料理の隠し味
Asaさんからのリクエストで、師匠とリザが、元の街に戻ってからの日常生活です。リクエストありがとうございます!
師匠の無味料理の秘密がついに明かされる…っ!
「今日は、僕が料理する」
「えっ…」
思わず声を上げた私を、リュルザが訝しげに見つめてくる。
本人に面と向かっては言えないが、リュルザの料理はいつも、驚くほどに無味だ。
作る気があるのは嬉しいことだが、出来上がったものが美味しいかと言われると、正直なところ微妙である。
何とかして食べられない程ではない、というのが正当な評価だろう。
「…不満か?」
「いえいえ、そんな!滅相もない!けど、私も一緒に手伝うよ!!」
むっとしたリュルザに慌ててそう告げる。
私が手伝えば、ちゃんと味があるものが出来上がるので、リュルザが作るときはいつも出来る限り料理に手を出している。
普段通り一緒にやれば良いか、と考えたところで、ふと、これは無味料理の原因を探るきっかけになるのでは?と思い直した。
「やっぱり、リュルザが作るのを後ろで見てることにする」
「なぜ?」
「たまには、人の料理の仕方を見て新しい発見を…えっと…なんか…出来ないかな〜と…」
後半、しどろもどろに言い訳する私に、リュルザは明らかに呆れた顔をしている。
とりあえず、えへへ、と笑ってごまかしておいた。
「今日はシチューがいいな!」
「ブロッコリーは入れない」
「また好き嫌いして…」
「何を入れるかは料理する僕に決定権がある」
言いながら、玉ねぎ、じゃがいも、人参、鶏肉、とリュルザは的確に材料を出していく。
どこからどう見ても、この工程に問題は無さそうだ。
確かに、いつもの料理でも、変な材料をいれるとかアレンジをするとかはしてない気がする。
そして、取り出した材料が、ふよふよと宙に浮かんだ。
「え、リュルザ、何して…」
「この方が早い」
私が驚く間もなく、野菜が次々と均等にカットされる。
魔法だ。魔法で切っている。
私はそれを見て半眼になった。
「これからは、野菜とかお肉は全部リュルザに切ってもらおうかな…」
包丁でちまちま切るより圧倒的に早い。
リュルザはふん、と鼻で笑った。
「君も魔法で切れば良いだろう?」
「出来ないの分かってて、そういうこと言う…」
「月明かりで魔力が補充されているときは出来るんじゃないか?」
「月が出るまで待ってたら、夜ご飯に間に合いませんけど…」
リュルザが材料を鍋に入れて炒めるのを見守る。
ここも問題はなさそうだ。
少しくらい手伝うか、と私は調味料を取り出して、リュルザに手渡す。
「はい、塩とコショウ。それからコンソメ」
「必要ない」
「……え?」
リュルザは一切の迷いなく、調味料を受け取ることを拒否した。
あまりの潔さに私は混乱する。
「魔法で味付けするの?」
「逆だ。味を抜く」
あれ、もしかして、無味料理の原因これでは?
ものすごく嫌な予感がして、私は慌ててリュルザの腕を掴んだ。
「ちょ、ちょ、ちょ、ストップ!!味を抜くってどういうこと?!いつも、わざわざ味を抜いてたの?!」
無言詠唱ゆえ、今まで気づかなかったのだろう。
当たり前のように行われる味抜きに。
リュルザは心底訳が分からないという様子で眉を顰めている。
「味が濃すぎると身体に悪いのだろう?」
私は一瞬、言葉を失った。
「人間には、味の濃すぎる料理は毒になると聞いた。あと、小さな子供には特に良くないとも本で読んだ」
衝撃だった。
今までずっと、料理が下手だから味が無くなっている、と思っていた。
それが、意図的に薄味にするために味を消していたなんて。
しかも、その理由だと、もしかしなくても…。
「師匠の料理が無味だったのって…私のため?」
「師匠呼びに戻っている。動揺しているのか?」
リュルザがそう言って笑う。
明確な返事はなかったけど、それこそ、私のためにやっていたなんて、素直に口にするはずもない。
胸のあたりがじんわりと暖かくなり、奥から嬉しさが込み上げてくる。
感極まって、思わずリュルザに飛びついた。
「あぶない。火を使ってる時に飛びつくな」
お小言をもらったけど、リュルザも私のことを引き剥がそうとはしなかった。
◆
完成したシチューを、2人でテーブルに並べる。
いただきます、と手を合わせてから、スプーンを口に運ぶ。
口の中に、ふんわりと優しくて甘いシチューの味が広がった。
リュルザが作った料理にも関わらず、ちゃんと味がすることに感動する。
対して、リュルザは眉をひそめていた。
「…味は濃くないか?」
「濃くない!むしろ、今までで一番美味しい!」
まだ不安そうにこちらを見ているリュルザに、思わず笑ってしまう。
「人間でも味のある料理を食べても平気だよ。私が作るときは、味があるでしょ?」
「まぁ…そうだが…僕が作るときくらいは…」
「それに、私はもう小さな子供でもないし!私が子供だった時に作ってた癖が抜けないとか?」
「それも…あるな」
リュルザは少し考え込むと、小さく呟く。
「次からは味を抜くのはやめとくか」
「ぜひ、そうしてもらえると!」
被せるようにそう言えば、リュルザは肩を竦めた。
リュルザの無味料理の原因が分かった私は、これからは美味しいものが食べれるかもしれない、と期待が膨らむ。
「また、一緒に作ろうね!」
私はそう言って、笑顔を向ける。
リュルザは少しだけ口元を緩めて、小さく頷いた。




