【閑話】隣を歩くのは?
師匠は、とびきり外面がいい。ついでに、無駄に顔もいい。
「あ、魔法使いさーん! こんにちは!」
「どうも。こんにちは」
「きゃー! やばい! 返事してくれた!」
一緒に街を歩いていると、黄色い声が上がることが、しばしばある。当の師匠は、いかにも聖者然とした微笑みを振りまいているが、隣を歩く私は知っている。何度でも繰り返すが、師匠は性格が破綻しているのだ。
「みんな、騙されている……」
「なんか言ったか?」
「言ってない! 言ってないです! すみません、ごめんなさい!」
ギロリとひと睨みされれば、私は平謝りするしかない。でも、すごく気になることもあるので、好奇心を抑えられずに聞いてしまう。
「師匠って、恋人とかいないんですか?」
返ってくる答えは、いつも同じだ。
「その質問に、僕が真面目に答えると思うか?」
「思ってませーん」
けど、やはり、弟子としては気になるのだ。ものすごーく。なんでか分からないけど。ちょっとだけ、胸のあたりがざわざわする。
私のことなど知らん顔で、ずんずん歩いていく師匠。その右腕に、きゅ、と自分の腕を絡める。
「……歩きづらい」
「いいじゃないですかー! 師匠、歩くの速いから、こうやって捕まえときます」
「リザを引きずって歩くことになりそうだな」
ぶっきらぼうな物言い。けれど、絡めた腕を振りほどこうとしない師匠に、私はこっそり安堵する。
こんな意地悪な師匠の恋人になる人は、一体どんな人なんだろう?
「ほら、行くぞ」
「わっ、待ってください!」
見知らぬ誰かに思いを馳せながらも、今、師匠の腕を独占しているのが自分であることに、私は小さな喜びを感じるのだった。




