嫌いを好きにする方法
匿名さんからのリクエストです。ありがとうございます!
「ブロッコリーが入っている」
そう言って、シチューの中からブロッコリーを掬い出し、リュルザは私のお皿に黙々と移して行く。
緑色の山がどんどん積み上がっていく様子に半眼になるのは当然だろう。
「ちょっと、リュルザ。いつまでも子供みたいなこと言ってないで、ちゃんと食べて」
「ブロッコリーは嫌いだ」
ふん、とそっぽを向いて、素知らぬ顔をするリュルザ。
なんだろう。
以前なら、しょうがないなぁ、で済ませたけど。
けど、今は何としてでも食べさせたい。
私は自分のお皿からブロッコリーを掬って、リュルザのお皿へと戻す。
「ほら、1個だけでも」
「どうして、無理にでも食べさせようとするんだ」
「ちゃんと食べないと、栄養ないでしょ?」
「ブロッコリーを食べなくても、魔力さえあれば僕は生きていける。それに、ブロッコリーを嫌いになった原因は君にあるんだからな」
言われて、ぐっと言葉に詰まる。
どうにも身に覚えがありすぎるので、反論できない。
さすがに、生のままブロッコリーを食べさせたのは良くなかったと反省している。
「で、でも、もう時効でしょ!500年も前のことなんだし!」
「僕は昨日のことのように覚えている」
別に、リュルザがブロッコリーを食べずとも、何の問題も無いけれど。
それでも、好き嫌いはやはり良くないと思うのだ。
御年数百年になる良い大人が、ブロッコリーごときに眉を顰めている様子もあまりよろしくない。
どうにかして食べさせようと、私は必死に頭をフル回転させる。
そして、ひとつ思いついたことを実行しようとスプーンにブロッコリーを乗せた。
本当に、本当に、本当の本当に恥ずかしいけど、これでリュルザがブロッコリーを食べてくれるならやってやろうじゃないか!
「ほら、リュルザ。あーん」
言いながら、前に身を乗り出して、リュルザの口元にスプーンを差し出す。
最初、驚いたように、その金色の双眸を丸くしたが、やがて半眼になり、ついには鼻で笑われた。
あれー?おかしいな。私の予想とは随分違う反応だ。
「そんな子供だましで食べると思っているのか」
「はい、ほら!あーん!」
最早、恥ずかしさも何も無くなってきた。
意地になって、ぐい、とスプーンを近づければ、リュルザはつんとしてそっぽを向く。
無理に食べさせようとしても、口を開いてくれないうようだ。
それならば、泣き落としだ、と私は次の作戦に出る。
「…もういい。リュルザは、私が作ったシチューなんか食べれないって言うんでしょ」
スプーンを手元に戻して、そう呟けば、知らん振りをしていたリュルザの顔が若干歪む。
ぴくり、と手が動いていたのを、私はしかと見届けた。
「せっかく作ったのに…。そんなにいらないって言われるんなら、もう作るのやだ」
「ち、違う。別に、リザの料理が嫌いなわけではなく、僕はブロッコリーが…」
慌てたようにフォローするリュルザに、私は内心でほくそ笑む。
ちょっと、自分がリュルザに似てきたような気がして、複雑な心境だが、師匠が師匠なら弟子も弟子だろう。
よし、引っかかったぞ、と意気込んだ私は、ちら、とリュルザを見上げる。
困ったような顔をしたリュルザに、思いっきり心の中でガッツポーズをした。
「それなら、食べてくれますか?」
「…仕方ないな」
勝った!
大声で叫びながら、両腕を上げて喜びたいのを我慢して、私はスプーンをリュルザに差し出そうとする。
すると、リュルザは小さく首を振った。
「そこからだと零れそうで怖い。隣に来い」
まぁ、それもそうだ。
机に身を乗り出しているのもお行儀が悪い。
私はなんの疑問も持たずにお皿を持ってリュルザの隣へと移動する。
そして、椅子に座ろうとしたところで、思い切り腰を抱き寄せられた。
「わっ!」
なんとか手に持ったお皿のバランスを保つ。
座らせられた先は、リュルザの膝の上だ。
「ちょ、ちょっと…これは…」
「嫌いなものを食べるんだ。これくらいご褒美があってもいいだろう?」
「うー…あー…まぁ…」
近い近い近い!
リュルザの顔が間近にあるのに、どぎまぎしてしまう。
平常心、平常心、となんとか自分をなだめすかして、若干震える手でお皿からブロッコリーをすくった。
無言でスプーンを差し出せば、リュルザはじっとこちらを見つめたまま口を開かない。
そうか、そうですか。ちゃんと言わないとダメですか。
「…あーん」
羞恥心で死にそうになりながら言えば、リュルザがそっと口を開く。
ぱくり、とスプーンを咥えて、思いっきり顰め面をしてから、顔が離れた。
なんとか1つ食べさせたことにホッとしながら、私はこれ以上ブロッコリーを食べさせるかどうか悩み始める。
最初は全部食べさせるつもりでいたけれど、こんな体制で食べさせていては、私の身が持たない。
このまま耐えられなくなり、真っ赤になってパニックになるのが目に見えていた。
「うん、えっと、リュルザも1つブロッコリー食べたし、今日のところはこれで許…」
「誰の許しを得て終わらせようとしてるんだ?」
ぎくり、と身が強張る。
耳元で囁かれて、思わず硬直してしまった。
とても、リュルザの方を見たくない。
このまま膝の上から飛び降りて、ダッシュで逃げたい。
私の逃亡計画に気がついたのか、お腹に回った腕に、逃がさないとでも言いたげに力が篭った。
「ブロッコリーを嫌いになった原因はリザにある。分かるか?」
「えっと、は、はい。その節は大変申し訳ございませんでした」
「そう、僕のブロッコリー嫌いは、君のせいだ。ならば…」
そっと頬に手が添えられ、目が合うように顔の向きを変えられる。
じっとこちらを見つめる金色の双眸が、面白い遊びを思いついたかのように、にんまりと細まった。
「僕がブロッコリーを好きになるまで、面倒を見る義務があるのも分かるな?」
するり、と親指で唇を撫でられる。
私が意地悪をした仕返しを、リュルザは倍返しにしようとしている。
それに気付いた時はもう遅い。
慌てた様子はもちろん、私をこっちに来るように仕向け、膝の上に座らせたのも全部策略だったのだろう。
「え、えと、あの、その、あーんくらいなら、いくらでも…」
「それだけじゃぁ、好んで食べるようにはなれないな」
しつこいくらいに、私の唇を撫でている親指に、なんとなく察しはつく。
想像でしかないが、求められているであろう行為に、自然と頬に熱がのぼる。
私はどうやら、とんでもない失敗をしてしまったようだ。
「僕がブロッコリーを好きになるまで、リザが食べさせてくれるんだよな?」
リュルザのばか!と心の中で悪態をつきまくりながらも、本人には言えない悲しさよ。
かくして、私はその日から、二度とリュルザに嫌いなものを無理強いすることはしないようにしよう、と固く心に誓ったのだった。




