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師匠、私、シオンさん、という奇妙な取り合わせで森の中を進んで行く。
スノウは今日はどこかにお出かけしているのか、家の周辺にはいないようだった。
思えば、このメンバーでどこかに一緒に向かうなんていうのは初めてだ。
この顔ぶれが揃う時は、シオンさんのところに買い物に行った時くらいだし。
「いっやー、しかし、呪われとったとは気づかんかったわー」
「でも、シオンさんの周りにもウサギいましたよね・・・」
「リザちゃん程やないけどなー」
迎えに行った時、シオンさんの周りにはどこから来たのか、10匹ほどのルーニーラビットが群らがっていた。
群がられている本人はさして気にした様子もなく、むしろ捕まえて毛皮を捌こうとしているのだから恐れ入る。
「シオン、呪い晒しは使えるんじゃなかったのか」
「まぁ、ぼちぼち、って感じやからな。っていうより、呪われてること自体にも気づいておらんかったし」
ケラケラ笑うシオンさんに、師匠がはぁ、とため息をつく。
いっつも買い物に行くと、必要最低限の殺伐とした会話しかしない2人・・・というより師匠だから、なんだか新鮮だ。
「旦那ー。この前のヴァンパイアの本、もう読みはった?」
「あぁ。意外と面白い記述があったよ」
「へぇー。魔法がらみ?」
「少なくとも、お前が欲しがるような改造やまじないの類いの本ではない」
「なんや」
師匠の返答に、シオンさんはつまらなそうに口を尖らせる。
私と同じでシオンさんもあまり魔法が得意ではないようだ。
そこに、親近感を感じる。
「それよりも、シオン、アリーセがお前が手紙を寄越さない、と嘆いていたぞ」
突拍子もなく出て来たアリーセという単語に、私の耳はぴくりと反応する。
シオンさんも知り合いなの?
「えぇー?もう自立したんやから・・・いちいち手紙出さんでも、ええと思うねんけど」
「お前が一番危ない仕事をしているから、心配なんだろう」
「んー、ほな、今度出しとくわー」
ものすごく疎外感。
今まで、師匠とシオンさんの関係ってどういう繋がりなのか全然知らなかったし、気にした事も無かったけど・・・。
どうやら、アリーセさんという共通の知り合いがいるようだ。
そして、私はその人のことを知らない。
っていうか、アリーセさんて、この前の手紙の人じゃないだろうか
「あの・・・ししょ・・・」
「ついたぞ」
訊こうかどうか迷って、ぼそぼそと歯切れ悪く発した言葉は、師匠の声に遮られる。
仕方ない。
後で、家に帰った時にでも訊いてみよう。
私は諦めると、目の前に広がる祭壇に視線を向ける。
あのガーディアンは、すでに復活しているのだろうか?
「そういえば、旦那はあのガーディアン倒せへんのやっけ?俺が戦うか?」
「あの時は油断していただけだ」
シオンさんの言葉に師匠がむっとして返す。
師匠、こう見えて負けず嫌いのところがあるからな・・・。
手を出すな、と言わんばかりに、師匠はシオンさんを睨む。
「祭壇に登らなければ、問題ない」
私とシオンさんは顔を見合わせる。
師匠、どうするつもりなんだろう。
その瞬間、森に響き渡るような轟音が鳴り響く。
ばさばさ、と数多くの鳥たちが飛び立つ様が嫌でも目に入った。
思わず両手で耳を塞いで、それから目の前の祭壇を見て私は唖然とする。
「ふん、どうせ祭壇の石に魔力を吸い上げる仕掛けがしてあるんだろう。壊せば問題ない」
一体、何の魔法を使ったのか検討もつかない。
さっきまで目の前に広がっていた祭壇が、綺麗さっぱりなくなっている。
残っているのは、地下につながる入り口の階段部分のみ。
祭壇より下にあるから、辛うじて助かったようなものだろう。
祭壇を壊す、というよりは粉々に砕いたという表現の方が合っている気がする。
「え、師匠、一体、何したんですか?」
「見ての通りだ。歴史的建造物を壊すのは気が引けるが、僕にはこの祭壇は相性が悪すぎる。粉砕するのも仕方のないことだ」
簡単に粉砕するとか言ってるけれど、手のひらの上のものを壊すならいざ知らず、これだけ大規模のものを壊すとなると相当な魔力を使う。
私が1年に使う魔力よりも多く今の一撃で消費したのではないだろうか。
「いやー・・・旦那の魔法、久々に見るけど相変わらずやな」
「え、シオンさん、前にもこんな現場見た事あるんですか」
「これだけすごいのは初めてやけどな」
あはは、とシオンさんが珍しく乾いた笑みを浮かべる。
そうですよね、そういう風に笑いたくもなりますよね。
「ぐずぐずするな。さっさと封印し直して帰るぞ」
師匠は土が剥き出しになっている上をずんずんと歩いて進んで行く。
哀れかな、あのガーディアンの核は祭壇と一緒に粉砕されたに違いない。
あのガーディアンに思い入れがある訳でもなんでもないが、とりあえず、師匠に壊された祭壇とガーディアンに向かって心の中で合掌しておいた。




