているのを確認した。
「あら?もしかしたらドールが釜に火を入れているのですかね?」
「ずっと武器の合成やってないですからね」
「剣の合成とかする為に、『試しに火を入れている』のかも?」
「え!私が居なくても鍛冶出来ちゃうのですか!?」
「ええ、ローズさんから預かったドールなら……多分……」
やはりフィーナは『何か隠している』ようだ!
だが、シズクは気付かない。ドールに夢中で細かい事は気にならないようだ……!
宿屋ラパン、ギルド、協会を素通りし、工房の手前にある橋を渡り、工房の水車の回る音が聞こえてきた。シズクは今日から一緒に鍛冶をするドールがどんな可愛い子かとウキウキだ。
工房の入り口まで来た所でシズクは一旦立ち止まった。
「シズクさん入らないのですか?」
フィーナが工房の扉を開けようとしている……!
「チョット待って!心の準備が……!だ、第一印象が肝心……肝心……」
シズクは今から出会う『ドール』への第一印象を大切にしたいようだ。
深呼吸をし……心を落ち着かせ……
「よし!行くぞ!!」
シズクはこのファバーダ・ストーリー始まって最高の緊張感と気合いが入った!
……シズクは、扉をそーーーっと開けた!
シズクの工房に一人のドールが釜に火を入れて作業をしていた。
何か武器らしき道具を錬成しているようだだが……。
彼女の後ろ姿は『白銀のショートカット』で『見覚えのあるパーカー』を着ている。
スカートをヒラヒラさせながら、『剣』を合成していた。
――カン!カン!カン!
彼女は細腕で、重そうなハンマーで剣を鍛えていた!
そして、赤く熱せされた『剣』を水槽に入れ一気に冷やす!
――シュゥゥゥゥウ!
彼女の作った剣は『片手剣』で程よい長さがある『細剣』を合成した。
「あとは、持ち手を付ければベースは完成ですね」
「私が『この世界』で使う剣として、丁度良い長さと重さに仕上がりました」
「あとは……シズクに『風の加護を付与』して貰えば完成っと」
ドールは剣の仕上がりに満足している横顔で……『深紅色の瞳』で、キリッとした表情をし、仕上がったばかりの剣の出来に満足した表情をしているようだ。
その姿を観た……シズクは……。
シズクは彼女の事を忘れるわけが無い……!
いつも、一緒に……色々な所へも行った……!
京都のお茶会にも一緒に……!
東京のイベントではお揃いの服を着て朝から一緒に抽選に並んだ……!
そう、彼女とアースで……日本で一緒に旅をしている……!
二人で色々な所へ旅もしている……!
「エルチェ……どうしてここに居るの!」
シズクは見間違えることは絶対に無かった!
彼女の着ているパーカーは『シズクのお手製』のパーカーだからだ!
そして、彼女の銀色の左右が少し非対称のショートカットの髪も!
シズクがカットした髪そのものだ!
「シズク、お帰りなさい……と言うべきかな?」
「え……!あ……!」
シズクの『動揺ステータス』が振り切っていた!
「シズクさん!どうして『エルチェ』さんの事知っているのですか!?」
「私が聞きたい位です!どうしてエルチェが工房にいるのですか!」
大きさが全く違うが、シズクの部屋にいる『ドール・エルチェ』そのものだった。
「絶対にあり得ないですよ!エルチェはまだ2歳で一昨年私がフルカスタムで作ったオリジナルドールですよ!メイクも……不慣れで……でも、少しずつ手をかけて育ててきたドールです」
フィーナはシズクの言っている『エルチェ』に理解できなかった。
確か、フィーナとローズが言っていた……。
≪前のオーナーが大往生して持ち主不在のドールだと≫
この世界で前のオーナーとの生活をしていたドール……。
――矛盾。
シズクのドールとこのドールが同一……ではない!
――しかし、彼女が羽織っている『パーカー』は……。
「だって!このパーカー私のお手製ですよ!世界で一つの一点物……のはず……」
「シズクさん、本当……ですか?エルチェの羽衣は、風の加護……それもアーティファクトですよ!シルフィードパーカーですよ!この独特なデザインの魔方陣の刺繍を施した一品です」
……その刺繍とは、『ライトノベル』に影響されて作った刺繍だからだ。
「お二人とも、おっしゃっている事は合っていますよ」
「私のパーカーは、シズクがデザインしたオリジナルパーカーです」
「そして、この世界で作られた唯一無二のシルフィードパーカーです」
「私の名前……『エルチェ』」
「私が作られたのは、約100年前の人形師によってこの世界での生を頂きました」
「鍛冶士のパートナーとして……」
どちらの言い分も正しい。しかし、それだと同時に『パラドックス』が生じる事になる。
シズクが17歳の高校2年生で、エルチェのパーカーを製作したのが去年の『夏のドールパーティー』に合わせ作った服だった。
最近、ドールとのペアールックが流行しているため、シズクも流行の波に乗った形だ。
しかも、シズクのドールは『フルカスタムでシズクオリジナルメイク』である。
――ファバーダに来て10日も経過していないのに、100年前に産まれる事はあり得ない。
「シズクがこの世界へ召喚された時に、私もこの世界へ来ることが出来ました」
「元の……私達の世界の時間って、今……止まっていますよね?」
「うーん……多分……でも!100年だよ!エルチェ!」
「100年ぶり……だよね?」
シズクはエルチェが転移してから100年という長い長い時を気にしていた……。
「いえ、今日の朝、学校へ登校する前に私の髪の手入れして頂いて以来ですよ」
シズクには全く理解不能だった。
「シズク、私は、シズクの世界では二年前にシズクに作って貰いました」
「あ!先代の鍛冶士様が……」
フィーナは二年前という事で何か気付いたようだ!
「そうですね、丁度その時に私は眠りにつくはずでした……」
「が、私の精神は、シズクのドールにリンクしたのです」
「私とシズクは……この世界で出会うのは必然……だったかもしれません」
「でもでも!……その服とメイク……」
「シズク、ドールとは『主』の志で変化するので、私の容姿もシズクの想いで変わった……」
「……かも知れませんね?今日まで私は眠っていました」
「ちょっと違いますね……二年前からはずっとシズクと共に暮らしていましたね」
「夏のドールパーティー楽しかったですよ」
「このパーカー凄く気に入っています!シズクが手間暇をかけてお揃いの服……作ってくれましたね。一生懸命……徹夜して作ってくれましたね」
「シズクとお話できると……思っていなかった……」
「ありがとう……シズク」
――シズクは……ぽろぽろと涙を流していた。
――シズクは泣いている事にシズク自身気付いていなかった。
シズクは全く理解出来ない……矛盾だらけだ!だが、彼女の生みの親はシズクだ。
この異世界でも、シズクとエルチェの世界が動き出した……。
ドールの『エルシュ』から『エルチェ』に名前が変わっていますが、
間違えではありません。
エルチェはファバーダストーリーで一番のキーとなる存在です。





