いちばんのともだち
はるさんからのリクエストです。ありがとうございます!
スノウ目線のおはなし。
『いい?可愛い子。あんまり遠くへ飛んではいけませんよ。あなたは、まだまだ幼いんだから』
スノウがまだその名を持たず、リザという人間の存在すら知らなかった頃の話だ。
親鳥から何度も何度も言い聞かせられたにも関わらず、幼く、思慮に欠けた小鳥は言いつけを破って、森の果てまで行こうと思い飛び立った。
(おかーさんは、わたしのことをわかってないのよ。もう、こんなに飛べるのに)
森の中を自在に飛び回り、枝葉をかいくぐり、小鳥はぐんぐん進んでいく。
この向こうには、一体何があるのだろうか、と期待に胸を膨らませて。
鬱蒼と茂った森には、光があまり差し込まない。
昼間にも関わらず、自分の身体が薄っすらと光るくらいだ。
(きっとこの先には、素敵なものがあるんだわ)
木々の間から、開けた場所が見え隠れしている。
ここに違いない、と踊り出た場所は、小さな小さな箱庭だった。
(ここは、どこかしら)
森の奥でよく見かける花が咲いている。
近所に住んでいるフラワーラットがよく食べている黄色い花だ。
その近くには、怪我をしたときに身体を擦り付ける草が生えている。
そして、その奥。
赤くて丸い実が成った茂み。
(あれを、おかーさんに持っていったら、よろこんでくれるかな)
パタパタと羽ばたいて、ちょうど近くにあった平べったい台のようなところに降り立つ。
少し疲れたので、一休みしてからもう少し散策してみようと思ったのだ。
「あー!とりしゃん!」
「リザ、待ちなさい。走って近づいたら逃げてしまうよ」
「あおいとりしゃん!」
突然聞こえた声に、びっくりして飛び上がる。
慌てて台の上から、近くにあった木の上に飛び移った。
「あーあ…」
「だから、走るなと言っただろう?しかし、月光鳥とは珍しいな」
チェリーピンクの髪を持つ小さな少女と、深緑の髪をした青年。
金色の瞳をした男の方に見つめられて、小鳥はすっかり縮み上がってしまった。
(こわい目…。あれは、にんげんの目なのかしら…)
居心地が悪く、気まずいので、小さく害の無い方に目を向ける。
(小さい女の子)
「とりしゃーん、おいでー。こわくないよー」
(おいで、っていってるのかしら)
不思議と、幼女の声が頭の中で鳴り響く。
人間の言語が分かるはずもないのに、なぜだか理解できるような気がした。
(…こんにちは)
「こんにちはー!こっちおいで!」
(つたわった…のかしら)
ぶんぶんと、手を振っている幼女は、にこにこと笑っている。
そして、その隣では、金色の瞳の青年が幼女をじっと見下ろしていた。
まさか、叱りつけでもするのだろうかと危ぶんだが、よくよく見れば、到底そのようなことはできないであろうことに気づく。
それほどにも、優しい瞳で、青年は幼女を見つめていたのだ。
(わるいひとたち…じゃないのかしら)
まだ警戒は解かない。
木の枝の上から、声を掛けてみた。
「ピィピ?(あなた、名前は?)」
「リザだよー!」
リザ、と確かに少女は言った。
「突然名前を叫んで、どうしたんだ」
「とりしゃんがね、名前は?って言ってた!」
「…そう、か?」
「おにーちゃん、きこえなかったの?」
「そうだな。僕には聞こえなかった。その代わりに、リザが通訳してくれるんだろう?」
「つーやく…?」
不思議そうに首を傾げる幼女の頭を、青年がそっと撫でる。
「さぁ、もう中に入ろう。冷え込んできた」
「えー!とりしゃん!」
「とりさんも、寒くなってきたから、お家に帰る時間だろう」
「とりしゃんも、おうちあるの?」
「あぁ、もちろん。リザがいつまでも引き止めてたら、とりさんも帰れないんだ。だから、ほら、ばいばいしなさい」
「ばいばーい」
挨拶をした時と同じように、幼女が手を振る。
