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アルノーさんとリュルザは、毎日外に出ては植物の実験を繰り返している。
つい先日、寝込んでいたばかりだというのに、アルノーさんはどれだけ注意しても聞いてくれない。
たまに、うわぁ!とか、しまった!とか、悲鳴が家の中まで聞こえてくる始末だ。
アルノーさんが元気でいてくれれば良いと思う反面、アイリスのことを大切にしている彼に複雑な思いばかりが募る。
そして、アイリスにとっても、アルノーさんは大切な人物のはずだ。
もし、彼が死んでしまったのなら、アイリスにとって、どれほどの打撃になるのだろうか。
私から奪い取ったように、アイリスからも奪い取れたら、良い気味だと笑えるのだろうか。
救いの無い仄暗い願望が、じりじりと胸の内でくすぶっている。
想像するだけにしても、あまりにも酷い内容に、自己嫌悪に陥ることも多くなった。
その一方で、アリーセさんとエーデルさんは、私が知っている彼女たちと同じく、子供たちの世話に追われていた。
「ねぇ、リザちゃん。リザちゃんは好きな食べ物とかある?」
午後の日差しを浴びながら、最早、日課になってしまった、じゃがいもの皮剥きの最中に、アリーセさんに問いかけられる。
一体どうしたのだろう、と思いながらも、真っ先に浮かんできた食べ物を伝えた。
「ショートケーキが好きですけど・・・」
「ショートケーキ?」
「はい、ショートケーキです」
「それって、どんな食べ物?」
なぜ知らないのか、と驚きの気持ちで彼女を見つめたが、この時代は食物が貧しいのだった。
私は慌てて説明を付け加える。
「えっと、小麦粉、バター、卵、砂糖、生クリーム、いちごを使う食べ物で、お菓子の一種です」
「それだったら、なんとか手に入りそうね」
「え?」
「好きな物を食べたら元気が出るかな、と思ったんだけど・・・。どうかしら?」
自覚はなかったものの、傍目から分かるほど気落ちしているように見えたのだろうか?
「そんなに落ち込んでいるように見えます?」
「えぇ」
間髪入れずに肯定されて、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
こんなにも、親切にしてもらっているというのに。
「あの、ありがとうございます。でも、私は元気ですよ!」
へらっと笑顔を浮かべれば、アリーセさんはより一層困った顔をした。
「無理に笑わなくても良いのよ。何があったか詳しくは分からないけど、いきなり時送りなんかされたら、私だったら絶対に落ち込むもの」
「アリーセさん・・・」
私は口角を下げると、重くため息をつく。
帰り方が分からないのはもちろん、アルノーさんとアイリスのことが更に負荷をかけてくるのだ。
きっと、今、この場で元の時代に帰っても、私は釈然としない気持ちのまま、今後を過ごすことになるだろう。
とは言え、面倒を見てくれているアリーセさんたちに、気を使わせるなんて、あってはならない。
「ごめんなさい。こんなに良くして頂いているのに」
「仕方ないわ。わからないことだらけで、不安でしょう?」
「はい・・・。でも、アリーセさんたちがここに置いてくれたこと、本当に感謝してるんです。自分で言うのもなんですが、かなり怪しい人間だったのに」
「そのことなんだけど・・・」
じ、とアリーセさんの視線が私の胸元に注がれる。
「あなたから、リュルザの魔力を感じたのよ」
「リュルザの?」
「えぇ。その胸元にあるものよ」
指を差された先には、師匠にもらったペンダントがあるだけだ。
私はどきりとして、胸元のそれを服の上から握りしめる。
「でも、これは私が師匠から貰ったもので・・・」
「見せてもらえるかしら?」
言われて、一瞬どうしようか迷ったものの、大人しく首からはずし、アリーセさんに手渡す。
師匠の髪色と同じ深緑の魔石が、光を浴びて美しい輝きを見せた。
裏面を眺め、表面の石をなぞり、鎖を指で辿ったあと、アリーセさんは私にペンダントを返してくれる。
「どうでした?」
「少し混じり気があるけど、リュルザの魔力にそっくりなのに変わりはないわね」
魔力が、似ているだけなのだ。
似ているだけで、本人ではないのだから。
けれども、先日から浮かんでいた疑問が、より色を濃くする。
それは最早、確信に近い確固たるものに変わっていた。
「あの、アリーセさん。そっくり、ってどういうことですか?魔力が似ることなんて、あるんですか?」
「少なくとも、ドラゴンの魔力に似てるなんて、人間ではほとんど無いわね。あなたの師匠ってどんな方なの?」
私の師匠。
魔法が得意で、きっと、知らないことなんか何もないに違いない、凄い人。
でも、私をいじめるのが何よりも大好きで、性格はねじ曲がっているけれど、困ったときは絶対に助けてくれる。
そして、リュルザのように深緑の髪、そして、金色の双眸を持った人。
それから、無表情のときのアルノーさんにとても似ていて、最初は彼を師匠だと思ったのだ。
点と点が、線で結ばれる。
もう、目を逸らし続けることはできない。
「師匠は・・・」
ごくり、と唾を飲み込む。
「師匠は、アルノーさんとリュルザを足して、2で割ったような・・・」
「アルノーとリュルザを?」
「いえ、融合魔法を掛けたような・・・人、です。」
アリーセさんが、息を飲む。
今までの師匠の言動、トリス君やナナちゃんへの対応、アルノーさんそっくりな姿に、龍語を話せる知識。
いつまでも見えないふりをする訳にはいかない。
認めなくてはならない時が、来たのだ。
どこかで、アルノーさんがリュルザと自身に融合魔法をかける未来を。




