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魔法使いと私  作者: りきやん
ずっと一緒にいたいのです

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135/156

14

「アルノー・・・?アルノー、よね?」

「Doha'z ohwwlu? P...P..P iljvtl obthu?」


師匠の口から、唸り声が漏れる。

龍語だ。

私には分からないはずの言語だが、師匠が戸惑っているということだけは確かに伝わってきた。


「嘘・・・あの、ドラゴンが・・・」


さすがに聡いだけあって、アイリスもすぐに現状を飲み込み始める。

呆然と見開かれていた目が釣り上がり、体が怒りに震えていた。


「カナヘビ風情が・・・っ!」


けれども、その怒りはお門違いも良いところだ。

そもそもの原因はアイリスが、アルノーさんに乖離魔法を使おうとしたせいなのだから。


心の何処かで、いい気味だ、とアイリスを嘲笑う自分がいる。

アルノーさんを奪われ、絶望する彼女を見て、仕返しが出来たような気になったのだ。

私は、なんて嫌な奴なんだろうか。

アルノーさんが、リュルザを助けるために犠牲になったというのに。

目の前に見慣れた師匠の姿があることを喜ばずにはいられない。

そして、怒りと悲しみに苦しむアイリスを、嘲笑わずにはいられない。

本当に、最低だ。


「アルノーの身体を返して!」


師匠を攻撃しようと、アイリスが詠唱を始める。

私は咄嗟に、それを阻止しようと手を伸ばした。

ここで、拘束呪文が使えれば良いのに。

そう思った瞬間、しゅるしゅるとアイリスの体にツタが巻き付く。

その様子に我が目を疑った。


「嘘・・・?」


アイリスがハッとした様子でこちらを振り返る。

初めて私を視界に入れたように、その目が細まった。


「大した魔力もない子だと思ってたけど、そうでもないのかしらぁ?」


アイリスは小さく呪文を唱えると、ツタをいとも簡単に切り裂いてしまう。

てっきり、襲いかかってくるかと思われたが、アイリスはこちらをひと睨みしただけで、未だに茫然自失としている師匠に視線を向ける。

師匠が、アイリスに捕まる。

そう考えれば、身体は臆することなく動いた。

何も考えずに私はアイリスの足に手を絡め、歩行を妨げる。


その瞬間、めまぐるしく情景が流れていく。

いつもの白昼夢かと思えば、それとは違い、アイリスの記憶が断片的に頭に流れ込んできた。


『アルノー、大好きぃ!』

『オレもだよ、アイリス』


幼い子供たちが、純粋な感情を素直に口にする。

お互いに抱き合う姿を、近くにいた年配の夫婦が微笑ましそうに見つめていた。

孤児のアイリスは、ブルーゲル家でアルノーさんと兄妹のように育ったのだ。


『ねぇ、アイリス。その語尾を伸ばすしゃべり方やめたら?』

『えぇ、なんでぇ?』


アルノーさんに注意されるのを、嬉しそうに聞くアイリス。

構ってほしいから、語尾を伸ばすしゃべり方をやめなかったことに、アルノーさんは気づいていない。


『アルノー、私だけは、何があっても側にいるからねぇ』

『げほっ・・・ごほっ・・・ありがとう、アイリス』


ベッドに横たわり、弱々しく手をの伸ばすアルノーさん。

両親に先立たれた直後に発症した、不治の病。

奇病を持つ彼は、周囲に嫌われ、孤立した。

そして、いつしか孤児のアイリスにはアルノーさんしかいなくなり、また、病気のアルノーさんにはアイリスしかいなくなった。


『嫌・・・アルノー・・・嫌・・・死なないでぇ』


アイリスには、アルノーさんしかいなかった。

私に師匠しかいなかったように、彼女にとっては、アルノーさんが全てだった。

血を吐くアルノーさんを、真っ青になったアイリスが見つめている。


『アルノー、私、あなたの病気を絶対に治してみせるから』


病気の治療のためにアイリスが魔法の開発に専念する。

アルノーさんが少しでも、良くなるように、療養を勧め、2人は離れて暮らすことになった。

