11
1日目は、1匹だけだった。
「あれ?ルーニーラビットだ」
洗濯物を干している途中でその姿を見つけて、私は先日の遺跡のことを思い出す。
うーん、やっぱり、あんなでかいうさぎよりも、この子のように小さいうさぎの方が可愛い。
というか、臆病なルーニーラビットが人間の近くに来るなんて珍しい。
「どうしたの?迷っちゃったのかな?」
私の問いかけに、ルーニーラビットは違うよ、とでも言うように鼻をひくひくさせる。
「暗くならないうちに、お家に帰るんだよ」
そっと撫でたルーニーラビットの毛はとても柔らかくて気持ちよかった。
2日目は、5匹きた。
「うわっ、5匹もいる」
物干竿に止まっていたスノウが興味深げにルーニーラビットの近くに降りて来る。
お互い特に危害を加えるでもなく、首を傾げ合っている。
「可愛いなぁ」
にまにましながら、それを眺める。
スノウももちろん可愛いけど、ルーニーラビットも可愛いものだ。
ふわふわした動物は、みんな可愛い。
「明日も来てくれたら、人参用意しといてあげるね」
私の言葉に、本当?!とでも言うように、ルーニーラビットが一斉にこちらを振り向く。
思わず、吹き出してしまった。
3日目は、14匹きた。
「こ、こんなに連れて来たの?」
人参足りるかな、と不安になり、お皿の中身を確認する。
山盛りの千切りは、なんとか足りるであろう量だった。
食べられない子がいたら、可哀想だものね。
「はい、みんなー。どうぞ」
そっとお皿を地面に置けば、ルーニーラビットが群がってくる。
もふもふした塊が、寄り添いながら食べている光景はとても和やかだ。
頭の上に止まっていたスノウが、自分も欲しいと言わんばかりに、ピィピィと鳴いている。
4日目は、23匹きた。
「え・・・あ、なんか、すごい数になってるね・・・」
なんだろう、ここまで集まって来ると、ちょっと不気味かもしれない。
こんなことになったのって、あの遺跡に行った後からだ。
「だ、大丈夫かなぁ」
そういえば、あの大きな化け物うさぎが「墓場」だと言っていた。
『ルーニーラビット・・・許さない・・・』
ふと、あの遺跡で聞こえた声を思い出して、私はハッとする。
「もしかして、呪い?」
言ってから、さぁっと血の気が引いた。
そんな馬鹿な。
でも、急にルーニーラビットが集まってくるなんて、おかしい。
何か、きっかけは無かったか、と記憶を探れば、あの遺跡の探検しか原因は思いつかない。
「師匠ー。早く帰って来てぇ」
呪い晒しの呪文を使ってみても、一向に原因を見定めることの出来ない私は、師匠の帰りを待つしかない。
師匠の帰って来る日の前日。
その日は、46匹来た。
「洗濯物干せない」
ルーニーラビットは好き勝手に穴を掘るわ、家を齧るわで、今ではちょっとした公害になりつつある。
可愛いから許してあげたいけれど、ここまでくるとさすがに少し怒りを覚える。
「ししょぉ・・・」
情けない声を上げてぐでん、と机に突っ伏した私に、スノウが頑張れ、と言うように大きな声で鳴いた。
そして、今日は師匠が帰って来る日。




