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方法は分かったものの、どうやってリュルザに提案したら良いのだろうか?
ここ最近、疲れているのか、昼間はアルノーさんの隣で眠っていることが多い。
今も、なけなしに生えている草花の上で大人しく丸まっていた。
ここ数日は近くに散策に出かけていたスノウも、今日は大人しく私の頭の上に鎮座している。
彼女は彼女で、帰る方法が無いのか、辺りを見て調べてくれていたようだ。
けれども、収穫は無かったらしい。
こうなったら、素直にペンダントを見せて、呪い晒しを掛けてもらうのが1番だが、何の前置きも無しに見せれば、リュルザに不審がられるかもしれない。
「どうしたの、難しい顔して」
つん、と眉間を突ついてきた犯人を見上げる。
穏やかな笑顔を浮かべて、アルノーさんが立っていた。
夕日の光が、その金髪に反射して美しく輝いているものの、具合があまり良くないのか、顔色は青白かった。
「大丈夫ですか?」
「オレのセリフだけど」
「だって、顔が真っ青ですよ」
「何か悩んでたみたいだけど?相談に乗ろうか?」
さっくりとスルーされるのにも、もう慣れた。
具合が良くないのは、きっと本人も分かっているのだろう。
隣に腰をおろしたアルノーさんに、私は仕方なくエーデルさんから言われたことを話す。
あぁ、とアルノーさんは驚きもせずに相槌を打った。
「エーデルもそう考えてるなら、出来そうだね」
「エーデルも?」
「オレもそう思ってたし。まぁ、リュルザに見せるのは反対だけどねぇ」
「ですよね。やっぱり、自分に似た魔力の道具を持ってたら、怪しみますよね」
「違う違う」
アルノーさんは、からからと笑う。
「最初はそう思ってたけど、今はね、リュルザが君を帰すのを悲しむだろうからさ」
「・・・ん?」
意味が分からず首を傾げれば、お馬鹿さんだなぁ、と呟いた。
・・・最近、アルノーさんの私に対する遠慮がなくなってきている気がする。
「今、疲れて眠っているのも、君を返すために時送りの練習をしているからなんだけど」
「え?!」
「やーっぱり、気づいてなかった。時魔法って死ぬほど魔力使うから、リュルザもへとへとなんだよ」
「そんな・・・知らなかった」
「ま、そんな訳で、まだまだ時間がかかるし、君と過ごす時間にも余裕があるだろうと思ってたところに、すぐに帰れるアイテムが現れたんじゃねぇ」
ますます、リュルザに言い出し辛い。
昼間も夜も眠っている時間が多いとは思っていたけれど、私の為に時送りの練習をしてくれていたんだ。
胸の内から熱いものが込み上げてくる。
駆け寄って、抱きしめたかったが、疲れて眠っているリュルザにそんなことをするのは憚られた。
黙ってじっと見つめていると、丸まっている彼の翼が、ぴくりと動いたような気がする。
夢でも見ているのだろうか?
「怪しんだりは、しないんじゃないかな」
真剣な声音で、アルノーさんが言う。
師匠とそっくりな声に、ふるりと身体が震えた。
「どんな形かは知らないけど、そのペンダントは、未来で、リュルザとリザが出会うという証拠なんだから」
ふわりと微笑んだアルノーさんの顔を、見ることができない。
そう、私はきっと出会うという選択肢を取るのだろう。
両親と過ごす時間を手に入れられるはずの選択肢を蹴った時のように。
助けられるはずの人たちを見捨てて。
「さ、暗くなってきたし、そろそろリュルザを起こして、戻ろ・・・あれ?」
ぐ、と伸びを途中でやめて、アルノーさんが眉根を寄せて一点を見つめる。
それに倣うように視線を向けた先には、黒いざんばら髪の女性がいた。
大きく開いた胸元には、複雑な文様の魔法陣が描かれている。
嬉しそうに笑った彼女の口元に、ちらりと八重歯が覗いた。
しずしず、と歩きながら確実に近づいてくるその姿に、雷に撃たれたように私の身体が硬直する。
「誰だろ?」
「アイ・・・リス・・・」
「アイリス?あ、もしかして、リザの知り合いのアイリス?」
「違う・・・アイリス=グレイ」
「え?」
私は頭の上でくつろいでいたスノウに、胸ポケットに隠れるように促す。
尋常じゃない空気を察したのか、彼女は文句を言うことなく従ってくれた。
アルノーさんは意味が分からない、というように首を傾げる。
「そろそろこっちに来るとは言ってたけど…オレの知ってる姿とは違うな。とりあえず、リュルザを起こそうか」
なんてマイペースなんだろうか。
私には、あの女は恐怖の対象でしかないのに。
アルノーさんにとっては、どうということもないのだろうか?