そして、アイリスは宛のない旅に出る。


『どうして・・・どうして上手くいかないの・・・』


アイリスは思いつく限りの実験を行い、治癒魔法を開発した。

けれども、そのどれもがアルノーさんの病気を治すに至らない。

そして、治癒魔法の術構成には、外傷を治す術式しか存在しないことにアイリスは気づいた。


『魂と肉体が別物であることを証明できれば』


治癒魔法では、アルノーさんを治すことができない。

それに気づいたアイリスは、別の方法を思いつく。


『ごめんね。ごめんねぇ・・・』


抜けなくなった語尾を伸ばす言葉遣い。

今は、それを注意してくれる人も隣にいない。

実験に使ったルーニーラビットたちを、埋葬しながら啜り泣く声が響き渡った。


『・・・アルノー』


死に纏わる魔法の研究を進めるには、代償がつきものだった。

いつしか自身の身体にも呪いが刻み込まれ、それはゆっくりと、だが確実に肉体を蝕んでいく。


『私には、彼しかいないの。彼と一緒に生きていくためなら、なんでもやるわ』


実験が上手くいかない。

思い通りに、ことが運ばない。

アルノーさんを失ってしまうかもしれない、という恐怖が焦りを生む。

そして、狂気が、アイリスを取り込んだ。


『悪いわねぇ』


いつしか、死を見慣れすぎた彼女は、無感動になっていた。

アルノーさんの生死以外に、頓着することがない、無情な人間へと心が変化していく。

アイリスは、全てを捨てても、アルノーさんと一緒に居ることを望み、選んだ。


そう、いつかの日、私が両親と共に歩む道を捨て、起こるはずの不幸に目を瞑り、師匠と一緒に居ることを望み、選んだように。


「この小娘が・・・っ!」


視界に入ってきたアイリスが、ヴァンパイア特有の牙を剥き出しにして唸っている。

噛まれる、と身体を起こした瞬間、聞き慣れた師匠の声がした。


「リザ!」


身体にツタが巻きつき、アイリスから引き離される。

そして、驚く程、大量の草木が私とアイリスの間に壁を作った。

後ろに引きずられ、衝撃に尻もちをつけば、伸びてきた手が私を引き寄せる。

見上げれば、ずいぶんと憔悴した様子の師匠が視界に飛び込んできた。

我に返った師匠が、私を助けてくれたようだ。


「ペンダントを!」


私が何か言う前に、師匠が首にかかっていた鎖を引っ張る。

服の中から飛び出した緑色の石を、師匠は手に取ると、そのまま口に含む。

そして、がきり、と鈍い音を立たせて、噛み砕いてしまった。

私は思わず悲鳴をあげる。


「何を!」

「すまない・・・けど、魔力がコントロール出来ない今、直接魔石を体内に取り込むしか・・・!」


よく見れば、師匠の周りの地面から、植物が芽吹いては花を咲かせ、次々と枯れている。

500年後まで残っている不思議な花畑は、魔力の暴走が招いた現象だったのだろう。


石が半分砕け散ってしまったペンダントが胸元に戻ってくる。

苦しそうに師匠はそれを飲み込むと、ぎゅ、と私に回していた手に力をいれた。


「アイリスがあの壁を破らない内に・・・」

「どうするつもりなの?!」

「永久なる時よ、我は命ずる。この者を導き、元の時代へ連れ帰れ」


ざわりと、肌が粟立つ。

ぎゅ、とお腹の内側が引っ張られ、自分の体がくしゃくしゃに丸め込まれるような感覚。

私は知っている。

これが、時送りなのだ。


「・・・っ!」


伸ばした手が、自分の身体についているのか分からない。

白い光が広がり、視界が染まる。

その端に、騒ぎを聞いて駆けつけてきたアリーセさんとエーデルさんを見つけた。


「また会おう、リザ」


そして、私のことを金色の双眸でじっと見つめて微笑む彼の姿を最期に、全てが消えてなくなった。

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新作「グレーテルと悪魔の契約」
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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