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「リザちゃん?!」
「リザ?!」
振り返った2人が、驚きの声を上げる。
トリス君とナナちゃんも、びっくりしてこちらを見つめているし、アシール君はダーナちゃんと一緒になってすすり泣いていた。
しかしながら、師匠の姿は無いのかと、辺りを見回せど、見つけることは出来ない。
「どうなってるの?アイリスに連れ去られたわよね?あの子は?」
「1人で帰ってきたってことは、何かあったの?!」
(アリーセはどうして透けてるの?)
アルノーさんが問いかけてくるが、私は無視をする。
あなたの幼馴染みのせいだ、と大声で喚き散らしたかったが、そんなことをしている場合でもない。
「待ってください、それって、今、私が連れ去られたということですね?」
ということは、あの花畑で入れ違いになったのか。
今なら、まだ、師匠を助けられるはずだ。
安堵すると同時に、早く戻らないといけない焦燥に駆られる。
アリーセさんとエーデルさんは、不思議そうな顔をしていたものの、合点がいったのか大きな声を上げた。
「じゃぁ、僕らに会ってきたんだね?」
「その話は後よ、エーデル。とにかく、リュルザの後を追わないと・・・。リザを助けるって言って、本当に1人で行ってしまったんだから」
「行きましょう、花が咲いたり枯れたりしている場所です!」
私はくるりと踵を返すと、説明するのももどかしくて、そのまま玄関の外へと飛び出す。
スノウも頭の上でじっとしているのに耐えられなくなったのか、パタパタと空を飛んで私についてきた。
(それで、アリーセはどうしたの?)
「アイリスのせいです。アイリスが、アルノーさんとリュルザが融合した後、アリーセさんの身体を奪ったんです」
もし、アルノーさんの表情を見ることが出来たのなら、彼は驚きに目を見張っていたことだろう。
言葉を失くす、というのはこういう時に使うのか、と人事のように思った。
「言いましたよね。私、アイリスとは仲良く出来ないって」
よっぽど、私の両親も殺したんだ、と言ってやろうかと思った。
けれども、アルノーさんがいなくなって苦しむアイリスに、いい気味だと思った自分が情けないと感じたのに、それに輪をかけて酷いことをするのは嫌だった。
飛び出しそうになる言葉をぐっと抑えて、私は違う話を振る。
「アルノーさん。乖離魔法、使えますか?」
(魔法陣はアイリスの胸元にあったやつだよね?それは再現できるけど・・・。詠唱は途中までだったから、分からないよ)
「詠唱なら、私が知ってます。そしたら、魔法陣の方、お願いします」
(ちょっと待ってよ。君に発動できる魔法だとは思えないんだけど)
「私の身体に取り憑いてるんですから、アルノーさんも助けて下さいね!」
いつか、ティロの前でただの詩だと思いながら口にした詠唱を思い返す。
耳の奥ではアイリスの声で、その呪文が小さく木霊した。
魔法陣を覚えているアルノーさんがいて、詠唱を覚えている私がいてこそ成り立つ魔法。
乖離魔法を知っているのは、アイリスと、そして、アルノーさんが取り憑いている私だけなのだ。
先ほど歩いた小道を駆けながら、肩で息をする。
追いついてきたのか、アリーセさんとエーデルさんがいつの間にか隣に並んでいた。
「リザ、さっきから独り言激しいけど、どうしたの?」
エーデルさんが問いかけてくるが、私は息も絶え絶えなため、まともに応答ができない。
「ピィピ!ピ!」
代わりに、スノウがアルノーさんのことを説明してくれているが、エーデルさんたちには分からないだろう。
そう思っていたのだが、彼女の言葉は同調のおかげで他の人にも伝わるようになっていた。
「アルノーがいるって、というより、スノウの言葉が僕にも分かるんだけど・・・」
「あたしにも分かるわ」
「ピ!」
「リザと契約したの?!」
「なるほどね。特性を共有したから、あたし達にも理解できるようになったのね」
スノウが説明してくれて、助かった。
走っている状態で、話せるほど私は器用ではない。
例え、私に何も共有がなくても、契約して正解だったと心の底から思う。
走り続けた小道の先に、開けた場所が見えてくる。
花が咲いては、枯れ、再び目を吹き出す場所。
私は足を止めて、息を整えると、そっと忍び寄る。
アリーセさんはその必要はないが、エーデルさんは私に倣うように息を潜めた。
「さぁて、カナヘビちゃんも魔力を吸い取られて動けないようだし、あなたはもういらないわぁ」
間延びした声が、聞こえてくる。
私の中で、アルノーさんが息を呑んだ気がした。
「Aptl...」
師匠の声がする。
もう、すでに魔力を吸い取られて、真っ青になって蹲っているはずだ。
大丈夫だ、まだ間に合う。
今なら、助けられる。
「アルノーさん、頼みますよ」
(善処する)
「ピュィ」
使って、とばかりにスノウが羽根を私の手に落としてくる。
本当に頼りになる相棒だ。
指先から、じんわりと魔力が伝わってくる。
この短時間でも、アルノーさんと話していたせいで、随分と魔力を消費していたようだ。
「P hzr fvb av zluk oly av tl pu vsk lyh.」
「ばいばぁい」
ここで、私が時送りされるはずなのだ。
さらに近づこうと、茂みからそっと様子を伺う。
エーデルさんとアリーセさんも続こうとしたが、はた、と足を止めた。
どうしたのか、と振り返れば、2人共首を横にふる。
「ダメだわ・・・。これ以上近づいたら、結界に触れてしまうの」
「僕たちの存在に気づかれる」
そういえば、エルフとゴースト避けの結界を張ったとアイリスが言っていた。
そうなると、この場で気付かれずに近づけるのは、私だけなのだ。
不安と緊張で胸がいっぱいになるが、師匠を助けられるのは、私しかいないのだ。
「分かりました。私とアルノーさんで、アイリスの魂とアリーセさんの身体を引き剥がします」
私が乖離魔法を知っていることに、エーデルさんとアリーセさんは驚いたようだったけれども、追求はしてこなかった。
呑気にお喋りしている場合ではないと思ったのだろう、ひとつ頷いただけで、黙りこむ。
一方、花畑では私が丁度、時送りをされたようだ。
「あらぁ。お得意の時送り?ま、あんな子いてもいなくても良いんだけどねぇ」
「・・・っ」
「さぁ、アルノーを返してもらうわよぉ」
師匠はしゃべることも出来ないのか、口を小さく動かしただけで、地面に頭を伏せてしまう。
どうやら、意識を失ってしまったようだ。
アイリスが、師匠に近づく。
(いくよ)
小さく、アルノーさんが呟いた。
光の軌道が、アイリスの立っている場所に浮かび上がる。
驚いた彼女は辺りを見回すが、すでに陣は完成していた。
私は祈るように両手でスノウの羽根を握りしめる。
「相交わる自然の理、解きて別離の道を辿れ!」
いつか、ティロに見せてもらったメモに書いてあった呪文。
アイリスがアリーセさんの身体を奪った時に使った呪文。
そして、彼女がアルノーさんを失う原因になった呪文。
その呪文を、私は口にする。
青い羽根が、一際、強い光を放った。