いつもと変わらない態度で、リュルザに手を伸ばすアルノーさんが、怖いような、憎いような、複雑な気持ちに駆られた。
「リュルザー!」
「うるさい、起きている」
目を覚ますように、ふるりと頭を振って、リュルザが答える。
ゆっくりと身体を起こして、そして、警戒するように、アイリスを睨みつけた。
「誰だ?」
「知らない。リザがアイリスだって言うんだけど」
「お前の幼馴染みのか?」
「たぶん」
最早、目の前と言える程、近くに来たにも関わらず、女は何も言わない。
アルノーさんは、彼女を上から下まで眺めると、戸惑いながらも尋ねた。
「えっと、君、アイリスなのかい?」
「アルノー・・・アルノーなら、気づいてくれると思ってたわぁ!」
がばっ、という効果音と共に、女がアルノーさんに抱きつく。
驚いてよろけたものの、しっかりと踏みとどまったアルノーさんは、彼女の背中に腕を回した。
「その話し方、やっぱりアイリスなの?」
「そうよぉ!会いたかったぁ!」
「オレもだよ!研究が一区切りついたって手紙を貰ってから、会えるの楽しみにしてたんだ」
なぜだろう。
この女は、私の両親の敵なのに。
こんなにも、幸せそうな笑顔で、アルノーさんに抱きついているなんて。
どうして、そんなことが許されるのだろうか?
「あのねぇ、アルノー!前に言っていた、ゴーストの存在証明、完成したのぉ!」
「本当に?!すごいじゃないか!さすがアイリス!」
偉い、偉い、と言いながら、アルノーさんがアイリスの頭を撫でる。
その仕草に、嬉しそうに擦り寄るアイリスを見て、手が震えた。
幸せそうに笑う彼女が、許せない。
許したくない。
「リザ?」
その様子に気づいたのか、リュルザがピタリ、と身体を手に寄せてくる。
ひんやりとした鱗が、高ぶった感情を抑えてくれる気がした。
「なんでも、ないよ」
「震えているようだが?」
「大丈夫だから」
「もしかして、リザは…やはり、アルノーのことが・・・」
そこまで言って、リュルザは口をつぐむ。
アルノーさんが何だというんだ。
最早、外野と化した私達を余所に、目の前の2人の会話は進んでいく。
「でも、その格好はどうしたの?もしかして、悪いことでもして変装でもしてた?」
「え・・・あ。うん、そんなところよぉ」
「しっかし、魔法で姿を変えることも出来るなんて、もしかしたら、リュルザも人間の形を取れる日も近いんじゃないか?」
「違うの、アルノー。魔法じゃないの」
「何がだい?さ、早く元の姿に戻りなよ。ここなら安全だし。それに、アリーセとエーデルにも紹介しなくちゃ。あ、そうそう。後ろにいるのはリュルザとリザって言って・・・」
「戻れない…戻れないのよ!アルノー!」
しん、と森の中が静まり返る。
驚いたアルノーさんが、アイリスに回していた手をほどいて、彼女の肩を掴んだ。
普段、飄々とした態度のアルノーさんが、珍しく焦っている。
「どういう意味だい?」
「魂の存在を証明することで、身体を、器を入れ替えることが可能になることを発見したの」
「嘘だろ?それって、君の、魂を・・・」
「そうよ。他人の身体に、移し替えたの」
そう言って、笑ったアイリスの頬には涙が流れていた。




