弟子志願者が来ました 1
ひだまりさんからのリクエストです。ありがとうございます(*´∀`*)時系列的には、師匠と両想いになった直後くらいです。
よく晴れた、いつもと変わらない昼下がりのこと。
ソファに転がって本を読んでいる師匠の隣で、私はスノウと一緒に植物図鑑を眺めていた。
春先になったら、何か新しい植物を植えようと、候補が上がったページに付箋を貼っていく。
本当はページの端を折ってしまいたいけど、師匠が怒るので我慢だ。
そうやって、スノウと一緒に楽しく作業をしていた時、カランコロン、とドアベルが鳴り、私と師匠は顔を見合わせる。
「師匠行ってくださいよ」
「読書に忙しい」
師匠に来ているお客様なんだから、本来なら師匠が出るべきだろう。
スノウにぶちぶちと文句を言いながら、ゆっくりと立ち上がる。
結局は逆らえずに私が行く羽目になるのだ。
「はいはーい」
適当な返事をしながら、ドアを開ける。
そして、そこにいた人物に目をぱちくりと瞬いた。
「こんにちは」
挨拶をしてぺこりと頭を下げ、にこにこと笑みを浮かべているのは、私と同じくらいの年の少女だった。
柔らかいハニーブラウンのふわふわした髪に、くりっとした紫水晶のような瞳。
背は低い方だと思うが、またそれが、人形のように見えて可愛らしい。
ふんだんにレースが使われているワンピースを着ていたが、嫌味なくらいに似合っている。
私が同じようなデザインの服を着たら、大事故になってしまうに違いない。
「えっと、こんにちは」
あまりの可愛さに、どぎまぎしながら挨拶をする。
依頼で来ていたとしても、同じ年頃なら友達になれるんじゃないかな、と少し期待した。
「こちらは、魔法使い様のお家で間違いありませんか?」
こっくり、と頷くと、目の前の女の子は目を輝かせた。
「やったー!良かった!こんな小さな家だし、間違えたかと思って不安で!」
あれ、聞き間違いかな、と思って首を傾げる。
ふわふわな見た目とはかなりギャップのある言葉が飛び出したような気がする。
私はとりあえず、笑顔を浮かべて聞かなかったことにした。
ここが小さな家であることは間違いないのだし。
「あの、依頼ですよね?師匠を呼びますので、少々お待ちください」
とにかく、依頼ならすぐに対応しないと。
くるりと背を向ければ、女の子は目に見えてるんるんした様子で待っている。
「ししょー!お客さんです!」
そう声をかければ、のっそりと師匠が姿を現す。
私の後ろにいる女の子を見て、いつもの猫かぶりを始めた。
「はじめまして。ご依頼ですか?」
にこにこ、と笑う師匠と立ち位置を入れ替える。
師匠の後ろに立って、様子を伺っていれば、女の子の表情がぱっと変わった。
なんというか、こう、きらきらと輝きだしたのだ。
「うわー!あなたが魔法使い様?噂には聞いてたけど、こんなにかっこいいなんて、アンジーびっくり!」
「どうも、ありがとう。それで、ご依頼は?」
あ、師匠、若干いらっとしてる。
伊達に、長年一つ屋根の下に住んではいない。
師匠はさっさと用件を言わないお客さんや、口ごもるお客さんが大嫌いなのだ。
自分のことをアンジーと呼んだ少女は、そのままの勢いで話を続ける。
「あの、今日は依頼というか、お願いに来ました!」
アンジーはそわそわと、落ち着かない様子でローブを引っ張って直すと、大きく深呼吸をしてから、姿勢を正した。
「アンジーを、魔法使い様の弟子にしてください!」
絶句したのは、師匠だけではない。
私も同じだ。
それと同時に、心臓が音を立てて凍りついたように冷たくなった。
思わず震えた手で、前に立つ師匠のローブの裾を握りしめる。
師匠は小さく息をついて、笑顔を貼り付けたまま首を横に振った。
「申し訳ありませんが、弟子は一人で十分なんです」
「後ろにいるその子ですか…?激弱じゃないですか!アンジーの方が強い魔力を持っています!」
「とにかく、今は弟子を取る気はありません」
けなされた。
魔力が弱いと、面と向かって宣言された。
自分でも知っていることだが、初対面の、しかも、弟子を所望している女の子にそんなことを言われるなんて。
彼女の第一印象が割と良かっただけに、ショックが大きい。
悔しさと悲しさに、思わず口元が歪む。
「…ほんとの、ほんとに、アンジーを弟子にしてくれないんですか?」
けれども、口元を歪ませたのは私だけではなかった。
アンジーの目に、うるうるとした涙が溜まっていく。
ぐすん、と鼻を啜って、黙り込んだ彼女に大人しく引き下がるのかと思えば、大間違いだった。
「やだやだやだあああ!アンジーは魔法使い様の弟子になるのおおおお!やだああああ!」
爆音のような声が響き渡る。
びりびりと肌を突き刺すような痺れがしたと思うと、玄関先に吊るしてあるランプのガラス片が飛び散り、ドアベルがけたたましい音を立てる。
何が起きたのかわからずぽかんとしている私とは違い、師匠がとっさに庇ってくれたので事無きを得たが、今起きたのは間違いなく自然現象ではない。
「どうやら、魔力を上手く扱えないみたいだな。感情に引きずられて暴走している」
猫被りをしていた師匠の表情が一転して、いつもの不機嫌顔に戻っている。
そして、大きくため息をつくと、笑顔を浮かべることなく、魔力を暴走させたアンジーに問いかけた。
「誰かに魔法を習ったことは?」
えぐ、えぐ、と鼻をすするアンジーは、黙って首を横に振る。
不穏な雲行きに私は少し強めに師匠のローブを引っ張ったが、素気無く無視された。
不満に思う私を他所に、師匠はさらりと言い放つ。
「一週間だ」
「うぇ…?」
「一週間、仮弟子として僕が魔法を教えよう。そこで、お前が本当に魔法を学ぶ気があるのかどうか、見させてもらう」
なんで、と言いかけた言葉を私は無理やり飲み下す。
師匠は意地悪だし、横暴だし、面倒くさがりだけど、面倒見が悪いわけではないのだ。
もし、アンジーが感情の爆発によって、魔力を暴走させるような女の子でなかったら、きっと追い返していたに違いない。
けれども、目の前であんな事を起こされれば、せめて、事故が起きないくらいまで、師匠は魔力の使い方を教える。
それを私の我儘で嫌だとは言えない。
「や…やったぁ!師匠!アンジーのお師匠さま!」
泣き顔を一転、溢れんばかりの笑顔でいっぱいにしたアンジーを私は複雑な気持ちで見つめる。
師匠は、私の師匠なのに。




