【閑話】おいしいれすねー!
ひだまりさんからのリクエストです。ありがとうございます! お酒ネタ。
師匠が街の人からの依頼をこなして帰ってきたある日の夜。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
パタパタと走って出迎えると、師匠の手に、それはそれは綺麗な小箱が。師匠が買ってきたおみやげ、にしては箱が美しすぎる。ケーキにしては小さい。何が入ってるんだろうか?
私の視線にすぐに気付いた師匠は、呆れたように笑う。
「君は本当に目ざといな」
「なんですかこれ?! すごい綺麗な箱ですね?」
「依頼の礼だそうだ。チョコレートだと言っていたな」
「 欲しいです!!」
「そう言うと思った。僕には必要ないから、全部食べると良い」
師匠が私に小箱を手渡してくれる。
さっそく、箱を開けてみると、中には宝石のように色とりどりに輝くチョコレートが並んでいた。赤や青、緑に紫、パッと見ただけではこれが食べ物だとは分からない。
「綺麗……! 食べるのがもったいない」
「食べないと腐るだけだぞ」
「分かってますー」
師匠は全く興味がないのか、本を手に取ると早速ソファに寝転がる。
少しくらい、この美しいチョコレートたちを見に来ても罰は当たらないと思うんだけどな!
言っても仕方ないので、チョコレートに合わせてホットミルクを用意し、テーブルに着く。
どの色を食べようか迷って、緑色のチョコレートを一粒摘んだ。その表面は艶やかで、指先にほんのりとした冷たさが伝わる。
口に運ぶと、甘さの中にほのかな苦みが広がり、中からとろりとした液体が流れ出した。
「ん……?」
私の疑問符は師匠の耳に届くこともなく、宙に消えていく。
飲み込むとカッと喉が熱くなり、身体がぽかぽかとしてきた。ホットミルクを流し込むと、甘さと温かさが混じり合って頭がぼんやりとする。
美味しい。
ちょっと苦い気もしたけど、甘くて蕩けそうだ。
もう一口、と今度は赤色のチョコレートを摘む。食べるとやはり、とろりとした液体が出てきて、身体がどんどん熱くなっていく。
「ししょー! これ、おいしいれすねー!」
なんだか、呂律がうまく回らない気がする。けど、気分はすごく良い。今なら何でも出来そうな気がする。
「リザ?」
明らかに不審そうな師匠の声がしたけど、気にならない。
私は青色のチョコレートを摘むと師匠の元に持って行く。そして、転がっている師匠の上に馬乗りになり、口元にチョコレートを持っていった。
「はい、あーん」
「は?」
呆然とした師匠の口にチョコレートを押し込む。
指に当たった唇の感触が柔らかくて、くすぐったい気持ちになる。
ガリッと音がして、師匠の喉が動き、チョコレートを飲み込んだのが分かった。
「……ウイスキーボンボンか」
師匠が私のことを押して、お腹の上から降りるよう促すが、ここで降ろされてたまるか、と謎の反骨精神が顔を出し、私はそのまま師匠の胸の中に倒れ込んだ。
「酔っ払ってる自覚はあるか?」
「酔ってないれすよー! 何言ってんれすか師匠! 私まだお酒飲めましぇん!」
ぐりぐりと頭を押し付けて抗議すれば、大きなため息が降ってくる。
「たちが悪すぎる」
むっとした私は、顔を上げて、そっと師匠の顔を両手で包みこむ。
ほっぺたを摘んでやる! と思っていたのだけれど、外から帰ってきたばかりだからか、予想外に師匠の肌が冷たくて、ほんのりと火照った手に気持ち良い。
金色の双眸が、訝しむように、こちらを見つめた。じっと見つめ返すと、キラキラと輝く黄金色に吸い込まれそうになる。
「師匠の目、綺麗れすよね」
「口説き文句か?」
「唇も柔らかいし……」
先ほど、チョコレートを食べさせた時の感触を思い出し、ふに、と親指で唇を触ると、師匠が一気に困惑した表情になる。
「リザ、そろそろいい加減に……」
「いっつも意地悪れすけど、たしゅけてくれるときは、かっこよくて、れも、私は……」
「もういい、寝ろ」
頭をガッと強く掴まれ、引き離される。
一気に襲ってくる眠気に、師匠が何か魔法を使ったのだと悟った。意識を失う一瞬前、師匠の頬が赤いような気がしたけど、視界がぼんやりしてハッキリとは分からない。
「全く……手のかかる弟子だな」
師匠の呆れたようなため息を最後に、私の記憶は終わっている。
◆
「やらかした……」
翌朝、ベッドで目覚めた私は、早々に青ざめた。
一体、どんな顔で師匠と対面すれば良いんだろうか?
記憶を失ってくれていれば、何食わぬ顔も出来たのに、自分のしたことだけは鮮明に覚えている。
シーツにくるまり、ジタバタと暴れてみたが、いつまでも部屋にこもっている訳にもいかない。
平常心、平常心、と自分に言い聞かせながら、大きく深呼吸をし、階段を降り、師匠が起きてないことを願ったが、リビングを覗いたところでバッチリと鉢合わせしてしまった。
「お、おはよ……ございましゅ」
平常心!! と言い聞かせていたのも虚しく、あまりに動揺して噛んでしまった。
師匠はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべると、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「まだ酔ってるのか?」
あー、はい! これは! イジれるネタがあって嬉しい時の顔ですね!!
否が応でも昨日のことを思い出し、頬が熱くなる。
「な、なんのことですかね?!」
「とぼけるな」
スッと師匠が私の顔に手を添える。そして、親指でゆっくりと唇を撫でた。
「あっ、ちょ、ちょっと、師匠……っ!」
「君が僕にやったことだろう?」
「いえ、あれは、なんか間違いっていうか……っ! あー! もう! やり返す必要ないですよね?!」
ははっ、と師匠は笑うと、機嫌よく離れていく。
「まぁ、積極的なのは悪くなかったよ」
「……っ!!!」
例え、成人しても、絶対にお酒を飲むのはやめる!!
私はそう心に決めて、熱を冷ますために水を飲もうと、いそいそとキッチンに向かうのであった。




