呪文かもしれません
私の言葉を信じてくれたシオンさんは、石碑の前を空けてくれる。そして、ライトで文字部分を照らしてくれた。
「なんて書いてあるんや?」
「ちょっと待って下さいね。えーっと」
すらすら、とまではいかないけれど、私は文字を読み解いて行く。
本当に古代ギリヤ語勉強しといて良かった! 師匠に馬鹿にされながらも、必死でやった甲斐があったというものだ。
今の今まで、胸ポケットに隠れていたスノウも、興味があるのか、私の頭の上に飛び乗った。さっきまで、震えが伝わってくる程、怖がっていたのに。
その様子に苦笑しながら、私は石碑を見つめる。
「久遠の闇に閉じ込められし、最たる狂いの光を司る者。彼の者を律し朗々たる言を今此処に著さん。異の繋がりを調律し、我彼の者を解く者なり。今、新たな……」
そこまで読んで気づいた。
――これ、何かの呪文じゃない?
ハッとした私は慌てて口を閉ざす。けれども、かなり後半まで読んでしまった今、もしかしたら術が中途半端に発動してしまうかもしれない。
……私の微量な魔力で発動するならね!
「どないしたん、リザちゃん?」
「シオンさん、これ、もしかしたら呪文かもしれない! 私、最後の方まで読んじゃったから、何か発動するかも!」
私の魔力が塵ほどだったとしても、それでも、万が一のことがあるかもしれない。慌てて、シオンさんを引っ張って、私はその場を離れるために踵を返す。
突然動いた私に驚いたスノウが、頭からぱたぱたと飛び立った。
暗闇の中で、スノウは薄らと光を帯びて輝き、そして、その青白い羽根が、ふわり、と石碑の真下に落ちる。
瞬間、部屋全体が青い光を放った。
「きゃ……っ!」
「うわっ?!」
スノウが、私の服の中に潜り込むのを感じる。
閃光弾の時よりは、弱い光に、私は薄らと目を開いて部屋の様子を伺う。そして、瞬時に「しまった」と思った。
ドーム型のこの部屋は、部屋自体が魔法陣になっていたのだ。暗くて気づかなかったが、青い光が陣を描いている今なら分かる。足下には、文字がびっしりと所狭しと並べられていた。
魔法陣から吹き上がる風圧に、一歩も動けない。私が読んだ呪文から察するに、なにかの召還術だと思う。
もしかしたら、とんでもないガーディアンを召還してしまうかもしれない。
「……っぁ!」
声にならない叫び声を上げて、シオンさんが吹き飛ばされる。
「シオンさっ……!」
慌てて手を伸ばそうとした先に、シオンさんではない、誰かが立っているのが見えた。吹き飛ばされる程の風圧ではないということは、この人物にシオンさんは攻撃されたのだろうか。
奥の方で壁に激突して、ずるずると座り込むシオンさんの姿が見えた。
「シオンさん!」
私の声は、届かない。代わりに、何者か分からない人物がぴくりと反応した。
「遺跡荒らし! 墓荒らし! 許さない! 許さない!」
奇妙で耳障りな声をあげるその人物。――いや、正確には人ではない。
見間違えようもない、あの白くてふわふわした……。
「う、うさぎ?」
ぴょん、と伸びた耳に、ぽんぽんのような可愛い尻尾。くんくん、と匂いを嗅ぐようにひくつく鼻。
「ルーニーラビットのお墓! 墓荒らしは許さない!」
何か異変があるとすれば、人間の言葉をしゃべることと、もうひとつ。
私の二倍の大きさはあることだろうか。