小鳥には、それが別れの挨拶なのだと理解ができた。
またね、と一声鳴くと、伝わったのか、幼女がにっこりと笑う。
それが、リザとスノウの最初の出会いだった。
◆ ◆ ◆
月日は流れ、いつしか小鳥はスノウと名付けられ、リザの契約相手とまでなっていた。
「あー!スノウ!見て!雪が降ってきた!」
ちらちらと舞う白いもの。
まるで、綿菓子のように空中をふわふわと漂っている。
「これがね、スノウの名前の由来なんだよ。綺麗でしょー」
羽が舞う姿がそっくりだから、と名づけてくれたのをもちろんスノウは知っている。
くちばしで、羽の付け根をカシカシと掻きながら、遠い昔の日を思い出した。
小さくて、無邪気だった幼女が、今ではこんなに大きくなった。
初めて出会ったあの日から、長い年月を経て、今ではお互いが唯一無二の存在になったのだ。
あの出会いから、スノウはちょくちょく森を抜けだしては、リザの様子を見に行くようになった。
もちろん、母親には何度も何度も怒られたが、それでも止められなかった。
言葉を理解できるリザが、気になって仕方がなかったのだ。
他の仲間は、人間を見に行くなんて頭がおかしい、とこぞって嘲笑した。
スノウは逆に、人間を一括りでしか見ることの出来ない仲間を嘲笑した。
もちろん、月光鳥だと分かるや眼の色を変える人間も存在する。
けれど、リザとリュルザがそんな人間ではないことを、スノウはよく知っていた。
加えて、片方の中身はドラゴンである。
きっかけは、ただの好奇心だった。
何年も見ているうちに、情が湧いてきた。
そして、ぐっと距離が近づいたのは、リュルザが一晩帰ってこなかったあの時。
「スノウ、何考えてるの?」
「ピィピピ!」
「思い出?まー、スノウに出会ってからいろいろあったもんね。時送りも一緒に体験したし…」
「ピピ」
「もっと昔のこと…?私が小さかったとき…?」
「ピューイ」
「うっ…サ行がちゃんと言えてなかったって…なんでそんなこと覚えてるの…」
くるくるとスノウはからかうように飛び立つと、そのままリザの頭へと乗っかり羽を休める。
人間と契約したことを、母に報告した時は、こっぴどく怒られた。
でも、その相手がずっと見てきた人間だと知ると、悲しそうな声を上げて鳴いていた。
月光鳥が人間のいる場所に住むことなどできるはずない、と。
どれだけ仲が良くても、きっと引き裂かれる日がくる、と。
それでも、スノウは思うのだ。
母親に、仲間に、なんと言われようとも。
最初から諦めていては、何も成すことはできない、と。
現に、ここにはドラゴンだった時に恋した相手と結ばれた存在がいる。
「リザ、今夜は吹雪くだろうから、スノウを家に泊めておけ」
「この雪、吹雪になるんですか…」
「明日には一面真っ白だろうな」
「真っ白!すごい!スノウ、明日は雪で遊ぼう」
「よく寒い中、外に出ようという気になるな…」
不遇のヴァンパイアや、魔物と融合した子供たち。
そして、人間と混ざってしまったドラゴン。
世界には、こんなにも色々な存在で溢れているのだ。
きっと、月光鳥と人間が仲良く幸せに暮らせる道だって、あるに違いない。
「ピ」
「どうしたの、スノウ。改まって」
「よろしくも何も、今更だな」
「あ、リュルザ、スノウの言葉、結構分かるようになってきたね」
「リザより、スノウの方が魔力が高いせいか、言葉が分かりやすいな」
「それって、私の言ってることはよくわからないって?」
「雪の中で遊びたいというのは理解できないな」
「ひどい!」
窓の外で、雪が舞う。
今夜は冷え込みそうだ。
スノウはそっと顔を羽の中に埋める。
いつの日か、リザとリュルザに月光鳥たちの住む場所に遊びに来てもらいたい。
そして、母親と仲間に自慢をするのだ。
1番の仲良しの、人間の友達だ、と。




